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町の期待を一身に背負い遠軽高校初の夏の甲子園へ!

2019.05.25

 北海道オホーツクの町・遠軽町。人口約2万(平成31年4月)の町にある遠軽高校は唯一の高校だ。2013年には21世紀枠として選抜出場を果たし、1勝を上げ、近年では2016年秋全道ベスト4に入るなど上位躍進も多い。初の夏の甲子園を目指す同校の取り組みに迫る。

一体感を求めるチーム作りを

 長く北北海道の道立の強豪校として君臨していた遠軽だが、昨秋の新チーム時から体制が一新した。これまで部長だった阿波克典先生が監督に就任した。昨秋はなかなかチームが一枚岩にならずに苦しんだ。秋季大会では初戦で北見工に敗戦。その内容は阿波監督曰く「ほぼ自滅」だったようで、7回まで2対1でリードだったが、8回表に失策が重なり、4点をとられ、2対5で敗れた。

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 大会後、選手たちはミーティングを重ね、また選手同士で役職を決めた。内野リーダー、外野リーダー、整備リーダーなど役職は様々で、その役職に関しては阿波監督はタッチしておらず、選手同士で決めあった。

 阿波監督がテーマにしていたのは一体感だ。

 「古くさい話かもしれませんが、1つになること、1つで行動することを求めました。今年のチームにはそれを求める必要があったんです」

 古典的かもしれない。オフシーズンでは週1回に12キロ走、また50分間走も行った。長距離走を行うと、どうしても遅れてしまう選手がいる。そこで、マネージャーは伴走しながら、なるべく1人にさせないようにした。遅れた選手に話を聞くと、「心の支えになりました」と感謝し、マネージャーも「選手の大変さが分かりました」と語る。

 選手はそれぞれの欠点を克服するために練習を重ねた。主将で強肩強打の捕手として注目される浅野駿吾は打撃ではタイミングの取り方を見直し、キャッチング、スローイング、ストッピングの練習を繰り返した。またセカンドの間村 湧介はフルスイングを信条とする強打のセカンドだが、振り幅が大きいスイングでもインコースを打つための練習を行った。その成果は発揮できており、浅野はオープン戦で打撃好調。間村もオープン戦期間で3本塁打を放ち、他の選手も大きく伸びて、

この春、1年前に敗れた相手にコールド勝ち!

 阿波監督は「今年は初めて沖縄遠征を行ったのですが、そこから非常にまとまりが出てきたように感じました」と手ごたえを感じている。

 充実したチーム状況は取材日の練習を見れば、よくわかる。

 選手同士で話し合い、活気ある雰囲気となっている。その中で、しっかりと締めるのが浅野だ。マネージャーによると、「学校では面白い子なのですが、グラウンドに入ると、しっかりと締めることができていて、キャプテンシーがある選手です」と評価も高い。

 そして、北海道北見支部予選。初戦の相手は最速144キロ左腕・石澤大和擁する網走南ヶ丘だった。石澤は速球だけではなく、130キロを超える高速スライダーを投げ込む投手だ。

 遠軽は昨夏の北見支部予選で網走南ヶ丘に0対1で敗れている。9年連続で北北海道大会に進んでいた遠軽にとっては屈辱的な結果で、何としてもリベンジしたい相手だった。

 遠軽の打者は打席位置を工夫しながら、狙い球を絞り、石澤を攻略。

なんと21安打16得点の猛攻。8回コールド勝ちで勝利を決めた。

 試合後の選手たちの表情はとても充実したものだった。浅野は一体感になって戦えたと語る。

 「ベンチ内でもずっと声を出して、戦うことができましたし、何よりスタンドの応援もすごくて、励みになりましたし、本当にチームが一体となって戦うことができたと思います」

 阿波監督にとっても会心の勝利となった。

 「やはり昨夏、網走南ヶ丘に負けていたので、良い形で勝つことができて良かったです」と振り返った。

 この春、上々の滑り出しを切った遠軽。そして遠軽は遠軽町から大きな期待を背負ってプレーをしている。それについては後編で迫っていきたい。

[page_break:町をあげての助成事業で生徒数も部員数も増加]

町をあげての助成事業で生徒数も部員数も増加

 遠軽町唯一の遠軽高校。遠軽の強さを語る場合、町との関係は必要不可欠である。今回は遠軽町の助成事業に迫っていきたい。これは全国の公立高校、自治体にとっても参考になる取り組みかもしれない。

 遠軽高校は遠軽町唯一の高校ということもあり、非常に期待も高い。読者の皆様にとっては野球部が強いイメージと思うが、実は吹奏楽局も12年ぶりに全国大会に出場するなど、他部活も盛んだ。町は学校に対して、通学・下宿の手当ての補助を行っている。平成27年10月1日に助成事業の要項が発表され、ウェブ(http://engaru.jp/reiki/reiki_honbun/r266RG00001004.html#e000000040)でも掲載。 通学定期券を購入して通学する生徒 購入額の2分の1以内の額、下宿費用は上限3万を負担している。

 町としては年間数千万を負担しているようで、それでもこの事業を進める理由は生徒数を確保したい思惑がある。生徒数を確保することで、それにかかわる教員の確保にもつながり、結果的に教員の雇用につながるのだ。遠軽野球部は下宿生が多く、主将の浅野駿吾も下宿生で、「親の負担が軽くなるので、進学理由として大きかったです」と語る。また浅野だけではなく、「下宿費用の補助は大きかったです」とこの事業で進学を決めた選手が多い。これは野球部だけではなく、他部活の生徒も下宿している生徒が多くなっている。

 また野球部の環境も素晴らしい。全面のグラウンドがあり、外野後方にはビニールハウスの練習場と2013年に選抜出場した際の寄付金で、完成した雨天練習場もある。雨天練習場では、下宿生が使う小さいハウスがあり、そこではマネージャーが補食を作っており、大好評なのは焼うどんと二色丼だという。多くの選手が「いつもおいしくて本当に助かります」と笑顔を見せる。

 さらに遠軽町は強豪校の夏季キャンプの誘致にも積極的で、その1つが横浜隼人。毎年7月末に訪れ、キャンプを行い、遠軽も練習試合を行っている。関東地区で、さらに組織力も、選手の意識も高い横浜隼人との交流は遠軽ナインにとっては大きな刺激となっており、阿波監督は「とてもありがたいことで、その恩返しは結果を残したり、応援してもらえるような人間性を身に付けていかなければなりません」
町の期待に応えられるチーム作りを行っている。

町民の心に響くチームへ

 今年の遠軽はそんな町の期待に応えられる選手が集まっている。捕手としてスローイングタイム1.9秒台の強肩を誇り、好左腕・石澤大和から4打数4安打を放ち、投手としても146キロを計測する主将・浅野、パンチ力溢れるセカンド・間村湧介、広角に長打が打てる強打の一塁手・東海林大貴の3年生に加え、2年生には遊撃手・投手を兼任する市川 竜輝は140キロ台の速球にも対応できる打力を持ち、マウンドに上がれば、最速135キロのストレートと縦スライダーを武器にリリーフとして好投を見せる。市川と捕手としてベンチ入りする楢林 優斗の2人は2017北海道選抜U-15代表に選ばれた実績を持つ選手。

 現在、北見、網走、清里など遠方から来ている選手が多く、それはこれまでの遠軽の野球熱。そして町をあげての助成事業で遠軽でやりたいと強く志望する選手が多く、3学年で51人という大所帯の野球部となった。昨秋、能力は高くても発揮できないチームだったが、この春、いろいろな経験を通じて発揮できるようになっている。

 初戦は実力校・網走南ヶ丘を破った試合内容は見ていた町民にとっては感激の試合内容だったようで、昔よりも遠軽野球部を注目しないといけないという声が多かった。

 それは彼らの実力はもちろん、一体となって戦う姿が町民の心に響いたと思う。

 粒ぞろいの北北海道を勝ち抜くためにさらに鍛錬を続け、遠軽初の夏の甲子園を実現する。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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