Interview

高知中央高等学校 田川 賢吾 選手

2012.12.09

第118回 高知中央高等学校 田川 賢吾 選手2012年12月11日

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 投手を本格的に始めたのは、高校2年生の6月。僅か投手経験1年半でドラフト指名を受けた。(関連ニュース)

 そんな夢のような話を実現させてしまったのが、高知中央高校のエース右腕・田川賢吾である。
 当時は最速130キロ前後だった球速も、148キロまでアップさせた。ただ、そこに至ったのは187cm77kgという類稀な身体能力のお陰だけではない。
 過去、関西沖縄尚学、岡山県作陽で多くの一流選手を育成してきた角田篤敏監督から伝授された投手メソッド。かつ、投手に不可欠な「スピード&パワー」のトレーニングを地道に実践してきたからに他ならない。

1:ブルペン編 大事なのは「リズム」、「下半身の体重移動」、「リリース」

体が開かないことと体重移動を意識し
投球前に遠投する田川賢吾選手

――ブルペン投球に入る前に心がけていることは何ですか?

田川 賢吾選手(以下「田川」) 僕は肩ができるまで80m~90mの距離で必ず遠投をしています。その時に意識することは体の開きを防ぐこと、そしてスムーズな体重移動。それを身に付けるようにするために、僕は片足ケンケンを入れながら遠投するようにしています。

――どれくらいの時間、遠投をするのですか?

田川 時間は決めていませんが、肩が温まるまでは遠投をします。

――なるほど。では、ブルペンではどこをポイントにしていますか?

田川 僕がポイントにしているのは3つです。1つ目はリズム。2つめは下半身の体重移動。3つ目はリリースですね。

――もう少し詳しくいきましょう。まず「リズム」について。

田川 自分は投げ急ぐタイプなので、始動を「1」リリースを「3」とすると、1・2・3ではなく、1・2―――・3と2を長くするようにしていたんです。踏み出し足がついてから体重移動を始めるようにすると、それがスムーズにできるようになりました。その部分は3年夏の高知大会が一番よかったですね。

――2つ目の「体重移動」については?

田川 さっきお話した体重移動のタイミングに加えて、最後は左足で残るようにしています。この時に体重を左股関節に乗せるようにすると、きれいに体重移動ができますし、球威も上がります。
 そしてもう1つ。僕はブルペン投球後のダウンでも体重移動は常にしています。遠投やキャッチボールでもなるべく投げる動作に近い状態を作ることが大事です。僕はマウンドに立たないときは外野手をしていましたが、キャッチボールやノック返球でも体重移動を心がけていました。これは監督さんに言われたことでも特に意識していたことです。

リリースはこれ以上持ってこれない所まで
離すイメージ

――「全てがピッチングにつながる」ということですね。では、最後のリリースについてお願いします。

田川 リリースポイントは『これ以上いったらワンバウンドになるな』というくらい前まで持ってきて離していました。始動からはスムーズに力を抜いて持っていってリリースの瞬間、指先に全部力を伝えることだけを意識していましたね。僕は考えすぎると違う方向に行くので(笑)シンプルに考えるようにしていました。

――その他に気を付けていたことはありますか?

田川 これも監督に教わったのですが、踏み出しについては、最初はやや内側においていました。そうすると体重移動をしてリリースする瞬間、足がホームベースへ向かって真っ直ぐに向くんで。
 それと、グラブ位置の意識は特にしていなかったですが、体をひねらない意識は持っていました。体をひねろうとすると体の開きも早くなってしまいますから。そこを防ぐために、右手は体に巻きつけるように振り切っています。

――ありがとうございます。では、今度は皆さんが気になる「投球技術」について伺います。

[page_break:2:投球技術編 ボールの「回転・角度」、「キレ」、「伸び」を意識する]

2:投球技術編 ボールの「回転・角度」、「キレ」、「伸び」を意識する

▲田川選手の投球連続写真

――まずは皆さんが気になるボールの握りですが・・・

田川 ストレートは普通に握りますけど、現役時代はカーブとスライダーを同じ握り方にしていました。そこからカーブは浅く握って抜くイメージ。縦スライダーは深く握って巻くイメージです。あとは真っ直ぐの握りを少しずらしてカット気味にしたり、たまにスプリットも使っていましたね。

田川式スライダー。
カーブと同じ握りで深く持って巻くイメージ

――カーブとスライダーをなぜ同じ握りにしたのですか?

田川 色々試していく中で、浅さと深さで変わることに気付いたんです・・・。あ、それと春先からは握力強化に力を入れていました。

――具体的にはどんなトレーニングをしていたのですか?

田川 風呂の中手を握ったり閉じたり、ボールを強く握ったり。これを続けたことで9回完投した後のひじ肩の疲労回復度は全く変わりました。これまでは登板2日後以降も疲労が残っていたのが、なくなりましたし。握力は測ったことないので(笑)どのくらい上がったか分かりませんが、その部分での実感は明らかでしたね。

――ボールの質について気を遣っていたことはありますか?

田川 ボールの回転・キレ・伸びについては監督さんから常に言われていました。今考えればそれを意識していたことが威力につながったと思います。

――ここも大事なところだと思うので、もう少し解説して頂いていいでしょうか?

田川 まず回転については、僕は身長があるので角度も含めたところで意識を持ちました。例えば右打者に向かうときはアウトコースを投げる角度でインコースにも投げられるように練習で投げ込みました。

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投球時、踏み出す足はやや内股に入れる(左)そうすると体重移動の瞬間踏み出し足はホームに正対(右)

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――すごく高度な要求ですね。

田川 僕の一年先輩に孫一凡(現:四国アイランドリーグplus:高知ファイティングドッグス)さんという右投手がいらっしゃったんですが、その方はこれがすごく巧い方だったんです。ですから僕はその方を参考にしていましたし、練習試合でも今年の3・4月はそれだけをテーマに。例えばある練習試合ではインコース限定とかにして角度を付けていったんです。これがあって夏は角度のあるボールをインコースにも投げられるようになりました。

――「キレ」についてはどうでしょう?

田川 これが頭で理解していても結構難しかったです。ただ、今年の4・5月、調子の悪い時に監督さんから言われたのは『ムキになって投げるからキレがない。力を抜いて投げれば少しはキレも伸びも上がる』ということでした。ですから、調子の悪いときはリリースまで力を抜くことだけは意識していましたし、それで助けられたこともあります。

――「伸び」については?

田川 僕のボールは高めに浮くことが多いんですよ。でも監督さんは『それを低めに投げようとするとボールがおじぎするので、始めはそれで伸びのあるボールを投げろ。それが低めになればいいボールになる』と言ってくれて。これも伸びにつながったと思います。

――こういったことを振り返ることも重要ですよね?

田川 飛び飛びにはなっていますけど、監督さんから言われたことや試合や練習の感想を記した振り返りノートは付けています。『練習しないとうまくもならないし、勝てない』という言葉を監督さんから頂いたのですが、その意識はプロになっても持っていたいです。

[page_break:3:トレーニング編 厳しいサーキットに腹筋背筋、そして力餅]

3:トレーニング編 厳しいサーキットに腹筋背筋、そして力餅

――投手転向当初の130キロから今年7月には148キロまで球速をUPさせました。そこに至ったパワーの秘訣は何ですか?

田川 実は僕、上半身のパワーやボールのスピードはあまり気にしてなかったんです。気にしていたのは下半身だけ。最終的には148キロまで出ましたけど、下半身を強化したことがそこにつながったと思っています。

――となると、どのように下半身を強化したのかが気になるところですが…。

田川 冬場の練習が大きかったですね。ポール間走とか、サーキットとか。一番きつかったのは砂浜走りですね。

――例えばサーキットではどんな種目をしていたんですか?

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▲(写真1)アザラシ

▲(写真2)上腕三頭筋トレーニング

▲(写真3)タイヤ押し

▲(写真4)みかん箱跳び

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田川 ホームベースから肩車でスタートして、一塁ベース付近から椅子をハードルに見立てて両足ジャンプ(*部員写真参照)、ライトまで進んだらセンター方向へアザラシ(写真1)、センターから両足ジャンプで左中間へ行って手押し車でレフト線まで進みます。
 その後は椅子を利用した上腕三頭筋トレーニング(写真2)をして、タイヤを押してから(写真3)。アヒル歩きを表裏してホームへ。
 そこからみかん箱を両足ジャンプ(写真4)飛んで、マウンド付近で連続スイング。これが冬の初期メニューで、年が明けるとその後に縄跳びとかが加わります。

――むちゃくちゃ厳しいですね・・・。それで1セットですか?

田川 はい。冬場はこれを3~5セットやります。しかも競争でやるので、負けたチームは1セット追加ですね。

――寮生活でも気を遣っていたことがあったそうですね?

田川 毎日腹筋と背筋は300回ずつしていました。それと食事ではご飯を食堂で3杯食べた後も一日10個近く餅を食べていました。

――間食を餅にしていたんですね?

田川 暇さえあれば食べていました。オーブンで焼いてきな粉をかけて餅食べてから腹筋とか。でもこれを続けたら、秋口の72㎏から春には78㎏まで体重が増えて、ボールの質もよくなりましたよ。

おわりに:夢に向かう後輩たちへのメッセージ

投手転向時からドラフト指名までの
一年半を語る田川賢吾

――今回は色々と貴重なお話ありがとうございました。では、投手に転向したばかりの選手や、夢に向かって進む後輩たちへ、田川投手からのメッセージをお願いします。

田川 僕が思うに『意識の持っていき方1つで変わることはできる』と。
僕の場合で言えば一年前の夏、監督さんから『お前はプロに行ける素質があるんだから、自分がやればやるだけ変わるぞ』と言われたことがあってそれを意識していたから、冬の厳しい練習も乗り越えることができました。ちょっとした意識によって、人は変われるので意識を持ってやってもらえればと思います

――ただ、その当時は半信半疑だったんですよね?

田川 正直『プロになれたらいいなあ。でも絶対無理やろ』とは最初思っていました。でも、監督さんは真剣に僕のことを思ってプロになるための練習をやってくれたし、それを僕自身も感じたので、一年間監督さんを信じてやっていったことがよかったと思います

――最後に、東京ヤクルトでの抱負を教えてください。

田川 まずはしっかり体作りをして、投げられるチャンスをつかめるようにしたい。そして一軍ローテーションに入って、大事な試合を任される投手になりたいです。

【角田篤敏監督からのコメント】

 彼は潜在能力やバランスの部分では一軍に近いものを持っているし、それをメリットとして評価してくれたことはありがたいこと。これまでは人のため、学校のためが、自分のためにつながっていましたが、プロは自分のためが学校のため、人のためになる世界。今後は、これまで僕が育ててプロに進んだ選手たちを破ってもらいたいし、期待もかけています。

潜在能力やバランスを引き出すのも「パワー&スピード」の裏打ちがあってこそ。また、田川の場合は、「考える」「理解する」力だけでなく、今回のインタビューのような相手に「説明する」力まで、しっかりと鍛えられていた。角田監督の指導力を信じ、速やかに実行したことで急成長につなげた田川賢吾。これから上を目指そうとする皆さんもぜひ、彼の姿勢を参考にしてほしい。

(インタビュー・構成=寺下友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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