Interview

市立岐阜商業高校 秋田千一郎選手

2011.08.12

第79回 市立岐阜商業高等学校 秋田千一郎選手2011年08月17日


 「松坂世代」「ハンカチ世代」に代表される「○○世代」という言葉を、岐阜県の高校野球に当てはめるとしたら、2011年は「葛西(侑也・大垣日大)世代」で、2012年は間違いなく「千一郎世代」だろう。各校新チームが始動しているが、県内でその中心となる存在が市立岐阜商(岐阜)の秋田千一郎投手だ。
 1年春から公式戦でマウンドに上がり、140キロ台の豪球を投げ、打っても4番打者。秋田の父が同校・秋田和哉監督という話題性も手伝い、常に注目を集めてきた。

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【目次】

夏の大会の振り返り


ロック・クライミングで「脱力」の感覚を養成


深みのあるピッチング理論


父の背中、そして大学生最強右腕の存在

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夏の大会の振り返り

秋田千一郎(市立岐阜商)

 インタビューを行ったのは、甲子園が開幕した8月6日。この舞台に今夏、秋田投手が立っていてもおかしくなかったが、県大会4回戦で大垣商に惜敗して全国デビューは叶わなかった。
「夏にエースナンバーをつけるのは初めてだったので、一人で投げ抜く大変さと責任を感じました」と本人は振り返る。

 初戦の多治見工戦では、中学時代に投げていたツーシームを再び取り入れ、変化球の効果で13奪三振をマークした。続く加納戦は9回2失点で勝ち上がったが、春季大会で苦杯をなめた大垣商にまたも敗れた(スコアは2対3)。
 敗戦の悔しさもあり、秋田の口からは反省の言葉が並ぶ。

「初戦では水分を摂りすぎて途中から体が重くなり、翌日はお腹をこわしてしまいました。1リットル飲んだイニングもあったほどです…」
 ちなみに秋田はその後、効率の良い水分補給の仕方を調べ、とあるトライアスロン選手が氷を舐めているという記事を発見したという。
「それを参考に、自分は次の試合からアイスクリームを摂ったりもしました」

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【目次】

夏の大会の振り返り


ロック・クライミングで「脱力」の感覚を養成


深みのあるピッチング理論


父の背中、そして大学生最強右腕の存在

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ロック・クライミングで「脱力」の感覚を養成

秋田千一郎(市立岐阜商)

 秋田は、さらに大垣商戦を振り返る。
大垣商戦はフォアボール絡みで失点したのが悔やまれます。1年時から言われていた課題が、ここでまた出てしまった。あとは失投も…。インコース低目を狙ったスライダーが抜けて高めに浮いてしまい、詰まりながらもライト前に落とされて、それが2点タイムリーになってしまったんです。きめるべきところでしっかり(制球を)きめないといけませんでした」

 だが、今後に向けて明るい材料もある。夏の大会前、フォームのコツを掴んだことで、春からの不調を脱したことだ。大会直前の練習試合でも東海大相模を相手に被安打6、失点2で完投。センバツ優勝校を相手に「結構打たれるかもなぁ」と不安だったが、好投して自信もついた。
「6月はじめにフォームを修正したんです。それまでは『力を入れる』だけで、テークバックも小さかったのを、ワンテンポ間(ま)を置くというか…。足を上げたときにワンクッション置くことで、『力を抜く』動作を入れる。要は、1年生のころから速い球を投げていて、『力を入れる』ことにこだわり過ぎていたんです。ずっと力を入れ続けるのではなく、抜いた状態から入れる。その方がストレートもスピードが出るし、最初から力を入れた状態では、変化球もリリースで合わせるだけになってしまいます」

 「力を抜く」という感覚を養うため、4月から夏の大会まで週2回、トレーナーの助言に沿い練習にロック・クライミングを導入していた。
 「やる前は楽しそうに見えましたが、実際にやってみると最初は手が震えて、全身がこたえましたね」
 ロック・クライミングでは、壁に埋め込まれた石を掴んでいる指先には相当に力が入っている。だが、全身は脱力した状態にあるらしい。次の石に移る時、体幹に力を入れて体を持ち上げながら、新たな石を掴む指先に力を込めるが、やはり全身は脱力が基本だという。ユニークな練習である。


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【目次】

夏の大会の振り返り


ロック・クライミングで「脱力」の感覚を養成


深みのあるピッチング理論


父の背中、そして大学生最強右腕の存在

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深みのあるピッチング理論

秋田千一郎(市立岐阜商)

 秋田のフォームは完成度が高い。その原点は、中学軟式クラブチーム「岐阜フェニックス」でプレーしていたころにさかのぼる。同チームで「体の使い方」を中心に教わってきた。雄大な体を授かりながらも「力が特別にあるほうではない」という秋田が、そこで合理的な体の使い方をマスターした。

 秋田千一郎流・投球フォームの重要ポイントは3点だ。
(1)テークバックからリリースまでの動きを速くする 
(2)投げる瞬間に、踏み出した右足をわずかに引く 
(3)リリースにおいて、投げる腕も『引く』ような感覚で 

 まずは(1)について。
「中学でスピードが伸びなかった時期がありました。それで、前(リリース)を速くしようとするあまり、トップでかつぐような形になってしまったり、前を意識しすぎてフィニッシュで体が斜めに傾いてしまったり。でもそれではダメでした。逆に、テークバックからリリースまでを一連の動作にして『スッ』と速く投げることで、自分の場合はボールに力を伝えやすくなりました」

 (2)について。
「右足(踏み出した足)を引くから、上(腕や上体)が前方に出てくるんです。僕の投球フォーム映像を見ると、投げる瞬間にちょっとだけ右足を引いているのが分かります。右足の引きとリリースがずれると、バランスも崩れてしまうので、ぴったりと合わせます。同時にこれで体をタテに使えるようになりました」

 (3)については、一度聞いただけではなかなか理解しにくいが、
「『止める』ようにリリースするというか…ヨーヨーを放つときのような感覚です。反動がつくし、止める分、腕がしなります」

 キャッチボールでもフォームを意識し、上記チェックポイントを点検する。さらに、腹筋を中心にして体を前後に使えているかを確認。ボールに最大の力を加えるため怠たりはない。

 また、腕の振りにおいては「手首から入れる(手首から振っていく)」という感覚を大切にしている。
「一般的には、ヒジから入れる(ヒジから抜こうとする)ピッチャーが多いですが、自分の場合は、手首→ヒジ→肩の順に入れていく。ヒジから入れると『抜け動作』になるので逆効果なんです。プロの好投手の連続写真を見ると、リリースの瞬間に脇が開いているのですが、手首から出すことにより脇も開く」
 ちなみにこの「手首から入れる」という感覚は、バスケットボールのシュートやバレーボールのアタックなどで体得したそうだ。


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【目次】

夏の大会の振り返り


ロック・クライミングで「脱力」の感覚を養成


深みのあるピッチング理論


父の背中、そして大学生最強右腕の存在

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父の背中、そして大学生最強右腕の存在

市立岐阜商グラウンド

 既に知られていることだが、秋田の父は同校の秋田和哉監督だ。小学生のころから夏の大会は欠かさず応援に駆けつけ、進学も自ずと市立岐阜商を志した。

 「僕の口から(入部すると)父に言ったことはないです。母には伝えていたので、父も知ったのではないですか」
 当然、グラウンドに親子関係は持ち込まない。
 実際に父の野球部に入部してみての感想は「あまり関係ないですね。家ではほとんど喋らないので」とのこと。これは父・和哉監督も、部に息子がいる心境を聞かれて同じセリフを吐いていた。

 秋田にとって、父の背中のほかにもう一つ、「かっこいい」と憧れ追っている大きな存在がある。今年のドラフト1位候補右腕・東海大の菅野智之投手だ。秋田のトレーナー(中学時代所属の「岐阜フェニックス」のチーム代表でもある)が菅野のケアも担当しており、その縁で知り合った。

 最初に知り合ったのは秋田が小学6年生(菅野は高校3年生)のときだ。「最初はそこまで菅野さんのことを知らなくて、東海大相模のピッチャーかぁ、くらいにしか…」と笑うが、秋田自身の年齢と菅野の活躍度が増すにつれ、すぐに凄さが分かった。以来、毎年定期的に会い、メールでもやりとりを重ねる。

「菅野さんは何事もよく考えています。オフの日も体のケアに重点を置いて過ごされていて、参考になります。大学選手権での菅野さんの経験談から、変化球に頼り過ぎてはいけないと教わりました」
 秋田は今夏カットボールなど変化球を駆使したが、菅野の教えを守り、基本はストレートだという大前提も忘れてはいない。

 菅野からは「甲子園に行けなかった俺の分まで、甲子園に行ってくれ」と夢を託されている。そして、父と聖地に行くという誓いも果たさねばならない。まずはセンバツのかかる今秋の戦いで、東海地区の頂点を目指す。

(文・インタビュー:尾関 雄一朗)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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