試合レポート

郡山vs関西中央

2011.05.22

郡山vs関西中央 | 高校野球ドットコム

郡山,木下投手(8安打を浴びながらも完封)

遠い、遠いホームベースを目指しての攻防

関西中央 8
郡山   2

上記はこの試合で両チームが放った安打数である。数字を見てもわかる通り、この試合攻めに攻め立てたのは、関西中央
しかし野球はわからない。この試合で唯一ホームベースを陥れたのは、2安打しか放てなかった郡山の方だった。

わずか1点、されど1点。この【1】という数字を巡っての攻防に、机上の計算だけではわからない深さが隠されていた。
安打数の通り、攻めた関西中央
1回は1死から2番伊藤直也(3年)がセンター前へ、2回は先頭の4番田中想至(3年)がレフト前へそれぞれヒットを放つ。だがいずれも併殺でチャンスを逸した。

3回にも先頭の7番竹本郁弥(3年)がヒットを放った関西中央。ここまでの攻撃があったのか、姫嶋裕親監督は、8番西嶋一雅、9番米田晃大(ともに3年)の両打者に連続送りバントという策を使った。2死覚悟で走者を三塁まで送った関西中央だが、ここも郡山先発の木下義将(3年)が1番山口をセカンドゴロに打ち取ってピンチを凌いだ。

4回と5回も先頭打者が出塁した関西中央。それでも得点を挙げることができない。
ヒットは出る。攻撃の形は作れている。でも1点が遠い。


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6回表関西中央 田中の一打で伊藤は本塁を狙うもタッチアウト

では、その遠すぎる1点をどうやって取りにいくのか?

その考えが如実に表れたのが6回表である。関西中央は1死から2番伊藤がセンター前へヒットを放った。伊藤はこれで3打席連続の出塁。打席は3番幸田翔大(2年)。
木下と赤熊亮祐(3年)の郡山バッテリーは当然、伊藤の足を警戒した。1ボールからの2球目、伊藤がスタート切った。この新たな策が見事に決まって1死2塁となった。マウンドの木下は結局、幸田にも四球を与える。

場面は1死1、2塁。郡山・西岡嘉定監督は、ここでこの試合最初のタイムを取って伝令を送った。「練習通り守る」(赤熊主将)と確認した郡山内野陣。
打席は4番田中。その初球、田中が振り抜いた打球はレフト吉田浩紀の前に落ちた。迷いなく三塁ベースを駆け回ったのは伊藤。

しかし吉田の返球がストライクとなり、伊藤は本塁で憤死。さらに「練習通り」と冷静だった赤熊は、二塁を狙った打者走者の田中をも刺すことに成功した。

その遠すぎる1点をどうやって取りにいくのか? 本塁突入という策を取った関西中央の選択は間違いではない。

だがそれと同時に、1点をどうやって防ぐか? を、守る郡山もしっかりと考えられていた結果が、この6回表のシーンとなった。


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郡山 赤熊亮祐主将(4番キャッチャー)

7回裏、今度は攻守所を変える。ここまで関西中央投手陣の前になりを潜めていた郡山打線が、先頭の4番赤熊の四球をきっかけに1点を狙いにいく。
5番佐治大志(3年)の送りバント、6番吉田のこの日チーム2本目となるヒットで1死1、3塁とした郡山。

ここで関西中央・姫嶋監督がタイムを取った。『ここが勝負所』と見ていたのは両チームとも同じ。この間合いで共に様々なことをイメージしたはずだ。
タイムが解けて打席には7番増井悠真(3年)が立った。マウンドは関西中央のエース坂田剛士(3年)。
その1球目、増井はバントの構えを見せてすぐに引いた。そう、ここで郡山が取った策は、スクイズをする〝フリ〝だったのである。
これに同様したのか、坂田はボール先行となり結局増井に四球を与えてしまう。
場面は1死満塁と変わって8番江川直(3年)が打席に立った。

満塁の状況になって郡山陣営はどう攻めるのか?打ってくるのか、それとも別の仕掛けがあるのか?関西中央バッテリーはそれにどう対応するのか?
1球目ファウル、2球目ボール。ともに動きはなかった。

そして3球目、江川はスクイズの構えを見せた。バットに当たった球は坂田の前へ転がり、キャッチャーの田中にトスをする。しかし抜群のスタートを切っていた三塁走者の赤熊は見事に本塁を陥れた。

「準備はできていた。3球目にスクイズのサインが出た」と赤熊。前の打者でスクイズの〝フリ〝を事が見せていたことが、この場面で両チームの明暗となった。

「次(のチャンス)はないと思っていた」と赤熊主将が話す通り、この試合で唯一のチャンスを生かした郡山

一方で8回まで毎回走者を出していた関西中央は、ホームベースが果てしなく遠い試合になった。9回の攻撃はこの試合初めての三者凡退。
準決勝の戦いは郡山に軍配が上がった。

この日の攻防と結果はあくまでも、この試合だけのもの。また夏に対戦することがあっても、同じような状況になるとは限らないし、同じ策をとる可能性は低いかも知れない。
ただ1点が遠い時、どれだけその重みを考え、深く追求するか。そしてどうやってその1点を取るか?防ぐか?それを勉強し、反省する意味では両チームにとって最高の試合になったに違いないといえるだろう。

敗れた関西中央にとっては、『じゃあ、この場面を打者にどう攻めて、どう守れば良かったのだろうか?』ということをこれから考えてほしいし、勝った郡山には『もし、先に取られていたらどう攻めたのか?もし、スクイズを失敗していれば、どうやって点を取るのか?』を考えてみるのもいいだろう。
そうした反省の積み重ねが確実に夏へ繋がると信じて・・・

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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