中日ドラゴンズ 森野将彦選手
第58回 中日ドラゴンズ 森野将彦選手2010年08月22日
今夏の甲子園出場校の中で、最も注目を集めた高校の一つが、神奈川県代表の東海大相模です。名門校でありながら、「夏」の甲子園出場は、なんと３３年振り。エース・一二三慎太を中心に、今春センバツ初戦敗退の雪辱を果たし、甲子園でも興南に敗れるものの準優勝。東海大相模の躍進を、同校ＯＢでプロ野球界を代表する強打者・森野将彦選手（中日）はどう見たのでしょうか。自身の高校時代を振り返りながら、同校へ、そして全国の球児へエールを送ってもらいました。
東海大相模の後輩たちが大活躍
尾関：インタビューアー(以下「尾」) 東海大相模の３３年振りの夏の甲子園出場、おめでとうございました。ＯＢとして、やはり喜びも大きいですよね？
森野選手(以下「森」) 母校が甲子園に出れば、僕も嬉しいですね。僕たちが出来なかったことを後輩たちが成し遂げているわけですから。というのも、僕の現役時代は、夏の甲子園出場を一番の目標に据えていたのに、その夢を叶えられずに終わってしまいました。３３年かかって、やっと母校が夏の甲子園に出られました。
尾 東海大相模は、常に甲子園出場が期待される学校ですが。
森 僕が高校２年生のとき、特に夏の甲子園出場に近いんじゃないかと言われていたし（春にセンバツ出場）、僕が３年生の代でもある程度は勝てるだろうとは思っていたけれど、そう甘いものではないですから。僕のときは、夏の大会で２年連続で横浜高に負けたので悔しい思いをしましたけど、今年はその横浜高を破って甲子園に出たってことで、また何か１つ、殻を破ったのかなという感じはしますね。
僕のときは、一枚も二枚も横浜高が上だった。相手は野球がうまく、こちらの隙を突いてきた。野球に対する考え方、意識も全然違っていて、（敗戦は）しょうがないなっていう感じです。負けるべくして負けました
母校の動向はやっぱり気になりますよ。いい選手がいるとか、甲子園に出られるような力がある年だっていう話は、よく聞きます。今年だったら、一二三慎太くんがいいって聞いていました。夏になったらサイドスローになっていて、どうしたんだろうって思いましたけど、それでもやっぱり実力があるし、期待は抱いていました。いいチームに見えます。
甲子園でのプレーは、人生のうちのたった一瞬ですけど、その一瞬が、人生の中で忘れられない充実したひとときになっていくと思います。
ス 森野さんも、２年生時に、センバツ甲子園（１９９５年）に出場されましたよね？
森 足を踏み入れた時は、甲子園はすごく大きいなって思ったんです、バックスクリーンとかね。２試合やったのですが、勝っているときは、甲子園にいるっていう雰囲気もなく、プレーの最中は何も感じなかったです。でも負けた試合はあっという間に終わってしまいましたね。
新チームも各地で始動
尾 一方で、新チームによる秋季大会も各地でスタートしています。甲子園出場校も、大会が終われば、すぐに新チームが始動します。森野さんが最上級生となった新チームは、どんなチームでしたか？
森 １学年上にいい選手が揃っていたので、その代と比較すると、自分たちの代は厳しいんじゃないかっていうのはありました。自分としては、僕が打たなきゃいけないですし、まずは自分のことをしっかりやるというスタンスでした。
チームのまとまりはありましたよ、１学年上の代よりもまとまりはあったと思います。ただ、逆にまとまり過ぎていたというか・・・。それが悪いとは言わないし、試合に出ればチームワークは必要なんですけど、練習に関してはもっと厳しくやるべきだったかなとは思います。
もう少し、みんなが（お互いに）言い合える仲だったら良かったんでしょうけど、そこまで野球に関して話し合わなかった。秋季県大会で優勝したのに、そこから伸びなかったですから（関東大会で初戦敗退）。高校生だからやむを得ないとも思いますが・・・。
高校時代の取り組みと思い出
尾 高校時代の取り組み方や、思い出について聞かせてください。
森 高校時代は、自分のやりたい事をやっていた感じです。バッティングにしろ守備にしろ、自分が考えている事を実践してみて、それが違っていたときには、監督（＝村中秀人・現東海大甲府監督）から指摘されるという繰り返しだった。あれをやれ、これをやれということは、言われなかったです。
雨でグラウンドが使えない日に行う地道なトレーニングは、多少イヤではありましたが、そこで前腕を強化したことで、リストが強くなりました。
高校時代の思い出ですか？ それはやっぱり、甲子園に出たことが一番です。それ以外となると、最後の夏の大会（３年生時）の直前にケガをしたことですかね。本当にマズイと思った。６月の中旬～下旬くらいの富山遠征で、試合でスライディングをした時に足を捻って、左ヒザをケガしました。当分動けないと言われたけれど、監督がつきっきりで色々な病院を回ってくれて、なんとか治りました。最後の最後に、迷惑かけちゃいました。
尾 夏の大会前にケガをして、本調子で最後の夏を迎えられない選手が、意外に多いような気がするのですが。
森 そのときは調子が良かったので、ケガだけはしないように、と思っていたときに、ケガをしてしまいました。やらなくてもいいようなスライディングをしてしまったんです。大会前のケガは、調子が良い選手に多いのではないかな？ 多分そういう選手がケガをすると思うんです。
尾 調子が良い分、気持ちが高揚しすぎて、ケガにつながってしまうのかもしれないですね。好調時こそ、気をつけなければなりませんね。
高校球児へ
尾 最後に、球児へのメッセージを頂戴したいと思います。森野選手は、下級生時からレギュラーで注目されていた選手でしたが、そのように早くから「プロ注」とか「有望選手」と目される選手へは、どういう言葉をかけますか？
森 大事なのは、背伸びをしないことですね。出来ないことをやろうとして高い壁をつくりすぎると、その壁をなかなか破れずに、挫折っていうこともあるので。やれること、自分に出来ることを、まずはしっかりとやってほしい。
尾 森野さんも、早くからプロにも注目される選手でしたが、そのように取り組まれたのですか？
森 いや、もともと僕は、プロに入ろう、プロに入れるとは思っていなかったんです。最後の最後ですね、自信を持ったのは。自分が打てるって思ったのは、３年生の夏頃だったんですよ。
尾 そうなんですか、意外です。では、早くから芽が出る選手もいれば、逆に、高校野球に入ってもなかなか試合に出れなかったりして、苦労している選手もいます。森野さんも、プロ入りして２～３年目はかなり悩まれたようですが、そうした選手へは、どんなアドバイスをされますか？
森 単純に、１つ本当に言えることは、野球を常に好きでいてほしいというか、野球ができること、野球に携わっていることが幸せなことだっていうのを、感じてほしいですね。野球をやりたくても、できない子だっているし。それに今後、高校野球を卒業しても、絶対に遊びで野球をやりたくなると思うんですよ。やっぱり野球が好きなんだってことを、自分自身で分かってほしいなっていう思いです。
自分も、プロに入って苦労した２～３年目は、つらいなって気持ちはありましたけど、野球を嫌いにはなっていなかったですからね。
(文・インタビュー：尾関 雄一朗)
