Interview

帝京高等学校 伊藤拓郎選手

2011.02.22

第61回 帝京高等学校 伊藤拓郎選手2011年02月23日


1年夏の甲子園で148キロをマーク。
一躍、注目を浴びたルーキー、帝京高校の伊藤拓郎
あの夏の日から早くも1年半がすぎ、伊藤拓郎に残された甲子園はラスト1回になった。
昨夏は東東京大会5回戦国士舘に敗戦、最上級生として、主将として臨んだ昨秋の東京大会では、初戦(2010年10月2日)で、またも国士舘に敗れて二季連続で甲子園から離れている。
世間の目は春の選抜甲子園に向いている中、ラスト1回、夏の甲子園を目指す伊藤拓郎に話しを聞いた。


衝撃デビューの1年夏の甲子園を振り返って

【今はスピードと違う部分を目指している】

――1年夏の甲子園、すごい場面でのデビューでしたね。

「伊藤」(以下「伊」) 初戦の敦賀気比戦の最終回、「1アウトとったらいくぞ」と監督に言われていたんですが、(先発の平原投手が)最初のランナーが出てしまったので、2アウトをとったところで「頑張ってこいよ!」って送り出されました。緊張しすぎて何も考えられなかったです。

――周りは見えましたか?

「伊」 周りをみて緊張しました!投球練習で球があまり決まっていなくて、案の定、マウンドにあがっても2球目まで高めのすっぽ抜け。ベンチをみたら監督が慌てていて、またヤバイなと。その後、ワンバウンドを投げるつもりで、前で離す意識で投げたら、結構球がよくて決まって、そこでやっと冷静さが戻ってきました。

――その球のスピードガンはみましたか?

「伊」  決まったのをみて真上のスコアボードをみたら146。

――スタンドがどよめいたでしょう。

「伊」 その球ではそんなでもなかったんですが、次の4球目が147で、そのときのスタンドの声は自分でも聞こえました。

――自己最速ですよね。

「伊」 そうですね。自分でも、なんであんなに投げられたのかわかんないですね。

――次の九州国際大付戦で148キロ出しましたね。

「伊」 ほんと、なんであんなに出たのか…。

――その後、2年夏の予選前に144、2年夏の予選で142で、2年秋は……

「伊」 全然ダメでした。球速的には1年夏が一番よかったんですね。でも、スピードももちろん大事ですが、今はスピードではなく違う部分を目指しているんです。

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“球の質”を求め始めた今

【2010年夏の大会・5回戦国士舘戦より】

――今、スピードではなく違う部分を目指している、という話しが出てきましたが、それはどういう部分でしょう。

「伊」 前はスピード、スピードと思っていたんですが、今は球質というか、球の切れや伸びを意識しています。

――シートバッティングで投げているピッチングをみていると、フォームも変わったように思います。

「伊」 前はテークバックのときから力が入ってただ腕をバンと振っているような感覚。見るからに硬かったと思うのですが、今は、テークバックのあたりは力を抜いておいて、その後は肘をしならせて、最後のボールを離す瞬間に力を入れるイメージです。

――それはいつ頃からですか?

「伊」 秋の大会で負けてしまった後の10月中旬ぐらいなんですが、それからは腕も振れるようになって、球質も変わって、切れも出てきたように思います。キャッチャーからも「前に比べて手元で伸びてる」と言われます。

――体重移動も、前とは違ってきているのですか?

「伊」 秋は、最後の左足に体重が全部乗り切っていないというか、まだ乗っけられないこともあって悩んでいました。ステップ幅を半歩変えるだけでも全然違うので、どのぐらいにしたら一番いいかで迷ったり。でも、いろいろ試してやっているうちに、そこの感覚もつかめてきました。

――変化球はどうですか? あの素晴らしいスライダーは健在ですが。

「伊」 これもいつも試行錯誤です。どうかけたらどっちに曲がるとか、どのぐらい曲げるとどうなるとか、まずは頭で考えてそれから投げてみて…という感じですね。投げられるようになってからも、もっといろいろ考えてやってみて、それがよければそっちを使ったり。

【スタミナもついてきた】

――いつもよく考えてますね。試合中におかしいな、と思ったところを修正していく力もついてきているのでしょうか?

「伊」 それは前から自分のフォームについては全部わかります。今日はこうなってるからこうしていかないと…とか、今日はここがダメだからこうしていこう…とか。

――そこもすごいところですね。でも、やはり疲れてくると体が言うことをきかなくなってきたりもするのですか?

「伊」 そうですね、疲れてくると、頭では分かっていても、球が抜けたりしちゃうというのはあります。スタミナがなくなってくると、バランスの崩れにつながっていいボールがいかなくなるんです。

――その投げるスタミナについてはどうですか? 前まではどうしてもスタミナのなさというのは感じられましたが。

「伊」 昨秋の大会までは確かにスタミナはなかったです。特に秋は、夏の大会で負けて以来、1ヶ月間、ノースローできたので。でも、負けて以来、

毎日ブルペンに入って投げ込んで、投げるスタミナをつけてきたので、今はもう大丈夫です。

――今シーズンは完投も、さらに連投でもいけますか?

「伊」 いけます! 

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ラスト1回の甲子園に向け

【最後の夏は自分の力で甲子園に連れて行きたい】

――昨夏、昨秋と負けてしまい、残す甲子園は1回になりました。今はどんな気持ちで練習していますか?

「伊」 今は自分自身の調子もいいので、早く試合をやりたいな、という思いですね。

――昨年のオフは神宮大会があって選抜までと短かったですが、このオフは秋の大会で早く負けてしまい選抜もない……長く感じましたか?

「伊」 いえ、負けてから今まであっという間だった気がします。自分のやるべきことを考えると、時間があまりないんです。いや、ないって思った方が、逆に「やらなきゃ!」っていう気になるのでそう思うようにしています。

――周りが選抜甲子園や、その出場校、出場選手に目が向いていて、ちょっと寂しいな…という気持ちは?

「伊」 いや、それも全然ないです。生意気な言い方かもしれませんが、取材が少ない分、練習にも集中できます。時間もとれてやりたい練習もできるのでその点でよかったなと思っています。

――では、最後の夏にかける思いを教えてください。

「伊」 1年夏は先輩に連れていってもらった甲子園。2年春は少しは自分も結果を出して行けた甲子園。でも、まだ完全に自分の力で連れていった甲子園というのがないので、3年夏は自分の力で甲子園に連れていきます!

――練習での姿をみても、前とはやる気が違っているように見えます。

「伊」 そうですね、なんか、考えが変わりました!

――以前は、自分から積極的に、という感じでもなく、マイペースだったけど、今はチームの先頭に立って動いている。

「伊」 新チームになってキャプテンをやらせてもらって、仲間を引っ張るという経験もさせてもらいました。大会後、キャプテンは松本剛になったんですが、その後も、松本を支えながらチームを引っ張っていこうという気持ち、自分が甲子園に連れていくんだ、そのためにやることがいっぱいあるからやらなきゃ、という気持ちが強くなった気がします。

――これまでは野球以外のことも頭をちらついていたようだけど…(笑)

「伊」 今は全然ないです!他のことを考えたり費やす時間がもったいなくて。今は翌日午後から練習なんていうときは、家に帰ってからも走ったり、シャドーをしたりしています。体を休める時間もちゃんととるようにしていますし。

――すごいですね!怪物が目を覚ましたのでしょうか?

「伊」 そうですかね(笑)夏、といっても時間はないので、引退するまで野球一本でいきます!やることをやったとしても、結果を出さないと意味がないので、甲子園に向けて、とにかく〝結果〟を出していきたいです!

(文・インタビュー:瀬川 ふみ子)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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