各都道府県で夏の代替大会などを模索し始めている中で、高校野球の原点回帰を思う
対抗戦を行っている静岡商(左)と静岡(右)
去る20日に、日本高校野球連盟から第102回全国高校野球選手権大会と地方大会の中止が発表された。ある程度は、予想されていたこととはいえ、やはり正式に発表されると喪失感は否めないものがあったというのは正直なところだ。
ただ、今回の発表があった中で特徴的に感じたのは、「代替大会などの措置については各都道府県高野連に任せる」という形で発表されて、それに対しての素早い対応があったところがいくつかあったところだ。
千葉県などは一早く、8月に代替え大会を開催することを発表した。愛知県も、独自の大会は開催することを発表し、6月になって早々に検討会を行い20日には組み合わせ抽選を行いたいという具体的になっていると発表されている。岡山県も、対応が早く大会の開催を発表した。佐賀県、長崎県、沖縄県などでも大会開催が公表されている。少なくとも、それで選手たちは、前へ向く意識は出来ていかれることにはなるだろう。
今回の対応に関しては、ある程度中止の可能性が予想されていたという背景もあって、各高野連では、その際に対しての対応は事前に考え、話し合われていたというところもあった。東京都なども、夏の大会が開催されたとした場合と、そうではなかった場合を2本立てで並行して検討してきていたようだ。
結果として、夏の大会が中止ということになったのだが、そのことを受けての各地区での代替え大会の提案ということになっていったのだ。まさに、これこそは行政もそうだけれども、今こそ地方自治の独立という捉え方も出来る。
新しい生活様式が問われる社会になっていく中で、高校野球という100年以上の歴史を有する世界でも、新しい大会様式が問われているのかもしれない。折しも、今年の大会から球数制限が導入されたところでもある。もっとも、それの対象となる大会そのものが開催されていないのだから、新時代としての到来は実質据え置きということになってしまった。
今回のコロナ騒動によって、新しい高校野球のあり方を問い直されているような気がしてならない。そんな中で、地方主導の形で運営されていく可能性も出てきた今年の夏の対応が、一つの転機になることもあるのではないかという気もしている。
元々、高校野球は地場に根差したスポーツ文化で、いわば地場産業化してきている要素もある。甲子園という存在によって、それが大きく成長して肥大化していったというように捉えている。
もっと掘り下げて言えば、学生スポーツの原点は対抗戦であると思っている。対抗戦とは、学校の看板を背負って、その名誉の下に、愛校心とプライドを賭けて戦っていくのである。
歴史を紐解けば、かつては官立学校の一高と三高、四高と八高、五高と七高、松山高と山口高などの対抗戦があった。そして、当時の学生たちはその戦いに青春のすべての思いをぶつけ合っていったのである。私学の対抗戦で言えば、早慶戦などもまさにそうだ。対抗戦の発展型として大学のリーグ戦があるのだ。
静岡県などは、その名残というか、今の時期には対抗戦が盛んで静岡商と静岡の伝統の対抗戦をはじめ、浜松、焼津など、それぞれの地域で地元の伝統校同士の対抗戦が多く組まれている。宮城県の仙台一と仙台二の「杜の都の早慶戦」と言われる対抗戦もそうだ。茨城県では水海道一と下妻一の対抗戦がある。鹿児島でも鶴丸と甲南の対抗戦は健在のようだ。そうしたことも一つの文化として定着してきたのだが、それも高校野球が地場に根差して発展してきた背景にあることは確かだ。
今、今回の措置の中で、そうした原点を見つめ直していくことも、一つの機会ではないかという気もしている。もちろん、時代の中で変化し進化していくものもあってしかるべきだし、変化していかなくてはいけないというところもあろう。だけど、根底に流れる心というか精神は不変のものでなくてはならない。
「不易流行」という四字熟語がある。まさに、高校野球も今、今回を機に、変化を求めていくところと、変えてはいけない根幹の部分を見つめながら、新時代に向かっていってほしいと願っている。
今、実は肥大化しすぎた高校野球に対して、その機会を天が与えてくれているのかもしれないと、そんな見つめ直しをしてみてもいいのではないかと思っている。それは、運営する側も、私たちのように伝える側の者も含めて…、ということである。
ただ、現実を見据えると、今後の秋季大会が当初の予定通りに行えるのかという更なる課題にも直面している。現場としては、その対処に追われることになるのかもしれない。
(記事=手束 仁)
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