どん底から掴んだ夏切符、最後まで筑陽学園から消えなかった「粘り強さ」
筑陽学園の江口祐司監督
梅雨の気配を一向に見せなかった6月中旬、筑陽学園グランドに訪れた。
選抜甲子園ではベスト8に進出を経験し、夏に向けてより一段と逞しく成長したかに思われた筑陽学園。だが、そこにあったのは状態の上がらない選手たちと、危機感を募らせる指揮官の苦悩の姿があった。
江口祐司監督は、厳しい口調で選抜甲子園後のチームを振り返る。
「選抜甲子園を経験して、我が強くなったり俺には関係ないといった気持ちがよく見られるようになりました。秋まではこんなことまで一生懸命しなくていいだろうということまで、一生懸命やっていました。そんなところが隙に繋がるぞという話をよくしています」
筑陽学園と言えば、どんな劣勢でも相手に食らいついていく「粘り強さ」が持ち味のチーム。しかし、正しく野球と向き合う姿勢を失ったチームからは「粘り強さ」は生まれないと江口監督は言い切った。
夏を直前に、苦境に立たされた選手たち。それでも選手たちの「野球ノート」を覗くと、苦しみ中でも必死に「粘り強さ」を取り戻そうとする姿勢が見える。
主将の江原佑哉は、苦しみの中でも自らを奮い立たせるように心境を語った。
主将の江原佑哉
「選抜甲子園に出場したことで、夏はどこも筑陽を倒しに来ると思います。どんどん攻めてくるチームに対して、自分達を受け身になったら駄目だと思います。どんなに責められてきつい状況であっても、跳ね返すという覚悟を持って戦いたいと思います」
そして7月、江原をはじめとする選手たちの「覚悟」は何とか夏に間に合った。
接戦に次ぐ接戦を勝ち抜いて迎えた決勝戦、筑陽学園は春季九州地区大会王者の西日本短大付と対戦した。
序盤に3点を失い、苦しい出だしとなった筑陽学園。だが、5回に進藤勇也、野田優人の連続タイムリーで2点を返すと、6回には進藤がレフトスタンドへ逆転のツーランホームランを放つ。その後も福岡大真のタイムリーツーベースなどで3点を追加した筑陽学園は、粘る西日本短大付を振り切り2季連続の甲子園出場を決めた。
激戦を終えた筑陽学園。球場は歓喜に包まれたが、それでも選手たちは意外にも冷静だった。
筑陽学園の選手たちにもう慢心はない。彼らが本当の意味での笑顔を見せるとき、それは夏の甲子園で頂点に立ったときのみだろう。その瞬間を楽しみに待ちたい。
(文=栗崎 祐太朗)
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