Interview

北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手(後編)

2013.02.20

第130回 北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手(後編)2013年2月25日

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 前編では、技術面を重点的に語っていただきましたが、今回の後編では稲葉選手の思考とメンタルと野球論について、たっぷりと語っていただきました。
 また、前回のWBCでの延長10回で決めたバントの秘話など、盛りだくさん。今年41歳になるベテランプレーヤーの熱い言葉は、高校生の皆さんのハートを揺さぶります。

稲葉篤紀選手のインタビュー前編はこちらから!

第129回 北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手(前編)

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僕を進化させるために大切な考え方

――長くプロ野球界で活躍されている稲葉篤紀選手ですが、そこまで第一線で結果を残すことができるのはなぜでしょう?

稲葉 篤紀選手(以下「稲葉」) 僕自身が、進化しているかは分からないんですけど、色々な選手の打撃の良いところを参考にして、取り入れる工夫はしています。
 この年齢になると、若い時のように動けるわけではないですから、高いパフォーマンスをするために、無駄な動きを省くことを意識します。

――省くということは、よりシンプルな動作を実現しようとされているのですか?

稲葉 そうですね。シンプルな動作を求めて行かないと、対応が難しいんです。相手のレベル、体の状態を考えながら、動作をシンプルにさせる。それが実現できれば、周りがそれを進化と呼ぶと思います。

北海道日本ハムファイターズ
稲葉篤紀選手

――今のそのシンプルな動きというのは、20代の頃には思い描いていた動きでもあるんですか?

稲葉 いや正直、若い時はこの歳までやって、こんな成績を挙げられるとは思わなかったですね。若い時は今もそうですけど、野球が上手くなりたいという気持ちが常にあって、一生懸命やってきた練習が今に生かされているのかなと思います。

――改めて、上達するために大事なものは何だと思われますか?

稲葉 僕は、やっぱり上達するには練習量だと思いますよ。若い時にがむしゃらに練習したことが今につながっています。ただ、選手はすぐに結果を求めすぎてしまう。
 結果が出ないと今までやってきた練習を止めてしまい、すぐに結果が出るような練習を求めていく傾向をとても強く感じます。若い人は結果を求めることも大事なんですけど、それよりも長い目で見て、何年後かを見据えてやっていくことが大事で、長く現役を続けられる要因のひとつかなと思います。

――毎日の振り返りも大事だと思いますが、稲葉選手は、どのようにして振り返っているのでしょうか?

稲葉 試合の反省をするのは、お風呂に入って考えることが多いですね。練習の振り返りも大事だとは思いますが、高校の時はヘトヘトになるまで練習をすることも必要かなと思います。

――高校の時にやった練習が今も生きているということはありますか?

稲葉 “全力で振る”ということですね。これは、高校時代からやっていました。合わせる打撃をしない。高校の時は、長打を打つことに自信があったので、より遠くに飛ばすことを求めていましたね。
 そうするためには全力で振らなければならないので、その積み重ねが今でも生きていると思います。最近の子は、型にこだわりすぎて、合わせるだけの打撃が非常に多いですね。
 でも、振る強さというのは、ウエイトトレーニングでは身につかないんです。ウエイトは補う筋肉なんですよね。振る筋肉は、振らなければ付かないです。全力で振ることによってそれが身につく。この考えで、今もやっていますよ。

――この時期は毎日ウエイトを行なっているのですか?

稲葉 そうですね。朝に球場入りして、先にウエイトをやって、次に練習をやって野球の筋肉に変えていくという方法でやっています。筋力をつけるために、ウエイトをガンガンやるのもいいですけど、目指すのはボディビルダーではないですからね。僕は色々と考えた結果、朝にウエイトをやって、その後に練習をやるというのが、野球の筋肉になりやすいと感じて、このサイクルが出来上がったんです。

[page_break:前回のWBC韓国戦・延長10回のバントを語る]

前回のWBC韓国戦・延長10回のバントを語る

――稲葉選手といえば、勝負強い打者として評判ですが、どうすればチャンスの場面で結果が残せるのでしょうか?

稲葉 いや僕も正直、勝負強いとは思わないんですよ。これには色々な考え方があって、プラス思考に考える選手もいれば、マイナス思考から考える選手もいます。例えば同僚の金子誠選手(常総学院出身)。彼は無死満塁の場面では、まずゲッツーになること考えることから始めるみたいなんです。そこから考えて、『これはやってはいけない、では次に何をやるか』というマイナス思考からプラス思考へ切り替える考え方ですよね。
 僕の場合は、結果を考えずに、いかにしてチャンスを楽しむことができるか。結果はどうであれ、ここは自分しか与えられないから、どんな結果であれ、悔いを残さないように楽しもうと考えています。

「練習量が自信につながる」

――それは学生時代からの思考なのでしょうか?

稲葉 いや、この考えにたどりつくために、いろいろと考えながら打席に入りましたね。でも良い時が続かなくて、転機となったのはファイターズに入って、新庄剛志さんに相談したら、『いろいろ考えすぎても、しょうがないじゃない』と言われて、じゃあチャンスを楽しもう、野球を楽しもうという考えになって、徐々にチャンスでも結果が出るようになりましたね。それまでにいろいろな失敗もありました。恥ずかしい思いもしましたし、悔しい思いもしました。そういう経験があったからこそ、良い意味で開き直りができたのかなと思っております。

 

――そうだったのですね。色々と試行錯誤をした結果、その勝負強さを身につけたのですね。

稲葉 そうなんです。今でも大きなテーマであります。僕は、『たくさん練習をすることで、自信を付けたい。そして打てなかったらもっと練習をして、打てるようにしたい』そういう考えのもとでやってきましたので。
今でもそうですけど、打てなかったら、人より早く練習を初めて、いろいろなことを試しますね。

――なるほどですね。稲葉選手自身、勝負強さを発揮できたという場面で、今までで一番印象的だったシーンはありますか?

稲葉 前回のWBCの決勝の韓国戦ですね。延長10回に入って、内川選手が無死から出て、僕が初球をバントで決めた場面です。結構、しびれましたね。
 僕らは日の丸をつけて、あの雰囲気の中で戦うプレッシャーを背負ってやっていますから、逆に一球で決められなかったら、どうなっていたのかなと。野球は流れのスポーツですし、一球で決めるか、決められないかで流れで変わるじゃないですか。ですから、あの場面で、初球で決めることが出来たからこそ次につながったかなと感じます。

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――今、振り返られて、なぜ稲葉選手は、あの場面でバントを決めることが出来たのでしょうか?

稲葉 それは、ああいう場面を想定して、ずっと練習をしてきましたから。ただの練習だけではないですよ。常日頃の練習から、こんな緊迫した場面を想定して、やってきました。練習のための練習ではなく、どれだけ自分にプレッシャーを与えながらやれるかどうか。
 通常の打撃練習でも、場面を想定して、自分にプレッシャーをかけていきながら、やっています。それは、上手くなりたいというためだけではなく、チームが勝ちたいからという思いでやっていること。だから自己犠牲もしますし、バントもします。チームが勝つことを一番に考えないといけないですね。

――その考えは、高校時代から持っていたのでしょうか?

稲葉 僕は、高校時代に主将をやっていましたので、チームが勝つためにどうすればいいかという思考は常に持っていました。当然、甲子園を目指すことを第一にやっていましたので、その中で自分は何をしなければならないのか。
 すごくプレッシャーがかかりますし、そのプレッシャーに負けていたら甲子園に行けないです。とはいえ、僕は甲子園に行けなかったですけど、プレッシャー、プレッシャーと感じすぎるのは良くないですよね。その場面を楽しむことが必要です。みんな、失敗したらどうしようと考えすぎるので、体が動かなくなってしまうんですよね。

――だからこそ、『練習をする』ことで自信をつけることも大事なのですね。

稲葉 そうです。練習をこれだけやったんだから、という開き直りが出来る。自分は、『良い開き直りをする』ということは、『良い準備をする』ということだと考えています。つまり、『実戦を意識した練習が良い準備。試合では結果が出なかったら仕方ないという開き直り』が出来るか。そういう思考でいったら、良い結果につながると思います。

[page_break:キミのなりたい選手像とは何か?]

キミのなりたい選手像とは何か?

「野球は『考える時間』があるスポーツです」

――今回、チーム最年長のWBCメンバーとして、世界を舞台に戦う稲葉選手。どんな活躍をみせたいなと感じますか?

稲葉 僕は、今年で41歳になるんですけど、40歳でも全日本でやれるんだという夢を与えたいといったら、大げさかもしれないですけど、そういう活躍をみせたいですね。
 また、JAPANチームの中では、とにかく元気な姿をみせていきたいです。とにかくハツラツと声を出して、色々なチームからメンバーが集まるわけですから、一部の若い選手が遠慮することもあると思うので、そんな選手に声をかけながら、前に前に出させるということを自らやっていきたいですね。

――高校球児たちには、世界で戦うJAPANのメンバーのプレーをみて、こんなことを感じてほしいなという思いはありますか?

稲葉 野球の楽しさですね。野球は、投手が一球一球投げるまでに“間”があるのが面白い。そういった部分で、観戦している皆さん自身が『監督』になったイメージを持って見てほしいです。打者は、どの球種を狙っているのか、どこへ打つのか、どんな作戦を仕掛けてくるのか、そういうことを想定しながらゲームを見て楽しんでほしいです。
 野球の楽しさは、他のスポーツに比べて“考える時間”があるので、考える楽しさを伝えられたらと思います。

――稲葉選手のように、NPBの中から、さらに選ばれたJAPANのメンバー入りをするために、選手としてどこをアピールしようと考えていくのが、いいのでしょうか?

稲葉 これは若い選手に言いたいのですが、『どんな選手になりたいか?そこを目指してやっているか?』と問いたいです。
 例えば何番打者になりたいとか。足が速いのに、ガンガン、ホームランを狙っているとか、それでは全然足が生かされていないですよね。

 目標とする選手は必ずいるはずですし、何番を打って、どのポジションをやりたいのか。それに向けて取り組むことで、方向性がしっかりしますし、NPBやJAPANのメンバー入りにも近付くのかなと思います。
 もしも、足がすごく速い。そして走塁技術、盗塁技術も高い。そんな選手がいれば、それだけでJAPAN入りできますよ。だから自分のセールスポイントを生かしていくのが大事だと思います。
 僕の場合でいくとアピールしたいのは、打撃と一塁の守備ですね。そして、年齢が一番上なので、まとめることが僕に求められているかなと思っています。

「打撃のポイントは『速い真っ直ぐ』」

――では、最後に、技術面で高校球児にアドバイスをいただきたいのですが、これまで2000安打をはじめ、数々の記録を残してきた稲葉選手ですが、打撃では何を基本として打てばいいのでしょうか?

稲葉 僕は、速い真っ直ぐにポイントを置いてやっていますよ。速い直球が一番打つのが難しいと思いますから。みんなカーブが打てないと言うんですけど、僕は直球がしっかりと打てないと、変化球も打つことも出来ないと考えていますから。速い真っ直ぐを打つのが一番難しんです。
 また、野球はアウトローへしっかりと速い球を投げ込めば、そうそう打たれることはないですから。だからその球をいかに捕えられるか。そこを出来るようにすれば、変化球はそれよりも緩いので、タイミングは自分で合わせていけばいい。
 高校生の投手もそうですけど、しっかりとした真っ直ぐが全然投げられていないのに、変化球を投げたがるんですよ。そうではないんですよね。しっかりとした真っ直ぐがあって、変化球がある。みんなそこを求めがちだけど、そこは違うかなと思います。

稲葉選手の考え方や野球への取り組み、とても参考になるお話しをありがとうございました。長く活躍するということは、それだけ深く考えて野球と向き合っているからこそですね。10代のプレーヤーの皆さんも、すぐに取り入れられる考え方がたくさんあったのではないでしょうか。
稲葉選手の今後のご活躍を応援しております!

(インタビュアー:編集部)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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