智辯学園高等学校 小野耀平選手
第82回 智辯学園 小野耀平選手2011年09月29日
「負けるつもりはない」―――。
この夏、ベスト8に進出した智弁学園はエースで主軸を打つ青山大紀の活躍が目立つチームだった。
青山が投げて、青山が打つ。
それがこの夏の智弁学園だった。
しかし、その現状に、反骨心を燃やす男がいた。この夏、2番手投手を務めていた小野耀平である。冒頭の言葉はこの夏の甲子園初戦を迎える前、試合前取材で青山について話していたところ、小野の口から出てきたものだ。
確かに、小野のピッチングには魅力的なものがある。なかでも、2種類あると言うスライダーは打者の手元で鋭く切れ、空振りが取れる。指揮官の小坂将商監督曰く、「今でも高校生の球は僕でも打てる。でも、小野のスライダーは打てない。アイツのスライダーは相当切れる」というほどだ。
MAX143キロのストレートと空振りがとれるスライダーを投げ込む、いわばパワーピッチャー。
小野は、ライバル青山を抜くことができるのか――。青山へのライバル心を軸に、この1年にかける想いを存分に語ってもらった。
[nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
エースナンバー”青山大紀”の存在
持ち味のスライダー、過信と克服
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
[/nophoto]
[nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
エースナンバー”青山大紀”の存在
持ち味のスライダー、過信と克服
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
[/nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
“(準々決勝作新学院戦を振り返って)
自分のせいで負けたと思っています”
――夏は甲子園でベスト8。準々決勝では先発もしました。どんな夏でしたか?
小野選手(以下「小」) 甲子園に行けて、ベスト8までいけたのは嬉しかったし、自信になりました。でも、ベスト8まで行ったのは青山や先輩の力なので、自分が何かをしたっていうのはあまりないですね。
準々決勝の作新学院戦では先発させてもらっていたので、自分のせいで負けたと思っています。自分の甘さに気付かされました。奈良県大会で抑えて、青山が甲子園で抑えていたので、俺もいけるかなっていう隙がありました。
――甲子園のマウンドで投げたいと言う気持ちはずっとあったんですか?
「小」 正直、あるのはあったんですけど、甲子園に来てから調子があまり良くなかったんで、不安と嬉しいというのが混ざっていましたね。ライトで守っている時から、調子が悪いのは分かっているんですけど、ピッチャー打たれへんかなとか、出番ないかなとは思っていました。
――その中で、さっきも小野君が言っていた準々決勝では先発して、降板させられましたね。ライトに下がった時は何を考えていましたか?
「小」 県大会とか、練習試合とかやったら、多分、切れていたと思います。僕は、すぐに切れるんですよ、集中力がなくなったりする。でも、あの時は甲子園っていうこともあったので、自分のことは置いといて、チームのことを一番に考えて、やれることをやろうと思いました。
――青山君との差は感じた?
「小」 そうですね。甲子園で改めて感じたというか。差は感じましたね。
――それでも、まだエースを奪いたいと思えているんですか?
「小」 そう思ってやっています。負けていないって言うより、『負けへんぞ』っていう気持ちの方が強いですね。
[nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
エースナンバー”青山大紀”の存在
持ち味のスライダー、過信と克服
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
[/nophoto]
エースナンバー”青山大紀”の存在
“自分には持っていないものを青山は持っている”
――小野君が青山君の存在を知ったのいつですか?
「小」 中学のボーイズの頃からです。奈良県で同じ支部だったんで知っていました。ただ、最初に見たのは野手だったので、投手のイメージはなかったですね。『投手青山』は中2の秋くらいに初めて見ました。見た時は、対戦相手にこんな投手がいたら、上に行くのは大変やと思いました。打ち崩すのは難しいな、と。ストレートは速いし、変化球切れるし…。
――実際、対戦はしたんですか?
「小」 対戦はなかったんですけど、高校に入る直前、中3の最後に、僕が所属した生駒ボーイズと青山のいたJFK葛城ボーイズとジュニアホークスで合同紅白しようってなったんです。
そこで青山が投げて、自分はセンターを守っていたんですけど、青山の球の軌道をセンターから見て、こんなに伸びるんや、ミットに吸い込まれて行くっていうのを感じました。こういう球を投げたら上にいけるのか、と。自分には持っていないものを青山は持っているなと思いましたね。その時から、絶対、負けへんぞって、ずっと思っていました。
――高校に入学して、青山君は1年から投げていました。悔しかったでしょう?
「小」 悔しかったです。同じポジションを守っている以上、ライバル意識は誰にだってある。アイツは1年の夏からでもいいピッチングしていた。秋はアイツが背番号「1」をもらっていたし、絶対、負けられへん、っていう気持ちはずっと持っています。自分、背番号「1」とる気なんで。
[nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
エースナンバー”青山大紀”の存在
持ち味のスライダー、過信と克服
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
[/nophoto]
持ち味のスライダー、過信と克服
“初めて、まっすぐを思い切って投げられた”
――昨年秋からの小野君はどうだった?
「小」 秋にしても、春にしても、完璧なピッチングって一つもしていないんです。僕には波があるというか…、たくさん点を取られるってことはないんですけど、何か課題が残る。コントロールが悪いとか、大事なところで打たれるとか。0点で抑えられていたのに、気を抜いて取られたりしていました。夏の大会まではいいピッチングはできていませんでした。
――小野君の持ち味はスライダーだと思うけど、自分ではスライダーにこだわっているんですか?
「小」 それはありますね。例えば、他チームの試合で投げているピッチャーを見て、俺のスライダーの方が良いやろ、負けへんなっていう自信はあります。今、自分が上で勝負するなら、スライダーが絶対武器になると思っています。『誰にも負けない』と言ったら、つけ上がり過ぎですが、表現としては誰にも負けたくない。スライダーだけは、誰にも負けたくないんです。
―でも、春はスライダーに頼りすぎて、苦しんでいたんじゃないですか?
スライダーが7割でした。これではあかんやろって、いろんな人に言われました。秋から春の天理戦では、スライダーばっかり投げていました。
――代わったきっかけはあったのですか?
「小」 秋の決勝で天理に当たった時、近畿大会に行けるのがその時には決まっていたんで、僕は、監督さんの部屋までいって「天理戦は自分に投げさしてください」っていいに言ったんです。でも、監督からは『青山が投げるから無理』って、言われて…。青山がうたれたら、投げさせたるからって。でも、青山は完封して、それがあって、春は天理戦で投げさせてもらった。
それで、春の天理戦の前は、試合前に監督に呼び出された。『スライダーを2球連続でも投げたら、1回からでもかえたるからな』って言われたんです。『真っすぐで押せ』、と。それでまっすぐ勝負をしたんです。僕は、これまでずっとピッチャーやってきて、スライダーで勝負してきていたので、そこで初めて、まっすぐを思い切って投げられた。大げさに言うと、まっすぐと向き合えたんです。
自分、負けず食らいで、我が強くて打たれたくない。そうなってきたら、自分の得意な球ばっかり投げたがるんです。スライダーを投げすぎたら、まっすぐより疲労感があるので、イニングが持たなくなって、コントロースが定まらない。そうなってからストレートを投げたって走らない。だから、打たれる。悪循環が起きていたんですけど、それでも、僕はスライダーばっかり投げていたんです。
木挽コーチにも、それは言われていたんですけど、打たれるのが嫌やったんでできなかった。思い切ってストレートを投げられなかった。天理戦を前に、監督さんが『打たれてエエから真っすぐで押せ』って言ってくれたおかげでまっすぐと向き合えた。自分の弱点と向き合えた。結局は、打たれてしまったんですけど、ストレートを磨けば、新しい道、自分のレベルアップにつながるって、その時に思えた。
[nophoto]
甲子園準々決勝、マウンドで気付いた自分の甘さ
エースナンバー”青山大紀”の存在
持ち味のスライダー、過信と克服
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
[/nophoto]
「負けたくない」ではなく「負けない」という気持ち
“今年の夏の借りはホンマに返さないといけない”
――でも、打たれてもエエって言われても、やっぱり通用しないとスライダー投げようって、思わなかった?
「小」 ストレートを投げて、カッチンと打たれた時には、やっぱり『あかんやん、監督の指示無視してスライダー投げたろかな』とも思ったんですけど、打たれて元々や、って開き直って行きました。ピッチング練習の時とか、まっすぐに自信がないので、周りに見せたくない。味方やのに弱みを隠すみたいなところがあって、僕は練習でもスライダーばっかり投げていたんですけど、春が終わってからは練習でも、まっすぐを投げられるようになりました。
――将来はプロ野球選手になりたいと思ってるんですか?
「小」 プロ野球選手になりたいという夢は小学校から変わらないです。目標とするのは三振を取れるピッチャーになりたいですね。三振を取れるピッチャーが勝てるピッチャーかといわれたら、違うかもしれないけど、それでも、投手の醍醐味っていうか、三振をいっぱいとれたらかっこいいって思っています。究極は三振を取れて、勝てる投手になりたいです。
――高卒でプロを目指しますか?
「小」 高校に入る前はそう考えていたんですけど、高校でやっていく中で、今の実力で、上で通用するんかなって思い始めたんですよ。自分より上ってナンボでもいる。
今の自分の実力では通用せぇへんやろって。それがたまたまプロに入れたとしても、2、3年で終わったら意味はないと思いますから。プロは実力の世界ですし、高校から大学の間で実力を上げて、プロに入った時には通用する投手になれたらと思います。
――野球選手としてゴールはー?
「小」 さっき言ったように、三振取れるっていうのもあるんですけど、日ハムに新庄っていたじゃないですか?ポジションは外野手でしたけど、面白いというか、プレー以外でも人を惹きつけるのが好きなので、そんなプレーヤーになりたいです。プレーでも、プレー以外でも、人を楽しませる選手になりたいですね、
――今、やっている秋の大会、来年の選抜と大会はありますけど、どういう結果を残したいですか?
「小」 ホント、去年からも感じていたんですけど、1年がすごく早い。あっという間やと思うんで、できることをしっかりやって、神宮、センバツ、夏と大きな舞台に行きたいですね。去年の先輩が良いものを見せてくれたので、先輩に負けないくらい、頑張りたいです。
――背番号「1」をつけて?
「小」 それもありますし、今年の夏の借りはホンマに返さないといけない。やられっぱなしで終わりたくないです。
――青山君を追いぬけますか?今後も、一生のライバルになるかな?
「小」 追い抜けると言っておきます。実際、どうかはわからないですけど、青山は、これからも上に行くと思います。突っ走っていく選手だと思います。で、もし、自分がプロ野球に入ったとしたら、自分は意識すると思います。アイツには「負けない」ではなくて、負けたくない。チームで一緒に、刺激し合えたらと思います。
(インタビュー:氏原英明)