Interview

JFE東日本 鹿沼圭佑選手

2012.04.27

第95回 JFE東日本 鹿沼圭佑選手2012年05月14日

 高校では甲子園のマウンドを、大学時代は全日本の舞台も経験してきた右腕・鹿沼圭佑。桐生第一高では、2006年夏の甲子園で、リリーフとして活躍し、3回戦まで勝ち進んだ。 
東洋大では、リーグ5連覇を経験。4年時には、投手ながらキャプテンも任された。同期の乾真大(北海道日本ハム)とともに、王者のマウンドを守りぬいた。

 卒業後、JFE東日本(本社・千葉県)に入社。昨年は、肩痛で満足のいく投球が出来なかったが、一冬こえた2年目の今シーズンは大きく成長。公式戦でも大事な場面を任せられるようになった。また、今年は“真っ直ぐ”に自信がついた。伸びのある直球を武器に、4月に行われた岡山大会では、敢闘賞を受賞。大学時代は、スライダーがウリの鹿沼も今年は、投手としての大きな変化を遂げている。
 僅か入社14ヶ月の間で、鹿沼が感じてきた課題。そしてその解決策とは?高校生の投手、必見の内容です!

課題は低めへのコントロール

“社会人選手の対応能力の高さに驚かされた”

――昨年2011年にJFE東日本に入社されてすぐの目標は、どんなことを設定していたのでしょうか?

鹿沼圭佑選手(以下「鹿沼」)  大学と同じで、中継ぎなどで抑えて結果を出していけたらなというのと、プロを見据えて1年目からバリバリ投げて、アピールをしたいなという思いはありました。だけど、春先すぐに肩を痛めてしまって、球速も全然上がらなくて。公式戦でも投げていなかったので、そんな自分への歯がゆさはありました。

――その中で1年目は、どんなことを課題において取り組んできたのですか?

「鹿沼」  肩を痛めて、ベストに近い状態で投げられていなかったので、『調子が悪い中で、低めに投げるコントロールを身につける』という課題を入社してすぐの4~5月で見つけました。この時期のオープン戦で、『ストライクが欲しい』という心理状態になって、ボールが真ん中に集まって、高めに浮いて、それを狙われる場面があったんです。

――大学とは、レベルが全く違いましたか?

「鹿沼」  そうですね。大学に比べて一人ひとりのバッターの質が違うので、スイングも違うというのはあるんですけど、僕くらいのピッチングで、ベルトの近くに真っ直ぐを投げたら簡単に打たれてしまう。スライダーも結構自信があったんですけど、簡単にカットされたりとか多かったので、社会人のバッターの対応能力の高さに驚かされました。

――この春の鹿沼投手のピッチングをみていると、『低めに投げるコントロール』もすでに身につけられ、さらに大学時代よりも真っ直ぐの“伸び”を感じます。昨年から、この春までの期間でどんな練習やトレーニングをされてきたのでしょうか?

「鹿沼」  2つあります。リリースポイントの意識を変えること。そして、股関節周りの柔軟性と筋力をつけていったことです。

 次のページからは、鹿沼選手からその具体的な練習法とトレーニングについて伺います。

[page_break:.低めの投球を手に入れるための練習法&トレーニング]

低めの投球を手に入れるための練習法&トレーニング

“骨盤の中の筋肉を使うイメージで投げる”

――それでは、まずはリリースポイントの意識を変える練習法について、教えてください。

「鹿沼」 最初は、コーチから『ベースの前でいいから、思い切って低めを投げろ』と言われて投げたんですけど、不思議と高めにいってしまう。
 それでも、自分の意識の中で、ベースの前に線を引いて、そこに向かって投げるような意識に変えていき、ある程度は低めにいくようになりました。ホームベースをめがけて投げようとしてもどうしても高くなってしまうので、それより1メートル前くらいに向かって投げるイメージです。そうすると、必然的に低めに行くんですよね。おもしろいですよね。でもそれでも、僕の場合はまだ高かった。今まで投げていた感覚もあるので、どうしても体が勝手に動いて、リリースポイントが早くなってしまうんです。

――それをどう直していったのですか?

「鹿沼」 右手だけで持っていっても、どうしても球は浮いてしまうので、使っていない左手で、目標にしているところに体をリードしていく。体重移動も、低めに投げる時は、傾斜を使って、肩のラインをより低めに移動していくイメージですね。また、股関節のトレーニングでリリースポイントを安定させることも重要ですね。
(※股関節のトレーニングについては後半で説明しています)

 

――オープン戦などの実戦で、試してみてどうでしたか?

「鹿沼」 実戦で投げても、あまり上手くいかなかったです。ブルペンの時は、そこにだけ意識を持っていけばいいんですけど、いざ試合になると対バッターなので、いつもの自分に戻ってしまいました。

――そこでまた課題が出来るわけですね。

「鹿沼」 そうですね。そのズレを修正して、自然と体が覚えて投げられるようになるには、時間がかかりましたね。感覚を掴み始めたのは、3か月以上経った12月くらいですね。

――それを覚えるには、とにかく「練習量」ですか?

「鹿沼」 量ですね。根気よくやり続けるしかないですね。ブルペンで出来るようになっても、試合でそれが100パーセント出来るかって言われたら、僕の中で実際は半分いかないぐらいだと思うんです。でも、それをやり続けたことで、低めのコントロールが出来るようになっただけでなく、まっすぐの質も変わりました。
 それはこの練習以外にも、トレーニングのおかげというのもあるんですよね。

――トレーニングでは、どのようなことをされたのでしょうか?

「鹿沼」 僕は股関節がもともと固くて、(投球動作時に)左足が突っ張るピッチャーでした。そうなると、タイミングで投げているだけになるので、コントロールが一定にならないんですよね。
 そこで、まず下半身の動きでリリースを安定させることを目標におきました。オフシーズン中はずっと、股関節のトレーニングを取り入れたことで、この春は去年の4~5月に比べると、体重が一段階前に乗るようになったんです。

 次のページでは、体の動きの説明とトレーニング内容を紹介します!

[page_break:小さいコマの動きを身に付ける]

小さいコマの動きを身に付ける

“常に意識を持って取り組むことで全てにつながる”

――リリースポイントの変化は?

「鹿沼」 リリースポイントは、『前』になってると思います。体重が乗っている分、体重移動がスムーズになって、リリースのばらつきがなくなりました。
 今までは股関節の動きが外回りというか、コマのように回っているのではなくて、物体がこう動いただけで、踏み込んだパワーをただ『上』にしか伝えていなかったので、リリースがバッター寄りではなく、自分の頭の上だったんです。
 それを冬のトレーニングによって、コマみたいな小さな動きで股関節が使えることができるようになったおかげで、踏み込んだ左足のパワーを上にいくのではなくて、直(じか)に止めている時間が長くなって、リリースが多少、前になったんだと思います。

――小さいコマのイメージとは?

「鹿沼」 骨盤で投げていると体重が左足にスムーズに乗り切らないけど、骨盤の中の筋肉の“並行の力”を使うというイメージですね。この動きが出来れば球も速くなると思います。

――トレーニング内容は、どんなことをされていたのですか?

「鹿沼」 軽いシャフトを使ったウエイトトレーニングですね。コマの動きというのも、軽い20キロくらいのシャフトを持って、股を締めている状態で、ここにトレーニング用の棒をキュッと挟んだまま、下に体をおろすというトレーニングを右と左それぞれでやりました。回数は自分がきつくなったところで、もう1回くらいやるのが目安でした。これで内転筋が鍛えられますね。

――春先には、感覚がだいぶ変わりましたか?

「鹿沼」 そうですね。年明け1月から練習が始まった時に、ピッチングの感じがすごく良くなったんです。今年に入ってからずっと調子が良くて、そのままの状態でここまで来てますね。

――いまや、監督やチームメイトたちも驚くほど、進化した鹿沼投手の真っ直ぐですが、敢闘賞を受賞された4月の岡山大会では、最も記憶に残っている一球は?

「鹿沼」 準決勝の時に投げて、自分が1点取られたあと、最後真っ直ぐを投げて三振を取ったんですけど、それが以前の低めが垂れて沈んだ真っ直ぐだったら、普通に打たれてたんですよね。そこを垂れずに低めにそのまま伸びる真っ直ぐで、三振が取れたのが嬉しかったです。周りの人からも、「変わったね」って言われたのも嬉しかったですね。
 カウントが悪くても、低めに投げることが出来れば、バッターが見逃したり、打ち損じてくれることもあるので、ひとつ自信になりました。

課題と向き合うためには、仲間を呼べ!

“まずは低めへの意識から変えていきました”

――今回は鹿沼投手の課題克服の過程について伺いましたが、高校生たちが自分の課題を克服する際に、どんなことが大切でしょうか?

「鹿沼」 課題を見つけたら、根気よく、その課題と向き合って練習を続けること。僕も半年くらいかかってやっと成果が出たので。それをどこかで諦めていたり、結果が出ないと思ってやめていたら、今の自分はないと思うので、そこは根気よく続けることですね。

――ただ、課題といえば自分が苦手なこと。苦手なことは、楽しくないので、続けるのが難しそうですが…。

「鹿沼」 仲間を呼ぶことが大事だと思います。僕も、そのトレーニングをやり始めた時は、他にピッチャーとか仲間を呼んで、周りを巻き込んでいきました。ライバルじゃないけど、張り合いがある人がいれば続けられると思いますよ!

――課題克服のための計画は、どう立てていましたか?

「鹿沼」 課題を克服するときは、いろんなことを追い求めないほうがいいです。パニックになるので。そのことをやりたいなら、そのことに集中して、意識を常に持っていく。練習でも、実戦でも。そうすればきっと全てが、解決につながっていくと思います。

――では、最後に夏を迎える球児たちにメッセージをお願いします!

「鹿沼」 投手に向けてですが、自分の持っている球種の中で、自分が信頼をおけるボールを作っておきましょう。カウントが悪くなっても、このボールなら絶対に打ち取れるボールというのがあると、どんな状況であっても自信につながりますから!

 鹿沼投手、ありがとうございました。オープン戦から自らの課題に気付き、そこに向けて半年間、徹底的に練習をやり抜いてきた鹿沼投手。高校、大学、そして社会人と、鹿沼投手は常に成長を続けています。
 都市対抗予選は5~6月からいよいよスタートします。入社2年目の今年、磨き上げた真っ直ぐを武器に戦う鹿沼投手の投球にも注目です。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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