西尾東・寺澤康明監督「慎重に言葉を選んで伝えないと…」という思い
西尾東高校
「まったく何もやれていません。何もやれません。お手上げです」
電話の向こうでそんな悲嘆の声を上げていたのは、今や西三河の雄と言われている西尾東の寺澤康明監督だ。
西尾東は記念大会だった一昨年の東愛知大会では決勝進出を果たして、甲子園まであと一つというところまで上り詰めた実績がある。さらには、その年の秋季愛知県大会でもベスト4にまで残った。ここ8年で、3度も夏の愛知大会でベスト4以上に進出している。県内では最も甲子園に近い公立校と言われる位置まで成長している。
今季のチームの選手たちは、1年上の上級生の質が高かっただけに、なかなか公式戦での出場機会を得られなかった選手たちだった。それでも、新チームになってすぐの秋季大会で西三河地区一次予選リーグは全勝で勝ち上がった。そうして進出を果たした県大会だったが初戦で名城大附に敗れてしまった。
それでも、「ウチのチームは試合を重ねていきながら、一つずつ階段を昇っていきながら強くなっていくチームです」と、寺澤監督が常々言っているチームである。それだけに、一冬を越えてどこまで選手たちがどれだけ成長しているのか、それこそ期待に胸躍らせながら迎える春だった。
その矢先の今回の自粛である。
「春になって、冬の間に頑張ってここまで伸びたんだということを見せて欲しかった。親御さんたちからも、いろんな話を聞きますが、3年生にとってはこの夏が集大成です。夏を目指して頑張っていきたい、そういう思いでやってきています。だけど、今は、まったく先が見えません。試合で負けて悔しい思いをさせてあげるのも、生徒の成長になるんだと思っていますけれど、(試合が)やれない悔しさは負ける悔しさの比ではありません」
と、寺澤監督自身も悔しがっていた。
「これから先が(中止も頭に入れながらも)どういう結果になっていくのかは、わかりません。だけど、再開して、最初に生徒たちに会った時に、どういう声をかけてあげるのがいいのか。慎重に言葉を選んでいかないといけないと思っています」
寺澤監督は今、あえて小まめには選手たちには連絡を取らないようにしている。それは、「今年の子たちは、心の強い子たちだから、心配はしていない」という選手たちへの信頼もある。またその一方で、「顔が見えない中で話すことで、一つの言葉を間違った理解をしてしまったりすることもあるといけない」という配慮もあるようだ。
1年生に関しては何人が入ってくるのかということすらも掴み切れていない状態だという。「せめて、ユニフォームの採寸だけでもしておいてあげれば、高校野球への意識が作れたのではないかと思う」と、残念がっていた。
また、寺澤監督自身は、学校では総務主任という役割を担っている。主に、学校行事などの計画や日程を作っていく責任者でもある。年度替わりという時期にこうした事態になってしまい、何度も何度も計画表を作り直すという業務もあるので、午前中は学校で仕事をこなすこともあるという。
「それでも、私たちは教員として続いていくので、まだいいですよ。だけど、選手たちは1年1年ですからね。特に、ウチのような所は1年1年が勝負なんです。その勝負をさせてあげられないというのは…」
と、苦渋の言葉を飲み込んだ。
その言葉から、熱い思いの指揮官の苦悩も伝わってきた。
記事:手束仁
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