広島ドラ1・森下を上回る通算17勝を挙げた田中誠也(立教大)を支えた変幻自在な投球術
田中誠也(立教大)
今年のドラフトで大学生として唯一、ドラフト1位指名を受けたのが明治大の森下暢仁(広島東洋カープ1位 大分商出身)だ。今年の大学選手権優勝を果たし、さらに大学日本代表のエースを任された森下の東京六大学の通算成績は以下の通り。
15勝12敗 264.1回 255奪三振 防御率2.42 勝率.555
実はこの森下よりも通算成績を上回った投手がいる。それが立教大のエース・田中誠也(大阪桐蔭出身)だ。大阪桐蔭時代は2年夏に優勝を経験。そして立教大に進んで、2年春に大学選手権優勝を経験している田中の通算成績は以下の通り。
17勝15敗 306.1回 250奪三振 防御率2.20 勝率.531
と、勝率と奪三振率以外は森下より上回っている。そんな田中は森下のように150キロを超える直球を投げるわけではない。ストレートは140キロ前後と東京六大学の左腕の中でも特別速いわけではない。
それでも現役の東京六大学最多となる17勝を挙げられたのは、巧みな投球術だ。試合前に念入りに研究を重ね、そして試合では打者と対戦して、スイング軌道、ボールの見逃し方を見て、ピッチングの組み立て方を考えていった。
そしてキレの良いストレートを投げるために、親指部分を強くはじくリリースを行い、チームが使用するラプソードで、田中のストレートは2300と驚異的な回転数を誇り、空振りが奪える。さらに2種類のチェンジアップを自在に投げ分け、ハイレベルな打者が揃う東京六大学でも威力を発揮してきた。
ラストシーズンとなったこの秋はリーグ最多の4勝をマーク。六大学最後の登板となった30日の明治大戦では9回裏に登板。二死で森下と対戦する場面があった。森下に安打を打たれてしまったが、盗塁を試みた森下を捕手・藤野隼大が好送球で刺して試合終了。見事にクローザーの役割を果たし、最終戦を飾った。勝利の瞬間、田中は雄たけびをあげながら、藤野と抱き合い喜びを分かち合った。
熟練した投球術で勝ち星を積み重ねた田中は、グラウンド上では笑顔に溢れ、東京六大学野球ファンからも慕われた。
現在、野球界全体で投手の球速が格段に速くなっている中で、田中のようにテクニックで勝負できる投手の存在はとても貴重である。大学卒業後、社会人野球で継続予定を明かした田中は、高校、大学でも成し遂げた日本一の座を狙っていく。