広島東洋カープ 前田 健太 選手(前編)
第115回 広島東洋カープ 前田 健太 選手2012年11月29日
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PL学園高時代、3年春のセンバツに出場。初戦の真岡工戦で16奪三振を記録。2回戦の愛知啓成戦では完封勝利を挙げるなど、ベスト4入りに貢献。3年の夏は、大阪府大会の準々決勝で敗退したが、エースで4番としてチームをけん引し続けた。
2007年に広島東洋カープに入団。プロ入り4年目の2010年以降は、毎シーズン二桁勝利を挙げ、数々のタイトルを手にしてきた。
今回は、そんな前田健太投手に、オフシーズンの取り組みや、メンタルについてお話しを伺いました。
前田健太投手のオフの過ごし方
広島東洋カープ 前田健太選手
――前田選手の高校時代、12月から2月の期間は、どんな目的を持って練習をされていたのですか?
前田 健太選手(以下「前田」) 僕は、高校の時の冬はすごく成長できる時期だと思っていました。試合がないので、基礎練習やランニング、そしてトレーニングがたくさん出来ますよね。
僕の場合は、ピッチャーとして単純に球を速くしたいとか、打者としては、体を鍛えればもっと速い打球で遠くに飛ばせるんじゃないかとか、そういう思いで練習に取り組んでいました。技術というよりは、体作り、土台作りですね。これは、春にも夏にも出来なくて、冬にしか出来ないことだったので。
――冬の期間は単調な練習が続き、モチベーションが高まらない選手もいる一方で、なぜそこまで、高い意識を持って、取り組めたのでしょうか?
前田 ホントに冬の練習はしんどいです。しんどい練習ばかりですけど、そこで自分がやらなくて、周りがすごくやっていたら不安になるんですよね。あいつに抜かれるんじゃないかとか、ピッチャーもたくさんいたので。この時期にやらなければ、自分のレベルがどんどん下がっていくんじゃないかという不安が常にありました。
でも、その冬を頑張った分、春になるとすごく成長を感じることが出来たんです。冬にケガして出遅れた選手と、冬をやりきって頑張った選手は、春にすごく差がでるので、本当に12月から2月は大事な時期ですね。
ウエイトトレーニングの効果は?
PL学園時代の練習を振り返る前田選手
――これまでウエイトトレーニングは取り入れていなかった前田選手でしたが、なぜ今年はウエイトも練習に取り入れようと思ったのでしょうか?
前田 新しいことに何か挑戦してみようと思ったんです。それで、高校時代もウエイトはやっていなかったので、新しいことで真っ先に浮かんだのがウエイトだったんです。あとはプロの選手たちの体と比べても、間違いなく負けていたので、それで取り組み始めました。
でも、ウエイトといっても、みなさんがイメージしている重いものを持ってベンチプレスなどするような動きとちょっと違って、僕の場合は少し重い負荷をかけてピッチングの動作に近いトレーニングなんです。
その効果も感じていて、やっぱり体は強くなりましたね。とくに、片足で行うスクワットなどで、バランス力がすごく上がりました。
――高校時代は、ウエイトはされていなかったのですね。
前田 高校の時は、トレーニングといえば、とにかくランニングでした。ウエイトは、高校生の皆さんも取り入れてもいいと思いますが、人によって種目も違ってくるので、間違ったやり方で行うと、自分の長所がなくなってしまうこともあるんじゃないかなと感じますね。
だから、自分の勝手な知識だけで重いものを上げるのではなくて、トレーナーなど専門の人に聞いたほうがいいと思います。
ライバルのどこを見ている?
――前田選手は、普段、他の選手のどんなところをチェックしているのですか?また、そこから真似ることもあるのでしょうか?
前田 そうですね、僕は今はもう他の選手のフォームは見ないのですが、高校生であればプロの選手のフォームを見て参考になると思うので、見るのはオススメです。でも、ボールは僕も今でも見たりしますね。変化球いいな、真っ直ぐいいなとか。
変化球がいいなと思えば、ちょっと自分で工夫してみて、ああいう変化球投げてみようかなとか、参考にすることもたまにありますね。このボールいいなと思ったら、今度練習してみようかなというきっかけにもなるんですよね。
ライバルからも学ぶことはできる
でも、握りとか分からないじゃないですか。だから自分で探すしかないんです。人によって、握りって本当に違うので、オーソドックスな握りがあるかもしれないけど、それが自分に合うかわからない。だから、キャッチボールや遊びでこの握りいいなとか、遊んで見つければいいと思います。
――周りの選手やプロの選手のフォームは、どこをポイントにしてみるのがいいのでしょうか?
前田 フォームに関しては、部分ごとに参考にしたらいいと思います。左手の使い方を見て、こういうふうに使うんだとか。右足を出す時に、きれいに出すなとか。細かい部分っていっぱいあると思うんですよ。
それを全部真似するんじゃなくて、具体的な使い方を取り入れてみようかなとか、そういうのも面白いと思うんですよね。ボヤっと見ながら、『ココは、なんかすごいな』と思うところは真似してみるものいいと思いますね。
前田健太選手のメンタルを探る
――前田選手はお話しを伺っていると、前向きな考えをもって野球に取り組んでいるように感じますね。
前田 そうですね、自分ではプラス思考だと思っています。逆に、プレッシャーがないと僕はやっていけないタイプです。緊張しないといけないし、みんなから期待されていないよりも、期待されたほうがいい。期待されたほうがやりがいを感じるんですよね。
――結果が出なくて、落ち込んだ時はどうやって気持ちを切り替えるんですか?
前田 試合に負けた日は、次の日がすごく嫌なんです。以前、2か月くらい勝てない時期があって、その時は誰とも喋りたくない、どこにも行きたいくないって思っていました。すごく落ち込んでいたんですけど、それがムダなことだと気付いたんです。1日がムダだって。そこで切り替えて、次に向けてやるしかないって。それなら、楽しくしていたほうがいいんじゃないかと考えるようになりましたね。
――前田選手は、普段イメージトレーニングはどんなことを実践しているのでしょうか?
前田 試合前であれば、寝る前にイメージトレーニングをしていますね。試合前は不安だったりするんですよね、打たれたらどうしようとか。
僕たちの場合は、翌日の試合の相手のスタメンも大体分かるので、この選手のこういうところを抑えようかなと思いながら寝ますね。抑えるイメージを持ちながら、気持ちよく寝ます。バッターであれば、打つイメージをするのもいいと思います。
たまに、夢で見ることもあります。でも、僕の場合は夢で完璧に抑えるとあまり良くないんですよね(笑)逆に夢で打たれたほうが試合で良かったりするんです。だから、夢の内容は当てにせず、大事にしているのは、布団に入って眠る前にするイメトレ。いいイメージを持ちながら、『自分は世界一すごいピッチャーになったな』っていうくらい打たれないイメージをもって眠りにつきます。
野球用具のこだわりを語る
――続いて野球用具についてお伺いします。前田選手がグラブを選ぶポイントを教えてください。
前田健太選手のグラブ
前田 僕はグラブは、中学時代からミズノをずっと使っています。グラブを選ぶポイントは、型やポケットの大きさですね。
プロに入ってからは、ポケットは大きめにしました。ポケットが大きいほうがボールも取りやすいですし、手首の動きで球種を読まれたりしてしまうので、握りがバレないようにしていますね。
また、重たすぎず、軽すぎないグラブを選んでいます。ピッチャーの場合は、ピッチャーライナーはありますけど、野手よりはそこまで俊敏な動きは必要ないので、投げることに関してはちょっと重さがあったほうが安定するんじゃないかなって思うんですよね。
硬さは、あまり柔らかすぎないほうが好きです。僕は投げるときにちょっとグラブを潰すので、握りつぶすのに力がいらないグラブは嫌で、ちょっと力を入れないと握れないようなグラブがいいんですよね。だから、グラブが柔らかくなりすぎると代えるので、1年に2~3回は新しいものに代えたりしますね。
――デザインにもこだわりはあるのですか?
前田 デザインは、楽しみながら毎年変えていますね。いまは、グラブにトンボの刺繍が入っています。トンボって縁起がいい虫なんですよ。トンボは前にしか飛ばないから、バックが出来ない。後退しない。つまり、逃げない。そういう話しを聞いたら、トンボっていいなと思って、ここに刺繍を入れました。来年もこれでいこうかなと思っています。
――素敵な刺繍ですね!では、スパイクについては、こだわりはありますか?
前田 スパイクもミズノのスパイクを使っていて、形はくるぶしまでのミドルカットですね。僕の場合は、野手の人と違って、あまり軽すぎないのを選んで履いています。確かに軽いほうが走りやすくてラクなんですけど、ピッチングになるとちょっと重さがあったほうが、足元が安定して投げやすいんですよね。
あと、歯の本数は9本ではなく、6本歯にしています。というのも、僕はプレートの上に足を乗せて投げるので、多すぎると邪魔になってしまう。みんなは、あまりプレートに足を乗せないと思うんですが、僕は半分だけ乗せたほうが足が使いやすい。それで、6本歯のほうがプレートにかかりやすく、投げやすいんですよね。
――ありがとうございます!では、最後に前田選手の来シーズンの目標を教えてください。
前田 来シーズンは、すべてのことを良くしたいと思っています。真っ直ぐも良くしたい。数字も良くしたい。プロ野球選手は数字が残ってしまうので。あとは、チームが優勝すること。クライマックスシリーズに行けるように、貢献していきたいです!
前田選手、ありがとうございました。2013年のシーズンでの活躍も期待しています!
(撮影=中牟田康)