Interview

ミズノスパイクマイスター 春名 明弘 さん

2012.07.06

第101回 ミズノスパイクマイスター 春名 明弘 さん2012年07月07日

軽量感と耐久性を極める

スパイクマイスター 春名明弘さん

――最近では軽量化というものが多くなっているとお伺いします、もともとはスパイクのニーズはどういってものだったのでしょうか?

春名さん(以下「春名」) 昔は頑丈というか丈夫なもの。少しでも長持ちするものを作っていましたね。それはここ10年間で、かなり変化してきました。ひとつには材料メーカーさんの変化もあります。私が野球のスパイク作りを始めたころは、天然皮革のカンガルー革が主でした。それが、材料メーカーさんが努力をされて、人工皮革でも、本革に近いものができるようになってきました。

――以前のカンガルー革だとだいぶ重かったのですか?

「春名」 本革は湿気吸うと、どうしても重たくはなってしまいます。カンガルーですから、当然、同じ皮でも、牛皮から比べれば軽量ではあるんですけど、人工皮革は、そういった面でも軽いんです。

――革以外の部分ではいかがでしょうか?

「春名」 何年ほどか前からプロ野球の球場に人工芝が普及してきました。人工芝になれば、ポイントがラバーになりました。土の上でしたら、金具を使っていたのが、ラバーのポイントタイプで対するようになっていますね。土のグラウンドを使用する球場もありますので、基本今は金具とポイントタイプの二つに分かれます。

――金具では、一時期を境に歯数が変化しましたよね?

「春名」 金具の数に関しては、以前は6本歯が主流でしたけど、95、6年くらいから9本歯になりました。全体的に変わってきました。

――軽量化よりも、そちらの方が早かったんですか?

「春名」 若干軽量化の方が後です。軽量化は、選手からの要望から始まったものです。足の速い選手でしたら、軽い方が良いということでした。逆に、投手だとあまり軽すぎたら不安があると言われる方も多いですし、タイプによってさまざまでしょうね。

――野手の中でも違うんですか?

「春名」軽さを求める方もいるし、そんなに、軽さを求めない方もいます。個々で違うんです。

――アベレージ、ホームラン共通しているのか、打者のタイプで分かれているのか?

「春名」アベレージ、もしくは走塁関係の選手は、軽いのを選ぶ傾向にるかなと思います。

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[page_break:.革だけではなく金具まで軽量化]

革だけではなく金具まで軽量化

革へのこだわりにも余念が無い

――要望を聞いて、苦労された点は?

「春名」 私はプロの方に対応させていただいているんですけど、小笠原さんのスパイクは足首の部分が通常より高くなっているんです。「インナーソック」というのですが、ベロといわれる部分が一体になっていて、かかとから甲に掛けて包み込むような感じで作られています。心地よいフィット感、履き心地というのが優先されています。こういうスパイクは逆に重たいんです

――技術的な部分で、軽くすると難しい点はありましたか?

「春名」 さきほども言いましたように、耐久性が劣りますし、耐久性が落ちれば、作っていく数も増えます。プロの要望にお応えする形ですので、できないと線引きせずに数で補っていくしかないです。

――軽くするのに、革以外の部分での軽量化ありますか?

「春名」 足底まわりの金具です。選手によりチタン合金を使っているので、通常のスチールの金具に比べれば軽くなっています。
またソールの材料は、牛革底、ウレタン系が多かったんですけど、軽さを追及してナイロン系(埋め込み金具)に移行していますね。耐久性に違いはありますけど、機能性が落ちることはないです。

スパイク作り、20年。

目の前でスパイク作りを実演する春名さん

――春名さんはスパイク作りをされて何年くらいですか?

「春名」 20年です。松井秀喜(レイズ)さんがジャイアンツに入団される前年くらいからです。それまでは、いろんな種目を担当していて、野球に関してはOEM先にお願いしていたのを、自社工場でやるようになった。

――スパイク作りの工程で難しいのは?

「春名」 全て難しいのですけど、私が担当しているのは成型。革を木型にそわして作っていく工程をやっているのですが、力入れ加減で変わっていく。感覚的なものになるんですけど、いかに形状どおりに作り上げていくか。そのあたりでしょうか。

――足というのは、みんな形は違いますよね?そういうのはどう調節するのでしょうか?

「春名」 基本は既成の木型を使っているんですけど、それでもあわない選手は足型をとっています。松井さんも足型を取っていて、これをもとに、ラストを選定して、その中で修正を掛けたりしています。

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[page_break:.スパイク作りのやりがい]

スパイク作りのやりがい

何より怪我なく結果を出してもらえれば

――このお仕事でやりがいを感じる時は?

「春名」 当然、相手もプロの方ですので、成績がしっかり出ていればよかったなというのもありますし、けがなく1年間やっていただければありがたいですね。

――これまでの経験で、一番苦労されたのは?

「春名」 いかなり古い話なのですが、怪我された方のケアーが難しかったですね。ジャイアンツの原さんがアキレス腱を痛められていたとき、東京の理学療法士さんがインソールを作っておられた。症状に合わして張り合わしたりするインソールなのですが、それにあうシューズを作ってくれって言われて、4、5種類作ったことがあります。守備のスパイク、バッティングのスパイク、練習のスパイク、かなり作らせていただきました。

――投手のスパイクの違いは?

「春名」 ある程度の重量、重さを求められる方と、投手でも少しでも軽くという方もいらっしゃいます。ヤクルトの石川さんなんかは、お会いするたびに少しでも軽くとおっしゃっています。

――要望は直接、行かれたりするのですか?

「春名」 春キャンプには行くようにしています。その後のフォローは、担当がいますので、随時聞くようにしています。

――他にこだわりはありますか?

「春名」 こちらからも新しいタイプをご提案することもありますが、皆さんが毎年新しいものになるわけではなく、若干の修正、マイナーチェンジ程度の変更が多いと思います。

プロ野球選手のスパイク

――ミズノのCMで、T-岡田が、踏み込みが大事といわれています。その点も、違いはあるのか?

「春名」 特別なものはないですが、9本歯でしっかりと噛んでいるというか、岡田さんには実感していただけているんだと思いますね。

――T-岡田選手のスパイクは軽いんですか?

「春名」 重量としては軽くないですよ。軽量は300g前後をいうんですけど、T‐岡田さんは370から80くらいあると思います。ただ、足にフィットしていると動かしやすくなり操作性が上がると思います。

――逆に重さの利点はあるのでしょうか?

「春名」 当然、軽いだけだと耐久性が落ちてくるし、ブレが出やすくなる。逆にしっかりしたもので作れば、重さはあるんですけど、足のぶれが出にくいであろうと思います。

――あと、形状で言うと、小笠原さんのような足首を保護するタイプは多いのでしょうか?

「春名」 小笠原さんの使用されている「インナーソック」ではないんですけど、くるぶしや足首の補強のために、カッティングを変えて、足首を固定するタイプもあります。 足首の可動域をとるのには、ローカットでしっかり、足首が曲がるようにするのですが、そこに不安があるタイプはハイカットにされます。

――ローカットの方が人気ですか?

「春名」 デザイン的には高い方がおしゃれなので、最近は増えていますね。足の速い選手はローカットが良いと思います。しっかりと足首の可動域を広げた方が動きやすいと思います。ただ、そこは好みですね。カッティングよりも、使う材料を変えて、よりソフトにして、曲がりやすいように色々、工夫はできますから。例えば、松井さんが足首を痛められて、カッティングが高くなりましたが、去年は足首をしっかり可動域を広げたいということで、ローカットのタイプに戻していました。

――春名さんのご意見として、野球の中でのスパイクの影響力はどのようなものでしょうか?

「春名」 スパイクは、走る時も、打つ時も、守る時も常にはいていますからね。長い時間使うものです。軽いから疲れない、重いから疲れるというわけではないですが、足にフィットさせてやれば疲れも軽減できる。ですから、スパイクにも、もっとこだわってほしいですね。

――高校生にメッセージをお願いします

「春名」 もうちょっと丁寧に手入れすれば、長持ちするのにと、いいたいですね。スパイクは値段が高いですから、親がどれだけの苦労をして買い与えているのか認識してもらって、しっかり感謝してやってほしいですね。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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