Interview

WBC優勝に輝いた源田、今永などをマネジメント 敏腕エージェント・栄枝慶樹が話す真のアスリートの条件

2023.03.29

 球界を代表する名手として多くの野球人が憧れる埼玉西武ライオンズ・源田壮亮内野手(大分商出身)。華麗な守備を見せる度にSNS上では「#源田たまらん」など大きな話題を呼ぶ人気ぶり。

 今回のWBCは大会途中に指を骨折するアクシデントに襲われたが、強行出場で日本の内野陣を支え続け優勝に貢献。準決勝・メキシコ戦で「#源田の1ミリ」がトレンドに入ったことも話題になった。

 日本球界が誇るトッププレイヤーだが、ある1人の存在が大きな支えになっているという。

常に自分を磨ける選手だけが1億円プレーヤーになる

WBC優勝に輝いた源田、今永などをマネジメント 敏腕エージェント・栄枝慶樹が話す真のアスリートの条件 | 高校野球ドットコム
栄枝 慶樹さん

 現在、源田のエージェントでありマネジメントをしている株式会社 DIAMOND ALLIANSで代表を務めている栄枝 慶樹さんだ。

 幼少期は香港にいたが、学生時代は学習院中等科から、学習院大と進んで野球をプレー。社会人になってからも様々なカテゴリーで監督経験を積みながら、マネジメントという仕事を15年間やり続けている。

 ほとんどのマネジメント会社が億プレーヤーの見込みや、なってからスカウトをする業界の中で、ルーキーイヤーからパートナーとして一緒に夢を実現していくコンサルティングスタイルに拘る栄枝さんだが、そのスタンスにも関わらず「(マネジメントした選手の)9割方が1億円プレーヤーになる」ということで、顔ぶれを見渡すと、先述した源田はもちろんだが、WBC決勝のアメリカ戦で先発したDeNA・今永昇太投手(北筑出身)や、源田のチームメイトにあたる金子侑司内野手(立命館宇治出身)なども契約している。

 既に引退された選手でも岸田護さん(履正社出身)や浅尾拓也さん(常滑北出身)をはじめとしたトッププレイヤーをマネジメントしてきた。球界を牽引してきた素晴らしい選手たちの名前が次々と出てくるところからも、栄枝さんはいかに実績があり、信頼される人物なのかというのはわかる。

 ただ、栄枝さんは1つの信念をもって選手たちをサポートしている。
 「選手が自らのことを社長、経営者だと思うことが大事だと考えていますし、それくらいの責任や覚悟をもっている人じゃなければ、マネジメントはしていません」

 この話だけではイメージが掴みにくいが、続けてこう説明した。
 「プロ野球選手は個人事業主です。プロの世界は心技体全てが磨かれた最高峰の世界なわけで、そこで活躍するには自らを高めなければ生き残れない。箔のある世界だと思うんです。
 だから、自分のことを常に磨くことが必要ですし、周りからのサポートも必要です。そのためには自分だけのバックアップチームを編成して、そこの経営者のような感覚で、選手がやらなければいけないと考えています」 

 競技は違えどテニス選手などは、栄枝さんの話すチームに最も近いだろう。
 技術はもちろん、コンディション関係など数多くのコーチと契約して自らを磨く、ブランディングしながら、世界中を飛び回って大会に出場すると聞いたことがある。

 栄枝さんが話すのは、まさにそういった自分を成長させるためのチームを自らが経営者としてトップに立ってやる必要性であり、そうした意識のある選手だけをマネジメントするのだ。

[page_break:常勝軍団に必要だった2つの要素]

常勝軍団に必要だった2つの要素

WBC優勝に輝いた源田、今永などをマネジメント 敏腕エージェント・栄枝慶樹が話す真のアスリートの条件 | 高校野球ドットコム
栄枝 慶樹さん

 確固たるビジョンを持っている栄枝さんの会社は、現在約20人のプロ野球選手やOBをマネジメントしている。球界で活躍するスター選手ばかりだが、マネジメントを始めた15年ほど前は、マネジメントの重要性が理解されているわけではなかった。

 信頼がモノを言う業界において、プロ野球選手と信頼関係を築いてマネジメントするなんて、とても簡単ではない。きっと苦労を重ねたのではないかと思われたが、「プロ野球選手から見たら、珍しい経歴をもった野球人だったので、信頼されたと思います」と大きな壁はなかったようだ。

 小学生の頃は12年を香港で過ごし、野球も既にやっていた。多国籍の人たちが集まるなかで「凄く自由にのびのびと野球をやっていた」と野球に対して夢中になっていた。しかし、中学から日本へ帰国して野球を継続すると、世界は一変した。

 「楽しくやっていた海外とは違い、物凄い縦社会。本当に軍隊みたいな野球で、『野球っぽいことを何となくしているな』くらいの感覚でした」

 この厳しい上下関係、縦社会による軍隊式の経験が、のちに栄枝さんの行動の原動力に変わるが、その前に学習院大へ進学した際に転機があった。
 「在学当時、4部にいてサークルに近いようなレベルのチームに、田辺隆二さんというかたが来たんです。その方は、三菱ふそうで監督をやっていた人ですけど、おじいちゃんだったので、『軍隊式の練習になるかな』と思ったら、全く逆でした。本質的なところを大事にする指導で、今の野球観は田辺さんのおかげです」

 トスバッティング、さらには集団走まであらゆる練習に対して「意味と意思を持たないといけない」と常に野球に対して考えて取り組む習慣が身についた。そのおかげもあってか、栄枝さんは「初めて『野球やっているな』と思いました」と野球の本質的な部分に触れ、魅力に惹かれて、充実した野球生活を送った。

 チームも東都大学野球の4部にいたチームは、3部に昇格して優勝もしている。現在もセレクションで有望な選手が集まるわけではないものの3部で結果を残しており、田辺イズムは引き継がれている。

 「学生野球は、選手が流動的なので毎年違うチームになるのに、常に結果を残すところは必ずいます。そこには環境や指導者といった固定的な何かがあるから常に強いわけで、田辺さんにもこのことをよく聞かされたことを覚えています」

[page_break:銀行マン×指導者=マネジメントという道]

銀行マン×指導者=マネジメントという道

 恩師・田辺さんの教えを活かすことになるのは、社会人になってからだ。

 大学野球を終えてから三菱東京UFJ銀行に就職し、法人営業として平日は仕事をしていた。栄枝さんは忙しい日々を送っていたが、土日休みが確保されていたので、平日の朝練習と休みの日はグラウンドに足を運んだ。選手ではなく、高校野球の監督としてである。

 「学習院は中学から大学まで一貫なので、『指導方針を縦に一貫させたい』と田辺さんから話をもらって、高校は私がやることになりました」

 成果はすぐに出た。自身が指導した学習院高等科の生え抜き選手から首位打者が誕生したのだ。強豪校と呼ばれる高校から、東都に飛び込む逸材たちがいる中で、セレクションのない学習院大から首位打者が生まれた。チームとしての成果ではなかったが、田辺さんと栄枝さんが協力して一貫した指導が、戦国東都で結果を残せる選手を輩出したのだった。

 こうした成果もあり「やはり野球は好きだし、楽しい」と感じた栄枝さんは、プロ野球選手を相手にしたマネジメントという道を歩むことを決めて、現在に至っている。

 元選手であることはもちろん、銀行マンでもあり、指導者でもあったという周りにはない道のりは、同じ世界のトップ選手は気になるところ。そのうえで、本当の意味でプロ意識を持つ選手だけをマネジメントするという理念をかかげるから、賛同する選手は、真のアスリートしかいないわけで、「9割型が1億円プレーヤーになる」という結果が出るのだ。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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