Interview

北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手(前編)

2013.02.12

第129回 北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手(前編)2013年2月13日

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 今季からコーチ兼任になった稲葉篤紀選手(北海道日本ハム)に高校時代に立ち返ってもらい、練習方法やバッティングの技術的な理論まで踏み込んで語っていただきました。
 「目からウロコが落ちる」とはこのことかと思うほど、技術面では核心をついたコメントを多くいただきました。高校球児のみなさんにとっても、プラスの情報が満載です!

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稲葉篤紀選手の高校時代

北海道日本ハムファイターズ
稲葉篤紀選手

――タイムマシンがあって稲葉さんが高校生に戻れるとしたら、何をしたいですか。

稲葉 篤紀選手(以下「稲葉」) 甲子園に行きたかったことぐらいですね。でも、3年間は一生懸命やりましたし、やり残したということはなかったですね。3年生でキャプテンになって、決勝で負けて。当然3年生のメンバーに入れない人たちがいろいろ手伝ってくれたりとか、そういうふうに一生懸命やってくれたのに甲子園に行けなかった、というか連れて行けなかったのはすごく悔しかったですね。

――甲子園に出るためには何が足りなかったんですか?

稲葉 そうですね、何が足りなかったんでしょうね。難しいですね。足りないものがたくさんあったでしょう。たぶんすべてにおいて足りなかったんじゃないですか。考えがまだまだ甘かったのかなと。死ぬほど練習はしましたけれども。

――当時はきつい時代ですものね。

稲葉 当然きつい時代で、ヘトヘトになるまでやってましたけれども、その意識というか考え方というか、そういうのがもう一つ足りなかったかなと思いますね。

[page_break:稲葉篤紀選手の打撃理論1:タイミングの取り方]

稲葉篤紀選手の打撃理論1:タイミングの取り方

――技術的なことですけれども、打つことで、高校生にこれはちゃんと守ってほしいという大事なことは?

稲葉 今の高校生は、バッティングで革手(革の手袋)とかをつける時代になっているじゃないですか。素手で打つ大事さというのを僕はもっと知ってもらいたいなと。素手の感覚。素手で打ったら当然手がボロボロになるし、皮がベロベロめくれて打てないですけれども、その中で覚えていくということもたくさんあるので。それは革手をつけたほうが断然力は入りますし、打球にも力が伝わるんですけれども、結局道具でやってしまうというか。例えば昔で言ったら木で打たされたときも当然ありますよね。そのときに、痛くないように芯に当てる方法とか自分で考えながらやったんです。素手でそういう痛い思いをして打つということも、僕は大事なんじゃないかなと思います。

「基本は軸足に体重をしっかり載せること」

――選手を取材しますと、ステップ、要するにタイミングを皆さん重視している。

稲葉 言ったらタイミングとポイントですね。

 

――そうですね。要するにポンと出さないということを皆さんおっしゃる。試合のときはだいたい下ばかり見ているんです。どこで始動するのか、ピッチャーとバッターの足を見てどのタイミングで足を上げるのかなとか。始動は人によって全然違うんですけれども。打てる人というのはだいたいゆったりとステップを出しています。

稲葉 ステップは見ますね。

――選手によっては、下はあまり関係ないという感じでポンとステップしちゃう人がいますね。ポーンと出さない人もいて、どっちがいいのかなと。

稲葉 長く見るということに関しては、軸足にしっかり体重を乗せて、ゆっくり足を下ろしていくほうが当然間ができるんです。でもバッターはピッチャーに合わせなければいけないので、例えばクイックで投げられるときもあるし、タイミングが合わない中でもバッターは合わせなければいけないので、そこは難しいところなんですけれども、基本はしっかりと軸足に乗せて、早めに軸足に乗せて。王さんなんかは特にそうですね。一回足を上げてそこで一回止まる形にしてそこから始動していくという、その間というものがあったほうが、よりピッチャーの球を長く見れるし、変化球にも対応がしやすくなると僕は思います。

――それは大事なことですね。以前、立浪さんが北谷でティーバッティングをやっているのを見たときに、球出しを遅らせるようにしているんです。ポンと投げない。タイミングを狂わされてもこらえて前に行きっ放しにならないというティーバッティングをずっとやっていて。誰がそんなことをやらせたんですかと聞いたら、落合さんが中日にいたときにそういう練習を広めようとしたらしいですけれども、結局誰もちゃんとできなくて、立浪さんだけが受け継いだらしいです。シーズン中も試合前のバッティング練習でやっていました。立浪さんは、『バッティングで大切なことは、タイミングがすべてですね』と言っているんです。そういう考えの人もいるんだなあと感じました。

稲葉 そうですね。僕も要はタイミングだと思います。タイミングとポイントですね。タイミングを合わせていかに自分のポイントまで引きつけて打つかということが一番大事じゃないかなと思いますけどね。

[page_break:稲葉篤紀選手の打撃理論2:縦振りと横振りのお話]

稲葉篤紀選手の打撃理論2:縦振りと横振りのお話

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――ポイントはやっぱりできるだけキャッチャー寄りですか?

稲葉 そのほうがいいですよね。体の前で打てという言い方をしますけれども、体の中では打てないですから。膝の前というか体の中では打てないですから、意識の中で前で打てと。前で打ったほうが、例えばヘッドがしっかりと返るところでちょうど当たるとか、たぶんそういう伝え方だと思うんです。
 僕はいつもポイントの確かめ方で言うんですけど、バントのポイントってバッティングのポイントだと思うんです。要はバントって前ではやらないし、後ろでもやらない。左バッターだったら、どんな球でも右足の前で必ずやるんです。それが前にいったり後ろにいったりすると絶対失敗するので。それが一番自分のポイントの見つけ方。だから自分の調子が悪くなると僕はバントするんですけど、そこでポイントの確認をするんです。

――それはシーズン中でもやるんですか?

稲葉 やります。札幌ドームだと横でバントができるので。これは平野(謙)さんに教えてもらったんです。平野さんが、バントの重要性はそういうところもあるんだよということを教えてくれて、なるほどなと思って。そこから僕はずっとバントをやるようにしているんです。

――初めて聞きました。

稲葉 そうなんですよね。少年野球もそうやって教えているんです。

「バントで自分のポイントを再確認する」

――僕がすごく気になっているのが『回転』という言葉。高校生って、回転と言われるとコマみたいにくるくる回って打とうとしちゃう。だから、プロの方にはできるだけ詳しく回転という言葉を説明してほしいなと思うのです。

稲葉 僕は縦振り横振りというのをやってるんですけども。横振りって、要は回転で打つ打ち方。縦振りというのは、例えば低めのカーブがきましたというときに、横振りだと絶対ゴロになるかファールになるんですよ。じゃなくて、そのボールに合わせて縦に振ってやるんです。上から縦に入れてやるという縦振りと、両方やっているんですけれども、その伝え方がまだ難しいですね。

――そうですね。最初から回転はしないですよね。とらえてインパクトに向かいながらですかね。

稲葉 いや、一連の流れなので、あまり回転をするとかどうのこうのというのは、僕は考えなくていいと思うんです。球を打つんですから。回転というのは、考えてやるものじゃなくて、自然となるものなので、そこを僕は意識してやる必要はないと思うんです。

――軸回転なんていうともっともらしく聞こえますけれども。

稲葉 今メジャーを見る高校生が増えていると思うんですけれども、メジャーのパワーをみんな勘違いしているというか、打ち方をね。力があるから軸足に乗せて、回転で打てるんですよ。日本人は外国人にくらべ力がないので体重移動をしっかりしなければいけないんです。僕は左バッターなので左の足に乗せたやつを右の足にしっかりと乗せて打つということを意識してやればいいと思う。それが打つことによって自然と回転するんです。だから回転というのが先じゃなくて、ボールを打つことをイメージしたらいいのかなと思うんです。
 僕は、なぜ球場はセンターが広いのか、という話をよくするんです。人間って自分の一番いいポイントでしっかり打ったら、一番センターに飛ぶと思うんです。そのポイントが少し前であるか少し遅れるかでライト、レフトに飛ぶと思うんです。だから基本のバッティングはセンターなんです。要はピッチャー返しなんです。

――だから深いわけですね。

稲葉 そうです。だからセンターに、ピッチャー返しをするにはどうしたらいいかということを常に考えて練習をするのが一番いいのかなと。

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[page_break:稲葉篤紀選手の打撃理論3:インコース打ちのポイントとは?/全力疾走の意義]

稲葉篤紀選手の打撃理論3:インコース打ちのポイントとは?

「ボールの内側を叩く意識」

――では、自分の調子というのは、打球方向である程度わかるわけですか?

稲葉 わかりますよ。例えば引っ張った打球がドライブする打球は絶対に横振り、もう横になっているというかヘッドが返ってしまうのでドライブがかかるんですね。これが例えばセンターに打とうとすると、バットが内側から出るわけです。バットを内側から出すということは、ボールの内側をとらえるということになるので、絶対にドライブがかからないんです。そういう意識でやると、バットが自然と内から出るようになるし、例えばボールの内側をたたくという意識でもいいですよね。

――左バッターだったらボールの右半分を打つイメージですか?

稲葉 そうです。そうすると、スライス系にはなりますけれども、いい打球がいくのかなと思いますけれども。

――稲葉さんのライトにいく打球が僕はすごく好きなんです。ファールかなと思った打球がぎりぎりフェアゾーン飛び込む。あれは普通のバッターだと切れますよね。なぜ、切れないんですか?

稲葉 みんなインコースの打ち方のポイントを勘違いしているんですけれども、インコースのポイントを気持ちよくしっかり打とうと思うと絶対ファールになるんですよ。芯で打ったらどうしてもポイントが前になるので。そうじゃなくて、さっき僕が言ったようにボールの右半分を打つようになると、もう少しポイントを中に入れないといけないんです。それで右肘を抜いて、要はそこから体の回転ですね。肘を抜いて体の回転、体を回すだけで、ちょうど芯に当たるんです。そうすると、ちょうどスライスをする形になるんですよね。そうすると切れない打球になるんですよ。

読みについて語る稲葉選手

――では、バッティングの「読み」についてもお聞かせ願いたいんですが、ヤクルトの野村克也監督時代は配球を読むことが大事だと言われてきましたが、「対応」と「読み」というのはちょっと別だと思うんです。どちらのほうに重きを置くものなんですか?

稲葉 難しいですね。僕は、球種で張ることもあるし、コースで張ることもあるし、方向でも張ることもある。全部使いますね。1球ごとに変えたりとか。キャッチャーも僕が何を考えてんのかわからないときがあると思います。

――それは強みといったら強みになるわけですね。

稲葉 そうですね。読みに関して言ってしまうと、まだまだ僕も現役でやっているので言えない部分があるんですが、今はデータの時代じゃないですか。高校野球もデータをとってやる時代でしょ。だからキャッチャーの性格を知るということは大事かなと。本にも書いたんですが、当時ジャイアンツに村田真一さんというキャッチャーがいたんですけれど、村田さんについてレポートを書いてこいと言われて2、3枚書いたんです。どんな性格か、強気なリードをするのか、裏をかきたがるのか、無難なリードをするのか。

――伊東勤(元西武。現千葉ロッテ監督)さんに聞いたら、キャッチャーというのは裏の裏をいきたがるけれどもバッターは意外とそんなこと考えていないとおっしゃっていました?

稲葉 そうですね。でも、僕も年齢をある程度とってきて、やっぱり読みをしていかないと、真っ直ぐを待って変化球に対応というのは正直厳しくなってきていますので、より配球についていろいろ考えたりしています。

全力疾走の意義

「凡打でも全力疾走で気分を切り替える」

――全力疾走についてもお聞かせください。新聞のコメントを拝見しますと、もう年だから、ちょっと走るのはしんどくなってきたというふうに言われているんですけど、稲葉さんはショートゴロとかセカンドゴロのときでも4.2秒前後で走られて、全く抜かない。ヒットのときぐらいですね。日本ハムというチーム自体がよく走るんですけれども、何でこんなに走るんだろうといつも思っているんですよ。

稲葉 凡打ほど悔しいんです。凡打ほど悔しいけど、そこで全力疾走することによって結構切り替えられるんです。

――そういうものですか?

稲葉 そういうものなんです。あれをたらたらやると、引きずるんです。あの塁間の27メートル(27.431メートル)の間で切り替えができるんです。ピッチャーゴロもそうですよ。ピッチャーゴロ打って、ああ、と思ってゆっくり走るとだめなんです。あそこでバババーッと全力で走ってパッと切り替えるというのが僕のやり方なんです。

――本当に4.2秒とかだいたいそんなタイムです。速いですよ。

稲葉 野村監督にも言われましたが、『チームの要であれ』ということを言うんです。いいベテランがいるチームほどいいチームだと思っているんですよ。ドラゴンズでいったら谷繁(元信)さんがそうですし、和田のベン(一浩)ちゃんもそうですし。僕も、そういうふうでありたいなと。そういうのを見て後輩たちが何かを感じて、僕たちもやらなきゃと思ってくれればいいし。そういうものを伝統にしていきたいなと思ってやっています。

高校球児にも参考になるお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。

(インタビュアー:小関順二)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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