張りつめていたものが切れたのだろうか、涙がほほを濡らした。2021年10月17日、札幌ドームのベンチ、日本ハムの斎藤 佑樹投手(早稲田実業出身)が引退登板を終えて、戻ってきた。栗山監督に何か声をかけられた後だった。「佑ちゃん」「ハンカチ王子」と高校時代から時代のヒーローを演じてきたひとりの投手が球界に別れを告げた。2021年、球界がひとつの区切りを迎えた。

 甲子園のマウンドでポケットから右手でハンカチを取り出すと、汗を拭った。さわやかなしぐさにファンは熱狂した。2006年甲子園で春8強、夏優勝。時代を背負った右腕が、98年に「平成の怪物」と言われ春夏連覇した横浜の右腕、松坂 大輔投手と同じ年に引退した。

 「松坂世代」同様、「ハンカチ世代」とも呼ばれた世代は今も球界を背負い続けている。来年は高卒であればプロ16年目、大卒であればプロ12年目となる。年齢でいえば早生まれ以外は34歳になる。ベテランの部類に入りかける世代で、日本プロ野球界をリードしている選手も多い。

 甲子園で優勝を経験したのは2年春が中日・堂上 直倫内野手(愛工大名電出身)。2年夏は楽天・田中 将大投手(駒大苫小牧出身)。3年春は中日・福田 永将内野手(横浜)で、3年夏は斎藤だった。

 その一方、ツインズ・前田 健太投手(PL学園)は3年春4強も夏はいけず、巨人・坂本 勇人内野手(光星学院)、中日・大野 雄大投手(京都外大西)は、ともに3年春に初戦敗退し夏は甲子園に届かなかった。

 さらにはソフトバンク柳田 悠岐外野手(広島商)、レッズ・秋山 翔吾外野手(横浜創学館)、レッドソックス・澤村 拓一投手(佐野日大)は甲子園を経験していない。

 甲子園を経験できなかった「ハンカチ世代」もメジャーも含めて大活躍している。すっかり「主役」を失ったような状態で「ハンカチ世代」という呼び方に違和感を覚えるなか、斎藤引退に触れ、ソフトバンク柳田が言葉を発した。

 「僕らの世代をまとめて言うときは、この先もずっと『佑ちゃん世代』です」

 斎藤が早稲田実業3年夏、田中と投げ合って優勝した甲子園決勝戦の感激はファンのみならず「同級生」の胸も打った。この事実は未来永劫、変わらないのだろう。柳田は斎藤がいたから、追いつき追い越したいと頑張れたのかもしれない。そう思っている選手も多いと思う。

 来季からは「主役」がいなくなるが、「主役」を追い越した仲間たちがこれから「ハンカチ世代」の本当の底力を見せる。