Interview

12球団から調査書届く大型左腕、阿南光・森山、146キロ左腕がプロから注目されるまで

2022.10.18

 2021年、夏の甲子園に初めて出場した阿南光(徳島)で当時2年生エースだった森山 暁生投手が徳島大会を1人で投げ抜き、チームを甲子園に導いた。甲子園の初戦・沖縄尚学戦(沖縄)でも完投したものの、試合は0対8で敗れた。

 球数制限によって、継投策が常套手段となりつつあった流行に逆行するようにマウンドに立ち続けた剛腕は、1年かけて12球団から調査書が届く逸材まで進化を遂げた。

12球団からの調査書が届く逸材はサッカー少年だった

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 最速146キロを計測する森山は、集大成の夏は初戦の2回戦・鳴門渦潮の前に0対1で敗れ、2年連続で夏の甲子園に出場することは叶わなかった。しかし、183センチ、83キロの恵まれた体格から、伸びあがるような直球で相手打者をねじ伏せてきた。

 爽快感すらあるピッチングにスカウトの目が留まり、12球団すべてから調査書が届いた。3年間指導してきた高橋監督も「光栄なことですし、今まで例に見ないことだと思っています」と教え子の注目ぶりに目を細めていた。

 始まりは小学3年生だ。それまではサッカーをやっていた。しかし、少年野球の監督に声をかけられたのをきっかけに「親に黙って練習参加しました」と野球の道へ歩みを変えた。左利きということもあり、早くから投手に取り組み、メインポジションとして中学時代まで過ごしてきた。

 野球をやる以前から優れていたという肩甲骨の柔軟性からくる可動域の広さを生かして、目いっぱい大きく腕を振る。中継ぎ登板が多かったが、「ストレート押しにスライダーを交ぜるピッチングスタイルでした」と力押しの投球は、高橋監督の目にも留まった。

「本格派の大型左腕で、肩回りの柔軟性も優れていましたので、『こちらの指導(のやり方1つに)にかかっているな』と思ったのは覚えています」

 指導者の熱意はもちろん、「一番自分を必要としてくれた」という思いに惹かれて、阿南光を選び、甲子園を目指すことを決めた。

 150キロを出すことを目標に立てて阿南光の門をたたいたが、最初からうまくいくわけではなかった。目いっぱい腕を振って相手打者を抑えようとしたが、直球と変化球を投げる時に、フォームに若干の違いがあった。試合ごとに調子の波もあり、打ち込まれる試合と、抑える試合の差が激しかった。まだまだ不安定な要素を多く抱えていた。

 しかし冬場のトレーニングで走り込みはもちろん、「多いときは1回で一気に200球だったり、連投しながら1週間で400~500球投げました」という投げ込みで、スタミナ強化とフォームの再現性の向上、そしてピッチングの引き出しを増やした。

 そして2度目の夏、「どの球種でも腕の振りを統一できましたし、ペース配分ができるようになった」とオフシーズンに取り組んできた成果をいかんなく発揮し、自身にとっても初の甲子園に届いた。

[page_break:146キロまで引き伸ばした柔軟性と右腕の改善]

146キロまで引き伸ばした柔軟性と右腕の改善

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 自身初の甲子園、初戦は強豪・沖縄尚学(沖縄)。2年生エースとしてマウンドに上がったが、完投も8失点。試合にも0対8で敗れ、あっけなく甲子園は終わった。ただ、徳島大会から甲子園まで全て1人で投げ抜いたことで注目が集まったが、本人の中ではポジティブに受け止めていた。

「エースとして先発完投は理想ですし、自分自身あの試合は投げ抜くつもりでした。投げたかったので、あまり意識していないです。ただ夏の甲子園でテレビ中継を通じて、全国の方に客観視してもらえたことでいろんな意見があったので、プラスだと捉えています」

 客観視した末に、高橋監督からも指摘された課題は、投げ終わりの安定感だった。

「甲子園では投げ終わりは三塁側に倒れることが多かった。これでは『アウトコースに投げても内側に入って当てられる』と指摘されました。元々、監督から指摘されていた課題でしたが、改めて認識して右腕と下半身の使い方を、重点的に取り組みました」

 現役時代は投手だった高橋監督は「下半身をどのように使うかで、上半身やリリースの使い方は決まる。腕は自然と振れるものだ」という持論を持っていた。それだけ下半身を重点的に見てきたからこそ、甲子園の時は、「下半身の開きが早かったので、三塁側に倒れていた」と足場が不安定だったことが原因だと分析した。

 そこで目安として、ピッチャープレートの幅に投げ終わりを収めることを目指して、オフシーズンは元々優れていた柔軟性でも、下半身の内旋動作を磨くことを始めた。入学当初から下半身の使い方を指導されていた森山も「より意識が高まった」と大舞台で明確になった課題を正面から受け止めて、真摯に取り組んだ。

 同時に右腕の使い方も入学時からの課題で、「掻くように動かしていたところを、内旋から外旋させるように変えました」と下半身と同様に開きを抑えるために、体の中心に寄せるイメージで使えるように変えた。

 高橋監督の指導で改善したというが、右腕で開きにブレーキをかかる形にさせたことで、「リリースポイントは安定させつつ、左腕の振りがより速く振れるようにさせました」と、より腕が振れるフォームさせる狙いもあった。

 フォームの改善に打ち込んだオフシーズンの成果は、春先に実を結ぶ。

 内旋動作がスムーズにできるようになったことで、開きを抑えながら下半身でためを作れるようになり、下半身主導のフォームになった。全身を使って最後に腕が自然と振れる、高橋監督の思い描くフォームで直球が投げられるようになり、「力感なく『プチっ』と球をつぶす感覚でリリースができている」と手ごたえは十分だった。

 力感なく投げられるようになり、県大会の初戦では自己最速を2キロ更新する146キロをマーク。加えて9回まで投げ切っても140キロ前後の球速を表示するようになり、下半身を使った力感ないフォームの成果は十分だった。

 「エースとして先発完投は理想です」という自身の思いを体現しつつある中で、準々決勝・池田辻戦では、大会タイ記録となる1試合20奪三振を記録することになる。

[page_break:成果が実を結んだ春、そして夏]

成果が実を結んだ春、そして夏

12球団から調査書届く大型左腕、阿南光・森山、146キロ左腕がプロから注目されるまで | 高校野球ドットコム

 春季県大会の初戦・徳島市立戦では、終始140キロ前後を計測する直球で勝利に導いた。しかし、高橋監督は「2回戦からは対策を立てられる」ことを危惧していた。春にかかわらず、夏の大会も真っすぐだけで甲子園に行けるほど簡単ではない。

 夏の甲子園、そして秋の四国大会で明徳義塾(高知)との戦いの中でも「上のステージでも活躍できる」と確信していた高橋監督は、冬場は直球の質を向上させつつ、変化球の精度、特にカーブには力を注いできたと話す。

「ストレートをさらに走らせるためにもカーブは練習させました。カーブを右打者のインコースにしっかり投げられれば、ストレートも同じリリース、腕の振りさえできればコントロールできると思っているので、『ストレートとカーブだけでも抑えられるようになろう』と話しをしながら磨いていきました」

 加えて、緩急をつけるチェンジアップも新たに覚えることで、縦、横の変化球に奥行きを持たせる。3次元でピッチングをできる引き出しを持たせたことが、池田辻戦の20奪三振に繋がった。

 その後、県大会は準優勝で終えたが、6月に開催された招待試合では、センバツ出場の天理(奈良)と対戦。全国の名門相手に森山は2失点で完投勝利。この好投には「6月の時期にしてはいい球を投げていましたし、天理相手に好投したのは自信になったと思います」と高橋監督も大いに手ごたえを感じていた。

 しかし、夏の大会は初戦・鳴門渦潮に0対1で敗戦し、思わぬ形で高校野球に幕を下ろした。目標の150キロにも手が届かなかったが、「イメージ通りの成長をしてくれた」と指揮官は称賛の声をかけた。

 12球団からも調査書が届き、連日の取材対応で忙しい日々を過ごす森山。それだけ注目度が高い。ドラフトでは指名があるのか、そして何位で指名されるのか。世代屈指の大型左腕の行方に注目したい。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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