愛知vs至学館
同点打を打って笑顔の至学館・岡君
お互いが仕掛け合い、最後は本塁噴死で幕
愛知県の私学で有力校というと、大方は専用球場を保有していて、それなりに恵まれた環境があるのではないかと思われがちだが、至学館の場合は当てはまらない。
元々は中京女子大の付属校だったということもあるが、それが共学化されて学校の敷地は狭いが、部活動は盛んということもあって、各部と使いあっているという状況が現実である。
そんな中で、1年生も多く入ってきて100人以上の部員がひしめきあっている状況になっている。その至学館はこの大会で8強進出を果たしたことで初めて夏のシード権を獲得した。
突出した選手が入るワケではなく、選手たちも県内の強豪と言われている学校から声がかからなかったけれども、高い意識で野球をやっていってチームとしてまとまって行けば何とかなるという思いで戦ってきた選手たちだ。
そんな至学館に衝撃が走ったのは、昨年のチームで主軸投手として投げてきた桐林史樹君が、2月に起きた東名高速での玉突き事故に巻き込まれ
亡くなるというアクシデントがあった。将来は野球指導者を目指していたという桐林君は進学先も決まっていたという。一つ上の先輩のそんな事故のショックもあって、麻王義之監督も、「私自身もショックから立ち直るのに時間がかかりましたし、正直チーム作りも遅れました」と言う。
それでも、「そんなに力のある選手が入るワケではないから、粘っていろいろ仕掛けてやれることをやっていかなくてはいけない」というチームの方向性は示すことの出来た試合だった。結果的には、あと一歩及ばなかったものの、9回は先頭の六番手崎君が安打で出ると代走を送り盗塁を仕掛け、アウトになっても次の小関君が左前打。今度もすぐに盗塁を決めると、2死後代打荒木君が中前打すると、二塁から思い切って本塁を狙った小関君が噴死してそのままゲームセットとなった。
結果的には、あと1点及ばなかったものの至学館としては、3点を追いかけた5回にも同じように手崎君が安打して、小関君が続いて好機を作り、四球に相手失策を絡めて1点差とし、二番岡君の右越二塁打で同点とした。ここでも、代打代走を送り、エンドランを試みるなどいろいろ仕掛けていっていた。
愛知中島君
市内大会でも対戦しているなど、お互いの手の内をよく知っている同士でもあり、お互いが仕掛け合い見たいにもなっていたが、愛知も5回には2死から墓越君が中前打で出ると、古田君がエンドランを決めて中前打となるが、わずかにジャッグルしたスキを突いて一気に本塁を突いた。
そして、結果的に決勝点となったのは7回、八番新井君が左前打で出て、バントで二進後、2死二塁からディレードスチールで三塁へ進むと、ワイルドピッチで本塁に帰った。愛知の果敢な走塁やエンドランの仕掛けが、相手に対してのプレッシャーもかけていたのだろうが、至学館の四番手として好投していた岩田君は、自信のある大きなタテのカーブだっただけに、それが少し早く大きく曲がりすぎてしまったことによって、暴投となってしまったのだが、小関君も身体で必死に止めようとしていた。走者三塁でタテの辺中球を使う難しさでもあるのだろうが、岩田君としては三振を取りたかったところだが、それを振らなかった古田君もよく見たといえるかもしれない。
愛知はこの春、名古屋市内地区ブロック予選で中京大中京、愛工大名電、東邦、享栄のいわゆる私学4強を押しのけて1位となった。
かつては、私学5強と呼ばれてその一角に名を連ねていたこともあったが、このところは上位に残り切れないことも多いという印象もあった。それだけに、今大会ここまで進出してきた愛知の伝統の白ずくめのユニホームがちょっと新鮮に映ってしまった。
(文=手束 仁)