Interview

ニュースウォッチ9・キャスター 大越健介さん(NHK記者)

2013.07.09

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第10回 ニュースウォッチ9・キャスター 大越健介さん(NHK記者)2013年07月11日

 現在、NHKの『ニュースウォッチ9』のキャスターを務める大越健介さん(NHK記者)。平日21時台の番組で、テレビの中で、大越キャスターが話している姿を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
 実は、大越さんは元高校球児。新潟高を卒業したのち、東京大学に入学。東大野球部では、投手として活躍し、同校史上初の日米大学野球選手権の代表メンバーに選出されました。
 大学卒業後は、企業チームで硬式野球を続ける道もありましたが、故障もあり、自らグラブを置きました。その後、NHKに入局し、政治部記者を経て、ニュースキャスターとして活躍している大越さん。今回は、そんな大越さんに、野球の経験が今の仕事や取材活動に生きている場面や、高校生へのメッセージをお伺いしました。

近いようで遠かった甲子園

――大越さんは新潟高校3年春に県大会準優勝を経験されました。高校時代はずっと投手だったのでしょうか?

大越健介さん(以下「大越」) 僕が2年生の時は捕手をやっていたのですが、僕らの代は投手がいなかったので、それで本格的に投手に転向しました。春に準優勝した時も、2日間で3試合投げました。そのうちの1試合が、延長引き分けで再試合になった。今、考えれば、よく18イニング投げたあとにも、翌日連投できたなと思いますね。

――3年生最後の夏の思い出をおしえてください。

大越 春に準優勝していたので、甲子園に行ける可能性もあるとは思っていました。でも、そう簡単なものではないとは分かっていました。
 一番記憶に残っているのは、準々決勝の長岡戦。新潟長岡は元旧制中学のライバル同士で、地元では非常に盛り上がるカードなんです。その試合は長岡市の球場で行われたので、僕たちは完全にアウェー。バスに乗っている時から緊張感がありましたね。 

 球場に到着したら、熱狂的な長岡ファンがたくさん球場に集まっていました。実は、2年生の秋に準々決勝で対戦していて、僕たちが負けたんです。春の準決勝でも対戦して、この時は僕たちが勝っていた。だから、なおさら、宿敵同士の対戦だったんですよね。

――それは、注目が集まるカードでしたね。長岡との試合の行方は?

大越 僕らは守りのチーム。一方で長岡は打撃のチームでした。夏に対戦して、改めて秋から春、そして夏と、相手の身体が大きくなっているのが分かりました。
 試合は堰を切ったように打たれ始めて、2対12で5回コールド負け。試合中のことは、途中からほとんど覚えていないですし、負けて終わって自分たちの限界、弱さ、そして甲子園の遠さを改めて感じました。当時は近いと思ってやっていましたが、やっぱり遠かったなと。

[page_break:打撃投手で磨かれた投手の感性]

打撃投手で磨かれた投手の感性

――大越さんがサイドスローで投げ始めるようになったのは、東大に入ってからですか?

大越 そうですね。でも大学入学時は、試合にも多く出られて、打席にも立てる捕手か内野手がやりたかった。しかしながら、チーム事情で僕が投手をやるしかなかったんですね。僕のように高校時代からある程度の経験を持っている投手は、東大野球部の同期にはいなかった。
 それならばと、東京六大学で投手として活躍するにはどうするべきかを考えました。小柄でキレイな球を投げるオーバーハンドなら新潟大会で通用するけど、東京六大学ではオーバースローは通用しないと思って、1年夏に自分で勝手にサイドスローに変えたんですよ。汚い球で勝負しようと思って(笑)

――新人戦では、東大史上最高の準優勝に貢献しました。その活躍が認められ、その後、同校初の日本代表メンバーにも選出されて、日米大学野球選手権でも投げましたね。この時の代表メンバーには、小早川毅彦さん(法政大―広島)、和田豊さん(日本大―阪神)、広澤克実さん(明治大―ヤクルトー巨人―阪神)、竹田光訓さん(明治大―大洋)もいました。

大越 今でも信じられないですよね。当時のメンバーを見れば、なんでこんな人たちとやっていたと今でも信じられないです。

――そこまでの活躍を残せた高校、大学時代は、自分で考えながら練習を行なっていたのでしょうか?

大越 僕は練習はどちらかといえば、嫌いな方でした。でも野球のプレーをすること自体は好きだったので、いつもボールを持っていて、常に握っていたり、投げたりするような人間でした。
 あと、私は肩が強かったということもあり、高校時代はいつも打撃投手をやっていたんですよ。打撃投手でも1日200~300球投げていました。捕手の時もいつも、打撃投手はやっていましたね。

――打撃投手をやっていて何か生きたことはありましたか?

大越 打撃投手は相手が打ちやすいきれいなボールを投げることが仕事。打者は打ちやすいコースを要求するので、その要求に応じて投げる。それをへばるまでやっていました。僕は、そこで投手としての基礎ができたと思うんです。
 打撃投手をやれば、どのコースに投げれば打たれるかということは本能的に分かるので、そこからコースを一つ外すようにして投げるんです。実際の試合でも結構打たれることが多かったのですが、一つコースを外してみよう、タイミングをずらそうと、投手として大事な感性が磨かれたと思います。
 大学でも打撃投手をひたすらやっていて、いざ試合で投げる時になった時に打たれない投手、試合を作れる投手になれたのは、打たれるボールを投げ続けたことが生きたんじゃないかなと思いますね。

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[page_break:投手も記者も、1対1の真剣勝負]

投手も記者も、1対1の真剣勝負

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――大学4年時に、なぜ硬式野球を続ける道を選ばずに、NHKの記者を志望されたのでしょうか?

大越 この小さい体で大学まで投げてきて、高校時代から1日200、300球と投げて、無茶なことをしていましたから、大学4年の時に肘も痛くなってきました。それで、これは投手として続けるのは限界だなと感じたんです。そこから就職活動をして、マスコミ業界を選択しました。その中で、自分の理想に最も近いNHKから内定をいただくことが出来ました。

――現在の大越さんのお仕事は、具体的にどんなことをしているのでしょうか?

大越 僕の仕事はすごく特殊です。僕は記者で、アナウンサーではないのに、一見アナウンサーみたいなことしているんですよね。
 でも、僕は記者で、取材する側。そんな時、やっぱり野球選手だった経験が生きていて、臆することがあまりないんです。相手がどんなに社会的地位がある人でも、癖がある人でも、誠意を持って向きあえば、ある程度の取材はできるし、答えは返ってきます。
 野球でも、ピッチャーとバッターは正対して向き合って勝負をしますよね。その時のバッターとの1対1の真剣勝負を数限りなく積み重ねてきた経験があるから、それが記者としても役立っていると思います。

――1対1の真剣勝負。確かに、投手と打者。取材者と受け手は、その関係ですね。

大越 たまに、すごい打者がいて、全く手も足も出ない時もあります。でもそれは相手が真剣にやっているから、手も足も出ないわけで、こっちも真剣、相手も真剣。どうレベルが違おうが、ぶつけあった結果として、ちゃんとしたコミュニケーションという空間が成り立つわけですよね。マウンドとホームベースの距離にも、ちゃんとしたコミュニケーションの空間がある。記者であっても、1対1で向き合って相手の目を見て勝負できるかどうかですからね。
 それと、もう一つ、野球部員が得なのが、野球は集団スポーツなので、集団の中の身のこなしの良さが培われると思うんですよ。
 相手の懐に入りやすい。いじられやすい奴もいるし、リーダーシップを取る奴もいるし、みんなでそれぞれ特徴を生かして、いろんな顔を出して純粋に、したたかに生きているんじゃないですか。それは結構大事なことなので、大いに使って欲しいと思います。

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[page_break:記者で大事なのは常に謙虚で、想像力を働かせること]

記者で大事なのは常に謙虚で、想像力を働かせること

――大越さんは、物事の本質を見抜く力を養うために、大切なことはどんなことだと思われますか?

大越 自分に自信がないことが大事だと思います。自信がないけど思い切ってやる。本質を見抜けるなんか、誰もわかっていない。
 だから、同じ見抜けていない同士で、俺はわかっていると自信を持っているのは罪があって、自分は分かっていないけど、せいぜいここまで分かった。自分は分かっていない人間なんだ。ちょっと思慮に欠けていて、至らない人間だと思うことが大事だと思います。
 自信がないこと、謙虚であることは強みであって、そういう方は傲岸不遜な方よりも数倍、力があると思います。そのために、大事なものが『想像力を持つこと』だと思うんです。

――想像力ですか。具体的にはどのようなことでしょうか?

大越 直接、高校野球とつながるわけではないですが、例えば東北の震災地で、被災者1人に取材をして、1人の被災者の現実を伝える。すべてが語られるわけではないですけど、その人のことを一生懸命取材する。

 その人だけを取材して被災地のすべてを分かった顔するのか、それとも僕は一生懸命その人を取材したけど、膨大な現状の100分の1しか分かっていませんという顔をするのか。どちらがまともかといったら後者だと思います。
 伝え方も物事の理解の仕方も、自分が経験していることは全体のほんのごく一部だけど、きっとそういうことは他にもある。自分が知らないことが、他にもあると思っていることが人間として大事だ。
 マスコミの仕事も、「皆さんこんなことがありましたけど、こういうこともありますよ。もっとありますね」そう伝えるだけで、受け手の心の持ち方も違うと思います。

――高校野球でも通じる考えですね。

大越 そうですね。高校野球で一緒にチームをやっている仲間同士でも、同じことだと思います。チームメイト同士で話しをするときに、練習がきつくてつらい。ひょっとしたら自分よりもつらいと思っているやつもいるかもしれない。へこたれたやつもいたけど、自分もへこたれそうになっている。
 だから、相手ばっかり責められない。相手の痛みが分かるようになるには、どこを想像して辛さをわかればいいのか。頭を働かせて生きればいいのか。そうすることが社会的に役に立つのかなと思います。

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高校球児へメッセージ

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――では今、夏の地方大会を迎えている高校3年生へ向けてメッセージをお願いします。

大越 彼らにとってはこの地方大会の時期は特別な1ヶ月になるでしょう。今までが、特別な時間だったというのは、その時期が過ぎてから初めて分かるものなんですよね。
 負けても勝っても結果はそれぞれで、生涯見返すことになる経験になる以上は、全力で悔いのないようにプレーしてほしい。
 夏の高校野球は一生を決める、一生引きずるものだと思って、覚悟を持ってやってほしいと思います。
 そして高校野球の場合は勝って終わるチームは、夏の甲子園で優勝する1チームしかないんです。それ以外は全て負けるんです。最後は自分の限界を知って終わるんです。負けて終わる人が99.9%いる切ない現実なので、大事なのは負け方ですね。散り際をいかに迎えるかが大事だと思います。

――大越さん、貴重なお話がありがとうございました!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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