道具、ユニホーム揃わずとも出場OK 特別な少年野球大会が23年も開催中
T&Sドリームキッズ
野球人口減少がささやかれる昨今の野球界。いかに後世に野球という文化を残していくかというのは、野球界の抱える課題の1つだ。スポーツメーカーのミズノ株式会社は、「MIZUNO BASEBALL DREAM CUP Jr. Tournament」と銘打って、少年野球を対象とした大会を開催することで、試合を通じて多くの子どもたちに野球の楽しさを伝えようとしている。
この大会は2022年に第1回大会が開催され、2023年も現在、全国各地で大会を開催中。12月に甲子園で開かれる全国大会FINALラウンドに勝ち進むため、ひとまず7月に開催される全国大会熊本ラウンドを目指している。
他の大会と一線を画すのは、独自のルールである。
ユニホームが不揃いだったり、着用していなくても選手たちは出場することが可能で、チームも合同チームを編成したり、運営側も道具の貸し出しをするなど柔軟に対応している。試合ルールもリエントリー制度を採用するなど、他にはない大会形式にすることで、多くのチーム、子どもたちに出場のチャンスを作っている。
19日に滋賀県で行われた水口少年野球団との試合を戦ったT&Sドリームキッズは、まさに大会の理念を象徴するチームだった。
普段は野球はもちろん、サッカーや体操といった競技のスポーツスクールとして、様々な子どもたちが参加している。19日の試合にはベースボールスクールに参加している子どもたちで大会に出場した。
ベンチを見てもユニホームは様々
普段はチームとして活動をしているわけではないため、統一されたユニホームはなく、なかにはジャージーで参加している子どもの姿もあった。指揮官を務めた隠岐監督いわく「スクールの理念が一致していた」と大会出場を決意。道具もヘルメットやキャッチャー防具、さらにバットも一部ミズノから借りて参加した。「(道具を借りられたのは)ありがたかった」と隠岐監督は話した。
今大会は「野球を楽しむことが大事だったので、ポジティブな気持ちでプレーしてもらいたかった」。自身も野球の経験があったからこそ、試合では「ごめん」といったネガティブな言葉を使わないようにして、できるだけ野球の楽しさを伝えたかった。
隠岐監督もベンチで子どもたちと一緒に楽しんでいるのが印象的で、「ミスを怒らず、みんなで助け合う」というコンセプトのもとで掲げられた5つの約束事を体現しながら、楽しさを伝えようとしていた。
すると、子どもたちも隠岐監督に引っ張られるようにベンチでは笑顔が溢れていた。表情を見れば、野球を夢中に楽しんでいたのがすぐに分かった。事実、主将を務めた山本くんに話を聞いても「試合に負けたのは悔しかった」と話したが、続けて「今日は楽しむことがテーマだったので、楽しくプレーできた」と笑みがこぼれた。隠岐監督、そしてこの大会のコンセプトは少なからず伝わっていた。
得点が入って大盛り上がり
試合は3回に1点を奪ったものの、1対9の4回コールドで敗れた。ただ試合後のミーティングの話に耳を傾けていたら、「1点取れたことに価値がある」と隠岐監督が話しているのが聞こえた。
たしかにわずか1点だが、試合経験が少ないT&Sドリームキッズの子どもたちにとっては、大きな成功体験だ。この経験を通じて、「もっと野球が上手くなりたい、野球をやりたい」という子どもたちが全国各地で少しでも増えれば、大会の開催意義は十分果たされたといっていい。
その答えはずっと先だろうが、続けていれば結果が出ると、子どもたちの笑顔を見て信じたくなった。