Interview

富山第一高等学校 幸山 一大 選手

2013.09.09

 今夏、2年生ながら4番に座り、富山第一を甲子園8強へ導いた幸山一大。準々決勝で、準優勝した延岡学園2013年08月19日)に惜しくもサヨナラ負けを喫したが、甲子園で見せたその打棒は強烈な印象を残した。
 彼の魅力といえば、191センチという恵まれた体格から放たれる本塁打。黒田監督をもって「天性のスラッガー」と言わせる彼に話を聞いた。

振り込んで筋力をつけていく

富山第一高等学校 幸山一大 選手

――2年生ながら、すでに体が大きいですね。身長は何センチありますか?

幸山一大選手(以下「幸山」) 新聞やネットとかでは191センチと書かれていますが、そこまであるかどうか(笑)

――今、どのくらい食べてるんですか?

幸山 1日ご飯6合を目標にしています。1度に量を食べるのはきついので、完食でおにぎりを食べたり、夜食を食べたりしてます。

――一番好きなご飯のお供は?

幸山 肉ですね。焼き肉です!

――小さい頃から大きかったのですか?

幸山 そうですね。小学校に入学するときから136cmくらいあったんで。卒業するときで180cm。毎年7センチくらいずつ伸びていきました。

――なにか特別なことをやっていたんですか?

幸山 いや、別に特別なことは…。小学2年生から地元でリトル(リーグ)に入って野球を始めたくらいですかね。

――リトルリーグに入ったきっかけは?

幸山 同級生3人で一緒に入りました。入った時は3人の中で自分が一番下手だったんです。でもそのころから体が大きくて、パワーだけはあって。周りの人達からも「身体が大きいんだから、豪快に振っていったほうがいいよ」ってアドバイスももらっていたので、その頃から当てにいくんじゃなくて、しっかり振ることを意識していました。最初は全然当たらなかったんですけど、練習をやっていくうちに当たるようになっていきました。

――その頃からフルスイングが信条だったんですね。幸山選手の最大の魅力はそのフルスイングから生まれる大きな放物線を描いた本塁打だと思います。飛距離を出すために何か意識していることはありますか?

幸山 自分の中では、「筋力」が大事だと思うんですけど、「筋力」だけが全てではないと思うんです。例えば、ボディービルダーって筋力はすごいけど、打たせてみても飛ばないと思うんです。やっぱり飛ばすコツがある。それが何かと言われると、口ではうまく説明できないんですけど…。あんまり筋トレをし過ぎても、逆に固くなってしまう。だから必要最低限のベースとなる筋力をつけるために
筋トレをやりますけど、スイングの邪魔になるような筋肉は付けないようにしてます。

――つまり、振り込んで筋力をつけていく?

幸山 そうですね。「振る体力」っていうんですかね。
重いバットを振っていたら、自然とついてくるものなので。これで振りこんでいます。(マスコットバットと重りを見せる)重りでヘッドを重くして、スイングを大きくするよう意識しています。

――それは黒田監督の教えですか?

幸山 そうですね。調子が悪いときは特に、どうしても相手投手に合わせてスイングしようとしてしまって当てにいってしまうんです。それで、一時期調子を落としていました。当てにいってもダメなので、「(強く)振っていけ。自分のスイングをしろ」とアドバイスをいただいて、「自分のスイングをしよう」と意識を変えたら打てるようになって、そこから調子が戻りましたね。

[page_break:体格を生かし切れない1年生が真の4番へ]

体格を生かし切れない1年生が真の4番へ

――高校進学の時に、進路として富山第一高校を選んだのは?

幸山 中学生の頃に黒田監督に声をかけていただきました。いろいろ考えたんですけど、特進クラスがあって、勉強も野球もできるということで、イチコウを選びました。
文武両道を目指して入ったんですけど、今は野球一筋ですね(笑)

富山第一高等学校 黒田学監督

黒田学監督(以下、「黒田監督」) 中学生の頃に初めて見たんですけど、第一印象は「体が大きいな」ですね。で、私が見に行ったその試合で、左投手から右方向にものすごい打球を打ったんです。「これはすごい打者になるぞ」と思って、声をかけました。彼は天性のスラッガーです。普通の選手が練習してもどうにもならない「放物線」を描ける。これは才能だと思います。

――入部当初はどんな練習をしてきたんですか?

幸山 1年生の時は下半身ができていなくて、フラフラだったんです。下半身ができていないので、スイングもぶれてくるから(バットに当たる)確率も悪くなる。とにかく走りこんだり、下半身強化に取り組んでいましたね。

黒田監督 実際、入学して見てみると体力がなかったですね。190センチの体をコントロールできていない。そこは中学生だなと思いました。
加えて、バットに当たらない(笑)。当たるとすごい打球は行くんですけど、これは少し時間がかかるなと思いました。とにかく下半身を鍛えて足場の筋力を付けさせる練習をさせましたね。

――4番を任されたのはいつからですか?

幸山 1年生で新チームになった秋からですね。プレッシャーは、最初少しありましたけど、今はあんまり意識はしていないです。

黒田監督 昨夏、練習試合で2打席連続で本塁打を打ったことがあって、片鱗(へんりん)を見せてくれました。ただ、ストレートを1、2、3のタイミングで打つことはできても、変化球に対してはもろかった。でも、4番に据えました。体も大きいですしね。それが、昨年11月に健大高崎(群馬)(関連記事:野球部訪問 第99回 高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬))との試合の時に、先方のグラウンドの左中間の一番深いところ、フェンスの奥に防球ネットを超えたところへ満塁本塁打を打ったんです、おそらく130〜140メートルくらい飛んだんじゃないかな。しかも、打った球は変化球。そのあたりから、変化球を打つ感覚がわかってきたんじゃないかな。ある程度、変化球が来るとわかっていれば、軸足で待つことができるようになった。その後、今年の7月の頭くらいからかな。真っ直ぐに対しても、変化球に対しても体が自然と反応できるようになった。県予選の時は、特に状態が良かったですね。甲子園に入って少し状態を落として、強引になってしまうところがありましたが、いいところで打ってくれましたし。

――甲子園では4番らしい働きが印象的でした。

幸山 そうですね。チャンスで打てたのはよかったですね。

――勝負強さだけでなく、場面に応じてチャンスも生み出しました。

幸山 甲子園では延岡学園戦(2013年08月19日)ですね。でも県予選は、返すほうじゃなくてわりとチャンスメークすることのほうが多かったんですよ。つなぐ意識ですね。でも甲子園の時は、「決めてやろう」と意識して立った打席もありました。

――延岡学園との試合では悔しい場面もありました。

幸山 そうですね。一度逆転して、二死、一、三塁で、もう1点取れていればという思いはあります。結果、三振だったので。あの場面でもう1点とっていたらという思いはあります。あの場面で1本でないと本当の4番じゃないと思います。悔しいですね。でもあの場面で打てなかったのは、来年までの宿題と思うようにしています。

――あえて自分で責任を背負い込む?

幸山 2年生で試合に出ていたのは3人。今、富山県中の2年生で夏の甲子園を経験しているのは自分たちだけなので、それを他の2年生や下級生に伝えていくことは、責任だと思います。引っ張っていかなきゃいけないという思いがあります。

――やはり、甲子園での経験値は大きい?

幸山 やっぱり大きな舞台でできるというのはいい経験です。あの人数(観客)の中でプレーすることはなかなか無いので、すごく幸せなことですし。

――甲子園で対戦した投手の中で印象に残った投手は誰ですか?

幸山 みんないい投手でした。真っ直ぐ1つとっても、球の質自体が全然違います。そしてピンチになればなるほど、気迫のこもった球が来る。同じスピードでも威力があるように見えますね。

――自信も付きましたか?

幸山 そうですね。いろんなチームのエースと対戦できて、真っ直ぐを打てたことは自信になったんですけど、逆に課題も見えてきて。やはり変化球への対応というのが課題だと明確に見えたんで。収穫はたくさんありましたね。

――変化球への対応は具体的にどんなところが課題だと感じているのですか?

幸山 自分はインサイドが割と得意なんです。そこに来たボールは速いボールでも変化球でも打てるという自信があるんですが、アウトコース主体に切り替えられると、どうしても苦しくなってしまうという部分がありますね。

――例えばスライダーの出し入れとか?

幸山 そうですね。見極めとか、ミート力だったり。自分の中での課題は山ほどあるので。

――課題を克服すべく、この冬〜春にかけてどんな練習をしていきたいですか?

幸山 下半身と体幹の強化、アウトコースをもっと打てるようにならないとですね。

[page_break:2年生好投手の真っ直ぐだったら打つ自信はあります]

2年生好投手の真っ直ぐだったら打つ自信はあります

――今年の甲子園、地方予選では、多くの2年生が活躍していました。同じ学年として意識した選手はいますか?

幸山 正直、他のチームに興味がないです。自分たちのことで精一杯なので。あんまり「◯◯高校の△△選手がすごい」とか知らないんです。誰がということはあまり意識していないです。ただ、甲子園で活躍した選手はテレビで見るので、やってみたいなぁという投手は何人かいます。

――例えば?

幸山 安楽智大くん(済美)(関連記事:独占インタビュー 第122回 済美高等学校 安樂 智大 投手)、小島 和哉くん(浦和学院)、髙橋 光成くん(前橋育英)…。

――彼らを打つイメージはできてる?

幸山 実際やってみないとわかんないですね(笑)。でも、真っ直ぐだったら打つ自信はあります。あとは変化球を交えた時にどうか…。やはり、全コース全球種打てるかと言われたらなかなか難しいと思うんです。でも自分の得意なコースに来たら1球で仕留める。苦手なコースはどれだけカットして、打てない確率を低くしていくか。やっぱりいいコースに来たらこのクラスのピッチャーはなかなか打てないと思うんで。それを全部打ちに行こうとしたら、かえって自分のバッティングを崩してしまうと思うんです。でも上のレベルにいけばいくほど、失投ってなくなるじゃないですか。球質、キレも全然違う。だからアウトコースを打てるようにならないと通用しないなって甲子園で痛感しました。

――高橋投手とは、国体で当たる可能性もあります。秋の大会に向けて新チームが始動し始めたわけですが、手応えはどうですか?

幸山 甲子園が終わって、始動したばかりなのでこれからですね。いつもなら夏の大会が終わると3年生がいなくなるんですけど、今年は上(大学など)で続けられる人が多いのと、国体もあるので、まだ練習に参加されているんです。だからそんなに変化はないですね。僕らが主体となってやっていかなければいけないのは事実なんですけど。

――新チームでは4番と副キャプテンの重責を担います。

幸山 そんなに強く意識はしていないです。

――新チームの魅力はどんなところ?

幸山 打線ですかね。長打もありますし、1年生の中にも力を持った選手もいますし。この夏、甲子園に行ったチームとは違うチームになると思います。

――秋の大会での目標は?

幸山 やっぱり勝ち上がって春の選抜を目指すことになると思います。秋の大会で結果を残さないと上は見えてこないので。

黒田監督 甲子園の影響で、新チームの始動が他のチームに比べ1カ月くらい遅くなってしまいました。秋の大会は苦しい戦いになると思います。今年のチームに比べ、タレントはやや小粒ですが、でもまた甲子園に行くチームになると思います。幸山はその中でも、もちろん中心にならないといけない選手。期待していますよ。

――周りの高校はみんな「打倒富山第一」で来ると思います。

幸山 そうですね。でもチームが変わってますし、受けて立つというよりは挑戦者の気持ちで臨みたいですね。

――秋の大会に向けての意気込みをお願いします。

幸山 自分が引っ張っていくという意識で打席に立つのと、その上にも行きたいので秋の大会で結果を残して、練習からチームを引っ張っていって、秋勝って、選抜を目指したいと思います。

――最後に黒田監督にお伺いします。幸山選手の将来像についてはどうお考えですか?

黒田監督 足と肩が備わらなければ厳しいということは分かっていますが、「放物線」という一芸は大きな魅力。一芸で興味を持ってくださっているNPBのスカウトの方もいらっしゃいますし、間違いなくプロの素材だと思います。

(取材・編集部)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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