2010年07月15日 横須賀スタジアム

茅ケ崎西浜vs鶴見大付

2010年夏の大会 第92回神奈川大会 2回戦
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青木監督(鶴見大付)


創部3年目に得た財産

ゼロからのスタートだった。
女子高から共学になり、3年前に創部。そう書くと野球に力を入れているのかと思われがちだが、部員はわずか6人だった。グランドは内野がやっととれるほどの狭さ。道具もなく、青木康尚監督が現役時に使っていたバットを使用するほどだった。
「オレは野球をやりに高校に来たんじゃない」。
一生懸命やろうとすればするほど、部員が離れていく。創部時の6人は3人になった。神奈川大会に初めて出場したのは、現在の2年生が入学した昨年からだ。
そして、参加2年目の今年。7月13日の1回戦で旭丘を10対1のコールドで破り、待望の初勝利を挙げた。立役者は3人の3年生だった。四番で捕手、主将の高嶋秀人が3安打1打点。入学時100キロ以上あった体重を80キロにまで絞った石動康平は本塁打を放った。センターの関根達也も4回1死一塁から、中前打で二塁をオーバーランした走者を刺した。

敗れたこの日も、青木監督が最後まで褒め称えたのが高嶋。
6点をリードされた6回1死一、二塁では四番ながら送りバント。打ちたい気持ちをグッとこらえ、チームプレーに徹したことが暴投による1点につながった。守備でも、7回無死一塁から相手の送りバントを素早く処理して二塁で刺殺。自慢の強肩を見せた。

実は、高嶋は1年生のとき、野球部を離れたことがある。
部員3人ながら、相手校の好意で初めての練習試合ができることになったときのこと。「試合に向けて、気合を入れていこう」と言ったにもかかわらず、集合時間になっても高嶋がやってこない。青木監督が学校内を見に行くと、女生徒と風船遊びをしていた。翌日からは強制的に朝6時半から練習に参加させた。試合ができる喜びを味わわせてあげたかったからだ。
ところが、週末になり、「さぁ、練習試合」という日の朝だ。青木監督が付属の鶴見大学から借りておいたユニホームを渡そうとしたとき、高嶋が言った言葉が「野球やめます」だった。
あまりの唐突さに青木監督は思わず涙を流したが、本人の意思は変わらない。そのまま練習に来なくなった。だが、青木監督は高嶋を見捨てなかった。何度も何度も説得した。
青木監督自身も、野球から離れた経験があったからだ。
同期の阿部慎之助(現巨人)とともにプレーした安田学園から一浪して日体大に進学。希望を持って野球部に入部したが、想像と現実は違った。あまりのイメージとのギャップに「ここにはいたくない」と退部を決意。1ヵ月はブラブラして過ごした。だが、ヒマがあると河川敷から草野球や少年野球を眺めている自分がいた。「オレには野球しかない」。そう気づくことができたことで、野球部に復帰することを決めた。
あの経験があるから、今がある。
高嶋にはこう伝えた。
「オレも野球から離れた経験がある。お前のことも待つよ」。
3ヵ月後、高嶋は戻ってきた。
見違えるように変わっていた。復帰直後、ティー打撃をすると以前よりスイングがよくなっていた。体もみるみるうちに大きくなり、180センチ、74キロと立派な体格になった。野球から離れた経験が、高嶋を成長させた。小学生のときは休みがちだった子が、練習中にたるんでいるチームメイトを一喝するようにまでなった。
「僕の分身です。練習でも、僕が言わなくても一人でキレたりしていますから」。(青木監督)

野球選手としてはもちろん、人間的な成長。
青木監督はそれがうれしかった。
「高嶋をはじめ、3年生は180度変わりました。入学した頃の写真を見せたいぐらいです(笑)レベル的には、他校なら野球部にも入れないような子たちでしたけど、彼らからは心を感じました。僕も尊敬するぐらい変わりましたよ。僕自身、3年間教えたのは初めてでしたけど、安田学園でコーチをしていたときの選手たちとは比較にならないぐらいの伸び方。ひとつひとつやってきた成果だと思います。やりきれば変われるんだと教えてもらいました」。
学校は決して野球部に協力的というわけではない。
だが、この日はブラスバンドとチアリーダーが応援に駆けつけた。v「彼らが周りの人を動かしてくれた」。(青木監督)
環境は、確実に変わりつつある。
創部3年の野球部は、まだスタートしたばかり。
わずか1勝かもしれないが、それが財産になる。
9人揃わず、野球ができない時期を乗り越え、最後までやりきった3年生の思いを胸に――。
残る17人が、鶴見大附野球部に新たな歴史を刻んでいく。

(文=田尻 賢誉




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