福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (前編)
第116回 福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (前編)2012年12月4日
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福岡ソフトバンクの主力打者・内川聖一選手。プロ入り8年目にシーズン最多の189安打、右打者最多となる打率.378で首位打者を獲得。2011年に福岡ソフトバンクに移籍し、その年に二度目の首位打者を獲得。移籍2年目の今年はシーズン最多となる157安打を記録。
常に高いパフォーマンスを発揮している内川選手にどのような意識、イメージを持って試合、練習に臨んでいるのか。内川選手に熱く語っていただきました。
冬に頑張れる選手が夏笑う
――11月には、福岡ソフトバンクホークスは、宮崎でキャンプも行っていました。シーズンが終わってすぐに、来年のシーズンに向けて動き出していましたね。
内川 聖一選手(以下「内川」) 今の時期は、来年が始まるまで、時間があります。それでも何のために、いま全員がここにきて頑張ってるのかというと、来年は勝ちたいからなんですよね。来年、日本一になりたいからなんです。
来年のことを考えると相当、先じゃねぇかって思うことも確かにあるけど、でもこういう時期からの頑張りとか、積み重ねがすごく大きなものになるんです。
1日1回、1人でも多く振れば、チームとして年間365回振れることになりますから、ちりも積もれば山となるじゃないですけど、ちょっとずつの積み重ねが最後は大きな差になって表れると思うんです。
オフシーズンの目的意識の持ち方
福岡ソフトバンクホークス 内川聖一選手
内川 僕は、モチベーションが上がらない時期に頑張れる選手というのが強いんだと思っています。目の前に自分が欲しいものがある時に頑張るのは、これは人間だれしも一緒なことであって、自分の目的が遠くにあったり、まだまだ先のことだなという時に、頑張れる選手っていうのは土壇場で力を発揮できる選手だと思うんです。
みんなが頑張れないときに頑張れる選手、僕は貴重だと思います。
以前、マラソンランナーの高橋尚子選手を指導した小出監督がおっしゃっていたんですけど、『花も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花となる』とテレビで言ってたんですね。その言葉を聞いたとき確かにそうだなと思いましたね。
冬の間は地面にしっかり根を張ったり、しっかり土台を作るという意味で、大事な時期。頑張れば頑張るほど、春になれば表面上に見えてくる花は大きくてキレイになるんですよね。
――内川選手が高校時代、冬の練習で取り組んだメニューで、『これは上達につながった!』と感じた練習メニューがあれば教えてください。
内川 ボール転がしですね。内野手はいい形で取ることが、いいスローイングにつながるという教えだったので、グラブはずして、5~10メートル離れた場所からゴロを転がして、それをしっかり股を割って取るという練習をやってました。
正面から10本、左10本、右10本というのを何セットもやりました。これは、捕球姿勢が身につくだけでなく、打球に対するイメージにも繋がりました。
――体を作るトレーニングでは、どんなことをやっていましたか?
内川 バッティングにも結びつくものだったら竹バットを振ること。トレーニングであれば、当時はウエイトが流行り出した時期だったんですけど、僕らの目的としてはボールを遠くに飛ばしたいとか、力をつけるためにやるのではなくて、ある程度厳しい練習をしても壊れない体を作るためにやりました。
調子が悪くなった時に、ロングティーをやったり、体を大きく使って、打つ練習をやるんですけど、そういった体を大きく使うことに耐えられる体を作るのが、この冬の期間でした。ただ、プロに入ってからは、体を作るというよりも、野球と連動したトレーニングを意識して取り組んでいます。
イメージトレーニングは、なぜ大切か?
――内川選手は日頃、イメージトレーニングを取り入れているのでしょうか?
内川 僕もやっていますね。イメージトレーニングというと、『よくいいイメージを生みなさい』とか、『いいことだけを思い浮かべよう』と、なりがちですけど、僕の場合は、イメージトレーニングというよりも、“メンタル”という部分で、まずは、自分の打席の中でどういうふうに感じたのか、試合に入る前に自分はどういう気持ちで臨んだのかというのを自分がしっかり理解できないといけないと考えています。
――まずは、イメージを作る前に、いつも自分はどう感じているのかと、感情と向き合うことが大切だということでしょうか?
内川 そうですね。メンタルトレーニングでは、『緊張せずにいつも通り平常心でやってください』と教わりますが、もちろんそうできるのがいいでしょうけど、僕としては、例えば緊張して不安な気持ちになること。俗にいうマイナスなイメージが出るのは当たり前だと思っているんです。それが出た上で、『自分はどうしないといけないのか?』というところを考えるようにしてますね。
だから、普段通りとか、いつも通りとかいうことよりも、自分がその場で出てきた感情にどう向き合えるのかをしっかり鍛えるようにはしていますね。
――内川選手は、その場で出てきた感情とどう向き合っているのですか?
内川 その場の感情というのは色々あると思うけど、例えば今、緊張してるとしますよね。その緊張を抑えようとすることに、心のエネルギーを使うことは僕は違うと思うんです。緊張しているまま、僕は野球をやったほうがいいと思う。そうすると、緊張の質が変わってくるんです。
ど緊張して、頭が真っ白になって、自分が何をやっているのか分からないっていう緊張はいけないと思うけど、ある程度、張りつめた緊張感や、ピリピリした緊張感がないと、いいプレーが出ないと思っていますし、緊張はいいことだと思ってやってます。
「日頃から実戦をイメージして練習する」
――そのようないいイメージが作れるようになるために、普段から心掛けていることはどんなことでしょうか?
内川 いいイメージが出るときは、自分の準備がしっかり出きていたりとか、自分が対戦相手の特徴が分かっているとき。
打席に入る前に、自分の頭の中で準備がしっかりできたときは、打てそうな時だと思うんですよね。だから、打席の中で一生懸命いいイメージを作ろうということよりも、打席に入る前に、すでにそういうものは作って入らないとダメ。
だから、そのピッチャーに対して、どういうボールがくるのか。よし!じゃあこうやって打ってやろう!ということに集中できれば、もう不安な気持ちというのはなくなります。つまり、打席に入るまでが勝負だと、僕は思ってます。
――練習でも何か、意識の持ち方で工夫はできますか?
内川 強いメンタルを作る上では、どんなことをやるにも、ゲームと同じだという気持ちでやらないといけないと思うんですよね。とくに、高校野球の場合は、負けたら終わりという戦いじゃないですか。
高校時代によく僕らがやっていたのは、普通のノックやるにしても、2アウト、ランナー三塁、エラーしたら1点入ってしまう。アウトを取れば、チェンジという一番プレッシャーがかかる状況を想定してシートノックをやっていましたね。
あとは、監督を怖いと思って鍛えられるメンタルも当時はありました。いまは、楽しみながら野球をするチームも増えてきたと聞きますが、うらやましく感じますね。
僕らの頃は、監督にミスをしたら怒られる、打たなかったら怒られる。そういうことが自分に対するプレッシャーになっていました。逆にそこを乗り越えて、いいプレーが出るからこそ、強くなっていけた時代。そういった意味で、ビビってやることがいけないとよく言われますけど、逆にそれをプラスに変えていけるように存分にビビッてやっていいと僕は思いますよ。
内川選手、ありがとうございました。インタビューの後編では、内川選手のバッティング理論をお伝えします!