村上、山下は筒香級?!高卒ルーキーのファーム成績から見るプロスペクトたち
高校時代の村上宗隆、山下航汰
いよいよ開幕する2020年のプロ野球。今年は異例尽くめのシーズンとなりそうだが、ファンとしては気になるのが若手の台頭だ。古くは清原和博、近年では藤浪晋太郎のような超特A選手以外は、基本的にルーキーイヤーはファームで育成される。そこで今回は過去3年間のファームでの高卒ルーキーの成績を紐解き、今年、あるいは近い将来、一軍でのブレイクに期待がかかる若手選手をピックアップする。
筒香級の成績をマークした村上、山下
今回は2017~2019年の高卒ルーキーで、規定打席に到達した選手に絞って、そのOPS(On-base plus slugging:長打率と出塁率を足したもの)を比較した。対象となったのは15人。ドラフト1位から育成指名、甲子園で活躍した選手から未出場の選手まで、そのバックグラウンドは多岐に渡るが、まずはその結果をご覧頂きたい。
村上宗隆(九州学院)と山下航汰(健大高崎)の成績が秀でていることが一目でわかる。2018年の村上はイ・リーグで打率.288、17本塁打、70打点、長打率.490、出塁率.389(1位)を記録。その翌年には一軍で36本塁打と鮮烈な活躍を見せた。高校時代の実績や知名度では、同世代の清宮幸太郎(早稲田実業)、安田尚憲(履正社)らに一歩リードを許していたが、プロでは完全に逆転して見せた。今季はスワローズの若き四番として、チームを引っ張っていく存在となりたい。
その村上と同水準の成績を残したのが、昨年の山下だ。打者としてのスタイルこそ違えど、打率.332(1位)、7本塁打、40打点、長打率.489、出塁率.378は遜色ないと言える。夏場には支配下登録され、一軍昇格。9月にはプロ初安打もマーク。高校通算75本塁打を放ち、ドラフト上位指名もあると言われたほどの逸材で、育成指名だったのが不思議なほどの成績を残した。今季は坂本勇人以来の10代開幕スタメンも視野に入れるなどブレイクが期待されたが、5月に右手有鈎骨を骨折、全治1~2ヵ月とされている。ちなみに、過去には原辰徳、中村紀洋、中田翔らもこの有鈎骨を骨折するなど、「強打者の証」とも言える故障の一つでもある。今季後半、もしくは来季のブレイクに期待したい。
この2人以上の成績を残したのが、今季からタンパベイ・レイズへと移籍した筒香嘉智だ。ルーキーイヤーの2010年に打率.289、26本塁打(1位)、88打点(1位)、長打率.502、出塁率.333と圧倒的な成績を残した。3人のルーキーイヤーの安打ポートフォリオをまとめると、いかに筒香が凄まじい成績を残したかが分かる。安打数も本塁打数も、二人を圧倒しているのだ。
その筒香でさえ、一軍での二桁本塁打到達は3年目、ブレイクを果たしたのは5年目のことだった。以降の活躍は誰もが知るところだが、2年目にして一軍で本塁打王争いを繰り広げた村上の凄さが、改めて分かるだろう。 村上は筒香に似たスラッガータイプだが、山下の打者としての完成形は、中距離打者寄りと言えるかもしれない。
今季ブレイクの期待がかかる坂倉、安田、細川
続いて、OPS0.600~0.800の選手たちを見ていこう。今季で4年目の坂倉将吾(日大三)、今井順之介(中京)、細川成也(明秀日立)、鈴木将平(静岡)、3年目の安田、西巻賢二(仙台育英)、2年目の濱田太貴(明豊)、林晃汰(智辯和歌山)と、高校時代からのスラッガーが名を連ねる。
広島の坂倉は今季、第二捕手として一軍の戦力となることが期待されている。正捕手・會澤翼の壁は厚いが、まずは自身の出番できっちり実績を積んでいきたい。初出場から2戦連続ホームランと鮮烈なデビューを飾った細川。しかし、年々出場機会を増やしているものの、一軍定着には至っていない。筒香が抜けた今季は大きなチャンスとなる。
今井順之介は昨季イ・リーグでOPS.742と着実にステップアップを見せた。まだ一軍での実績は少ないが、6月の練習試合では安打を放つなど、今季に期待がかかる。鈴木将平は0本塁打ながらも、今回挙げた15人では村上、山下に次ぐ出塁率(.364)をマークした。昨年には一軍初ヒット、今年6月の一軍練習試合でも活躍しており、レギュラー獲りに期待がかかる。
安田は1年目にファームの規定打席をクリアし、昨季はイ・リーグで本塁打と打点の二冠王を獲得した。6月16日の練習試合でも逆方向への一発を放っており、一軍でのブレイクが待たれる。西巻はファームで規定打席に到達し、さらに一軍でも25試合に出場するなど充実の1年目だった。昨季一軍では2試合出場に止まったが、ロッテへ移籍し一軍定着を目指す。
濱田はイ・リーグ3位の21二塁打をマークし、チーム2位の372打席に立った。多くの試合に出場する中でOPS.709をマークしたのは、上出来だと言える。林はウ・リーグ3位の19二塁打、同6位の長打率.384をマーク。さらに、9月には月間打率.328、2本塁打、13打点を記録するなど、シーズン終盤に成長を見せた。二人とも近い将来、一軍でのブレイクが期待できる素材だ。
OPS0.6未満でも期待度が高い理由
続いて見るのは、OPS0.600未満だった根尾昂(大阪桐蔭)、宜保翔(未来沖縄)、小幡竜平(延岡学園)、難波侑平(創志学園)、松尾大河(秀岳館)だ。
打撃成績としては決して良い数字ではないのだが、偶然にも彼らは二遊間をメインに守る選手だ。守備の負担も大きい中、高卒ルーキーが、ファームとは言え規定打席に到達したことに価値がある。根尾に至ってはリーグ最多の444打席に立っており、チームからの期待度が伝わってくる。残念ながら松尾は昨オフ自由契約となってしまったが、4人の今後の成長を楽しみにしたい。
将来が楽しみという意味では、今年のルーキーたちも負けていない。石川昂弥(東邦)、森敬斗(桐蔭学園)、井上広大(履正社)、黒川史陽(智辯和歌山)、紅林弘太郎(駿河総合)ら、有望株が目白押しだ。彼ら以外にも、下位指名や育成指名の中から一気に駆け上がる選手も出てくるかもしれない。
今回は高卒1年目での規定打席到達(=経験値)に重点を置き、さらに打撃の指標の一つであるOPSを比較してプロスペクトたちを紹介したが、もちろん選手の評価基準はこれ一つではない。しかし、一つの基準として見れば、未来のスター選手たちの共通点を見つけることができるかもしれない。今回のコラムが、本日開幕するプロ野球を(ファームも含めて)楽しむための一助となれば幸いだ。
データ協力: やきうのおじさん(@yakuunoojisan)
Twitterで野球の分析を行う。本記事のデータはすべて日本野球機構(NPB)のオープンデータを使用。
(記事=林 龍也)
関連記事
◆河野 竜生(JFE西日本) 北海道日本ハムファイターズドラフト1位として 「想い」を持って北の大地へ降り立つ!
◆第79回 社会人野球屈指のスラッガー・今川優馬(JFE東日本)の原点。高校時代の恩師の視点から今川の成長を語る
◆今年の近本枠を狙うJFE西日本・三好大倫(三本松)の強み