延岡学園高等学校 岩重章仁選手「衝撃デビューの2打席連続弾の背景」
第77回 延岡学園高等学校 岩重章仁選手2011年08月10日
華やかな大舞台・甲子園。そこでは、全国的に知られていない1年生が彗星の如く現れ、大観衆を魅了することがある。
PL学園の桑田真澄、清原和博、大阪桐蔭の中田翔・・・。
彼らは甲子園という大舞台でメディアのスポットライトを浴びて一躍、スーパー1年生としてその名を日本中に知らしめる。当然、甲子園で活躍することは並大抵のことではない。だが、甲子園に出場していなくても、各地にスーパー1年生が潜んでいることを忘れてはいけない。
今年4月に開催された第128回九州地区高校野球大会で、高校入学間もない15歳3ヶ月の若き大砲が、右へ左へと二打席連続弾を放ち、衝撃のデビューを飾った。
逸材の宝庫といわれる九州に突如出現したスーパー1年生。今夏、甲子園での全国デビューこそならなかったが、今秋以降、是非注目したい次世代のスター候補であることは間違いない。
[nophoto]
中学時代を振り返って(軟式から硬式へ)
延岡学園に入学して
新チームのこれから
[/nophoto]
[nophoto]
中学時代を振り返って(軟式から硬式へ)
延岡学園に入学して
新チームのこれから
[/nophoto]
中学時代を振り返って(軟式から硬式へ)
“上から叩くように指導してもらった”
――串間市立大束中学時代(軟式)は、どんな選手でしたか?
岩重選手(以下「岩」) 1年秋からは5番を打っていてポジションはサードでした。それで2年の春からはキャッチャーもしたのですが、3年春にピッチャーにコンバートされてから、投げない時はショートも守りました。(最上級生になって)打順はずっと4番だったのですが、たまに1番を打つ時もありましたね。ピッチャーの方ではあまり期待されていなかったんで、バッティングの方で期待されていた感じですかね。
※ちなみに当時の大束中学は1学年1クラス(30人)で全校生徒が93人。それでも同学年で野球部は7人いたそうだ。
――串間市の大会で優勝したって聞きましたが。
「岩」 3年の春ですね。串間で優勝したっていっても3チームしかないんですよ。それで県大会に出場することになったのですけど、口蹄疫の関係で大会が中止になりました。それで夏は、南那珂大会という日南(市)を含めた地区大会で準優勝して、県大会ではベスト8まで行きました。
――中学時代は軟式、高校からは硬式ということでボールの違いもありますが、中学の部活を引退してから、どんな取り組みをしてきましたか?
「岩」 中体連が終わって、Kボールがあったんです。
――Kボール(第5回KB全国中学生秋季野球大会)にも出場したのですか?
「岩」 宮崎代表(宮崎K-CLUB)に選ばれて、4番を打たせてもらいました。チームは1回戦で栃木の那須Kボールクラブに負けたのですが、個人的にはフェン直(外野フェンス直撃)を打ちました。
※Kボールとは、軟式の素材でありながら、重さと大きさが硬式と同じというボール。KB野球連盟が公認したKボールを使用し、毎年全国大会が行われている。
――Kボールの大会が終わってからは?
「岩」 (宮崎市)田野に田野ベースボールクラブ(TBC)っていう硬式野球のチームがあるんですが、中学3年生だけが集まる野球教室で、33人くらい来ていました。そこで硬式に慣れるための練習をしたのですが、守備ではボールのバウンドに手こずったり、打撃では今まで(バットが)下から出ていたので、上から叩くように指導してもらったりしたので、高校に入るにあたって凄くいい経験となりました。土日はTBCで、それ以外の日は中学の部活に参加して練習を続けていました。
[nophoto]
中学時代を振り返って(軟式から硬式へ)
延岡学園に入学して
新チームのこれから
[/nophoto]
延岡学園に入学して
“カーブが来るってわかったので、
そのカーブを狙いました。”
――進学先に延岡学園を選んだきっかけは?
「岩」 野球に集中できる環境が整っているし、(昨年の)夏の甲子園をテレビで見ていて憧れもあったですね。それと二つ上の兄(寿峻)が日南学園にいて、別の高校に行って対戦したかったというのもありました。
※実際、今夏の宮崎大会決勝で日南学園の背番号12をつけた兄(捕手)との直接対決こそはなかったが、対戦チームとして同じグラウンドに立つことが実現している。
――高校の入学式が4月11日だったと聞いていますが、いつから試合に出始めたのですか?
「岩」 入学してから1週間経たないくらいに夕刊デイリー杯(第7回夕刊デイリー新聞社杯県北高校野球大会)があって、そこから5番・一塁手で出してもらいました。
――入学して2週間足らずで参戦した春の九州大会。そんな大舞台の初戦(塩田工戦)でいきなりの二打席連続弾を含む4打数3安打5打点の衝撃デビュー。改めて振り返ってみてどうですか?
【第一打席】1死満塁から初球のカーブをライナーで中前適時打。
「岩」 カーブが来るってわかったので、そのカーブを狙いました。
【第二打席】右中間より少し右側のスタンドへ弾丸ライナーの高校初本塁打。
「岩」 真ん中より少し外角寄りの高めのストレートをしっかりと捉えることができました。自分ではフェン直かなって思ったんですけど、走っていて一塁ベース前あたりで、入ったってわかって嬉しかったです。ベンチに戻ってハイタッチに行こうとしたら(濱田)晃成さんが冗談でハイタッチするなってガードされました(笑)
【第三打席】今度は左中間へ弾丸ライナーで二打席連続弾。
「岩」 手応えはありましたが、これもフェン直かなって思っていたら、また入ったので自分でもビックリしました。ベンチに戻ったら今度はハイタッチを普通にしてくれました(笑)
参考:2011年春の大会 第128回九州地区高校野球大会 1回戦 延岡学園vs塩田工(2011年04月24日)
“間を抜くバッティングをするように”
――鮮烈なデビューのあと、悩んだ時期とかはありましたか?
「岩」 夏前のことですが、打てない時期がありました。サードゴロばかりで・・・悩みましたが、先輩が「何も考えないで来たボールを思いっ切り振れ」って言ってくれてから、また外野にどんどん飛ぶようになりました。
――今夏、宮崎県大会決勝で日南学園に惜しくも敗れましたが、初めて迎えた夏について感想を聞かせてください。
「岩」 夏ということで緊張したこともあるのですが、全試合で3本(14打数3安打)しか打てませんでした。決勝で負けて、3年生の先輩達が泣いているのをみて、絶対自分たちが甲子園に行って借りを返そうと思いました。
――今夏までは、(5番打者の)自分の前に3年生の濱田晃成という偉大な4番打者がいましたが、何か得たものはありますか?
「岩」 練習や自主練習でも晃成さんが教えてくれたり、自分から教えてもらいに行ったりとかしていました。
試合で、回の先頭に晃成さんが打席に入る時とかは「岩重、繋ぐから」って言ってくれるので「ヨシ!打って出てやろう」って思っていましたが、せっかく晃成さんがチャンスを作ってくれたのにフライを上げたりして返せなかったことがありました。そんな時、晃成さんは「間を抜くバッティングをするように」ってアドバイスしてくれました。スイングの速さや打球の伸びだけでなく、打席でのオーラがありましたし、人間的なことを含めて沢山吸収することがありました。
――高校に入学してから4ヶ月が経ちますが、この間、高校でのレベルを痛感させられたことはありますか?例えば、凄い投手がいたとか、凄い打者がいたとか?
「岩」 打者では、長池城磨さんと濱田晃成さん(ともに延岡学園)だと思うのですが、投手では、夏の県予選で対戦した宮崎商の吉田(奈緒貴)さんのスライダーとストレートは今まで対戦した中で一番凄かったです。あと、日大(宮崎日大)の武田(翔太)さんと対戦してみたかったのですけど実現しませんでした。
――その吉田投手からは打ちましたか?
「岩」 一、二塁間を抜くライト前ヒットとアウトになりましたがセンターライナーを打ちました。凄いと思った投手から打てたことは自信になりました。
※センターライナーも痛烈な打球だったようだ。
――相手が凄ければ凄いだけ燃えるタイプですか?
「岩」 (吉田投手とは)対戦する前から楽しみにしていましたし、試合になったら燃えたので、燃えるタイプですかね。
[nophoto]
中学時代を振り返って(軟式から硬式へ)
延岡学園に入学して
新チームのこれから
[/nophoto]
新チームのこれから
“まずは30本を打ちたい”
――新チーム結成後のポジションと打順を教えてください。
「岩」 まだ決まっていないのですが、練習ではショートとライトです。
※取材した8月8日は、まだ練習試合を行っていなかったため、打順も不明。
――じゃあ、もともと得意としている逆方向への打球にさらに磨きを掛けているのですね。逆に課題はありますか?
「岩」 守備です。ショートもまだ慣れていないですし、外野は中学の時に少ししたくらいなのでまだまだですからね。
――ちょうど、いま甲子園が行われていますよね。
「岩」 練習をしているのでテレビは見れないのですが、結果は新聞とかでみています。(宮崎大会決勝で敗れた)日南学園の時はちょうど練習が早く終わったのでテレビを見させてもらいました。やっぱり、行きたかったですね。
――岩重君にとって甲子園とはどんなところですか?行ったらどんなことをしてみたいですか?
「岩」 見に行ったこともないですし、本当に夢の舞台です。甲子園に出たら、まずはヒットを打って、もちろんホームランも打ちたいですね。
――本塁打を積み重ねるというこだわりはありますか?
「岩」 九州大会の時に取材された時に何本打ちたいですかって聞かれて、30本って言ったんですよ。今は8本ですが、まずは30本を打ちたいと思っています。
――憧れの選手、または目指している選手はいますか?
「岩」 中田翔さんです。高校通算87本も打っていますし、やっぱり、長距離が打てるバッティングが凄いですからね。
――最後に自分の理想のバッティングを教えてください?
「岩」 呼び込んで押しこむ。ライト方向へ強いライナー性の打球を打つことです。
現在(平成23年8月8日)、岩重は高校通算8本塁打を打っている。それも夏の大会前までの3ヶ月足らずで残した結果であるし、新チーム結成以降もまだ試合をしていないなど決して試合数が多いとはいえない中、この数字を叩きだしている。しかも、8本のうちのほとんどが自分の理想であるライト方向への強いライナー性のホームランを放っているのだ。右方向へ放り込める右のスラッガーが、これからどんな伝説を書き加えてくれるのか。岩重章仁の怪物ストーリーは、まだまだ序章に過ぎない。
(文・インタビュー:PN アストロ)