Interview

東京都高野連審判 三井俊之介さん

2014.05.21

 名門・早稲田実業野球部OBの三井 俊之介さん(26)は、大学3年生の時、青年海外協力隊の短期隊員として、約1ヶ月にわたって西アフリカのブルキナファソに滞在、現地の子供たちに野球を教える活動をしました。現在は、大手総合商社に勤める傍ら、東京都高野連の審判もしながら、ブルキナファソへの支援活動にも協力しています。その思いとは?

早実で学んだ『考える野球』がモットー

――三井さんは2006年斎藤佑樹投手がエースの早稲田実業が、田中将大投手(独占インタビュー 2013年03月02日)擁する駒大苫小牧を延長再試合で破って、優勝した年に3年生だったんですよね。高校時代を振り返っていかがですか?

三井俊之介さん(以下「三井」) 私自身は、2年生の秋大会は、ベンチ入りしていましたが控えでランナーコーチャーをやっていて、選抜出場を決める秋の優勝には一緒に参加していたんですけど、春夏はベンチ入りできなかったんです。ただ、甲子園にはずっと一緒に泊まっていて、いい経験をさせてもらったと思います。

――高校時代の教えで、今も生きていることはありますか?

三井 早実の練習自体、限られた時間の中で、あとは自分たちで何が足りないのか補う、というもので。自分に足りないものを徹底的に考えていたなという思いがある。そういう『考える野球』だったんです。
 和泉監督は『ノーサイン野球』っていうのをずっとおっしゃっていたんです。常にアンテナを張って、チームの為に何が必要かを考えてきたことは、今に多少なり生きてます。自分の中のモットーというか、大事にしている価値観ですね。
 監督さんは自分たちを信じて下さり、考える機会を下さったから、恐らく監督さんが想像していた以上のチームへと成長できたと思うんです。

 ですから、何かを教える時は、無理やり教えるよりは、ヒントを与えるというか。自分にしかできないものを気付かせるというのは、ブルキナファソでの指導でも生かせたと思います。
 子供たちを信じることの大切さですね。実際、彼らも私の想像以上に上達してくれたので、やはり自分で気づかせる環境作りが大切だと実感しました。

――高校卒業後、早稲田大学に進学されて、3年生の時、青年海外協力隊の短期隊員としてブルキナファソに行かれたんですよね。きっかけはなんだったのでしょうか?

三井 正直なところ、勢いです(笑)たまたま、野球、ソフトボールの指導者募集の案内を見つけて、面白そうだなと思って応募したら、受かったんです。
 もともと、2年間の隊員として、出合祐太さん(現『ブルキナファソ野球を応援する会』会長)という方が、現地にいらっしゃって、男子に「野球」を教えていたんです。そこで、女子には「ソフトボール」を普及したいので、その手伝いが必要ということで、私ともう1人社会人の方と、2人で行きました。

――実際に行かれて、ブルキナファソの第一印象はいかがでしたか?

三井 最初に着いた時は「何もないな」というのが、正直なところでした。道路も、すごい落差があったり、ぼこぼこで、暑いですし。これがアフリカなんだなっていうのを思って。野球のグラウンドも、当然整備されていないんです。野球場がないので、原っぱなんですよね。そこで牛飼いが放牧とかしていて、センターを見渡すと、牛がいたりとか、ライトがラクダとか、そんな勢いなんです。ボールにも糞とかついちゃうんですよね。なかなかすごい世界があるんだなって衝撃を受けましたね。
 ただ、不安というよりも、野球をやれることの楽しさの方が大きかったですね。現地にいた出合さんが熱心に指導されていたからか、子供たちが思っていた以上に、野球が大好きで。本当は週3~4回しか活動しない予定だったんですけど、毎日1ヶ月休みなしで野球をやったのですが、それも苦痛じゃなかったです。

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[page_break野球はミスをカバーし合えるスポーツ]

野球はミスをカバーし合えるスポーツ

――10~12歳の子供たちへの指導を通して、大切にしたことはなんでしょう?

ブルキナファソの街の様子

三井 アフリカって少し個人主義な面があるんです。みんなピッチャーをやりたいし、みんな、自分が一番先に打ちたいしって、そういうところがあって。でもやっぱり野球ってそういうものじゃないんだよっていうのを伝えたかったんですね。私自身も、早実で、全員が4番バッターになる必要はないという野球を教わったので、そういう指導自体を心掛けていました。

 例えば、内野ゴロでショートがファーストに投げる時、下手だから、ショートが暴投したりするんですよ。そうすると、ファーストの子がショートに怒ったりするんですよ。その時、一番心掛けたのが、ショートではなくて、ファーストを怒ることだったんですよね、「お前がとればいい話だろ」って。

 野球ってミスしても、仲間がカバーできるスポーツだと思っていたので。実際に自分がファーストミットをはめて、とって見せて「お前が下手なだけだろ」って言って、納得させたりしていました。

――ブルキナファソは公用語がフランス語です。言葉の壁もありましたか?

三井 ありましたね。日本語で教えていました。振るとか投げるとか、フランス語の単語は、覚えましたけど。英語も通じないんですよね、やっぱり教育がないので。
 ただ、お互い真剣になっていれば、言葉の壁があっても、通じるんだなって感じました。身振り手振りと、日本語で怒ったりして。子供たちも、なんでこの日本人は怒っているんだろうって考えてくれたんです。それがうれしかったですね。私自身も早実で『考える野球』を教わってきて、それを伝えたかったので、言葉が通じなかったからこそ、それができたのかなっていう思いもあります。
 また、ブルキナファソの子供たちも、日本人がせっかく来てるんだから、少しでもうまくなりたいって、目の輝きが違うんですよね。もっとうまくなりたい、知りたい、あいつに勝ちたい、自分に勝ちたい、そういう思いが人を成長させるんじゃないかなって思いました。

ブルキナファソで指導した子供たちと記念撮影する三井さん

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[page_break今年、教え子たちが来日]

今年、教え子たちが来日

――ブルキナファソの子供たちの姿から、三井さんご自身は、どういったことを感じたのでしょうか?

三井 自分自身の生き方自体、考えさせられましたね。私自身、大学2年生のころから東京都高野連の審判としても活動していて、改めて、もっとうまくなりたいっていう思いも生まれましたし、人間としても成長したいなと、ブルキナファソの子どもたちから刺激を受けて感じました。

――ブルキナファソ野球について、帰国後はどういった形でかかわっておられるのでしょうか?

三井 長期隊員だった出合さんと連絡をとりながら、野球用具など、協力できるものは送ったりしました。出合さんが帰国されてから、『ブルキナファソ野球を応援する会』を作られたので、その活動の中で、自分にできることを協力させてもらっています。

――三井さんが滞在時に指導されていた教え子たちが近々、日本に来るんですよね?

三井 そうですね。今回、子供たちが来るというのも、出合さんが企画されたんです。出合さんは北海道に住んでいるので、北海道に滞在するんですけど、その中で長い期間いるので、僕自身もできることないかなって思って、私の母校の早実の練習見学と、早実の中学生の子供たちとの交流、それと、7月12日の夏の大会で、[stadium]神宮球場[/stadium]での始球式をやらせてもらう予定です。東京都の高野連に無理を承知でお願いしたら、ご快諾いただきました。

――ブルキナファソの子供たちとの交流を通して、日本の子供たちに伝えたいことはありますか?

三井 ブルキナファソの子供たちは「プロ野球選手になりたい」「野球がうまくなりたい」って夢を持っているんですけど、じゃあ同じくらいの年代の日本の中学生の子供たちが夢を持って何かできるかって考えたとき、自分で勝手に、ストッパーをかけてしまう。でも、ブルキナファソの子たちにとっては、自分がなりたいか、なりたくないかが大事で。最終的に夢をあきらめる段階はあると思うんですけど、あきらめなくていい段階で、自分が勝手にストッパーをかけてしまうことをしてほしくないし、自分の人生を振り返ってみても、自分で勝手にストッパーかけて、恥かいてもいいからやっておけばよかったなっていうことが幾度となくあるので、同じ失敗、後悔だけはしてほしくないなっていう思いがありますね。

――プロを目指す子はブルキナファソでは多いのでしょうか?

三井 今、独立リーグの高知ファイティングドッグスの練習生として、サンホ・ラシィナっていう子がいるんですけど、あの子がブルキナファソでは、内野手で一番うまい子なんです。あの子をはじめ、今回来る子たちも、ダルビッシュ 有とかに憧れているんですよ。早実と駒苫の決勝もDVDで見たりしていて。
 やっぱりプロ野球選手になって、お金を稼いで、家族を助けてあげたいとか、言っている子たちはいますね。言葉の壁はありますが、技術的にもすごく魅力的だと思いますし、そもそも日本の野球を教わってきている子たちなので、日本野球とも合致しやすいと思うんです。まずは、1人、2人、野球選手が誕生してほしいですね。

――プロ選手が出ることの意義はどこにあると思いますか?

三井 今、ブルキナファソの野球人口って、数百人とかその程度で、野球の認知度が低いんです。変な話、野球やれるような子たちってまだ裕福な方なんですよね。野球やれない子たちがほとんどなので、そういう子たちに夢や希望、光が差し込めばいいと思います。
 実際、私の滞在時、野球をやることで、人間的にも成長した、というのを学校の先生とかがおっしゃっていて。野球で相手のことを考えると、学校の生活でも、例えば勉強で相手が分からないことがあって困っていたら助けてあげたとか、ずっと喧嘩していた子が仲良くするようになった、と。プロになるだけじゃなく、野球をやることで子供たちの教育につながっていけばいいのかなっていう思いはあります。

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[page_break細く長く支援活動を]

細く長く支援活動を

ブルキナファソで指導した子供たちと。後列右が三井さん、後列左が出合さん

――ブルキナファソの野球にかかわり続ける三井さんにとって、目指すゴールは?

三井 ブルキナファソの野球も、テレビに取り上げられたりと、徐々に知名度があがってきているんですけど、継続性を持って、細く長く活動を続けたいですね。
 ブルキナファソと日本が繋がることがゴールかなって思っています。10年後、20年後に今以上の交流が生まれてほしい。私は野球を通じて、それに携わらせてもらえればなと思います。

――最後に、夏の大会に向かって練習している高校球児にメッセージをお願いします。

三井 夏の大会って本当に特別だと思うんです。でも、野球というスポーツをやることは変わらないと思うので、当たり前のことを当たり前にやることを思い出してほしいなって思います。
 私がブルキナファソで教えていた時も、例えば、キャッチボールで相手の胸に投げることは相手を思いやる意味があるとか、原点を伝えていました。

 キャッチボールもピッチングも、バッティングも、今まで当たり前に教わってきたことをもう一度振り返ってみて、それに全力投球してやってほしいなって思います。あとは楽しんでほしいですね、本当に。特に3年生にとっては、一生に一回しかない夏の大会だと思いますから。

 三井さん、お忙しい中貴重なお話をありがとうございました。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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