Interview

信頼されるキャッチャーを目指す球児に使ってほしい 野球人の本音を実現させるまでをグラブ担当者が明かす

2022.05.14

 グラウンドでは唯一守備に就いている野手に対して正面を向き、誰よりも声を出して的確に指示を送る。グラウンドの監督とも表現される捕手にとっては、投手、野手からの信頼をどれだけ勝ち取れるかというのが大事な要素となる。

 これまで、多くの捕手に話を聞いたが「信頼」というフレーズを多く耳にしてきた。捕手は、そのために練習からアピールを続けるが、そんな捕手のために、新たなミットが2022年より発売されていた。

声を聞いて集めて導き出した新ミットの形

信頼されるキャッチャーを目指す球児に使ってほしい 野球人の本音を実現させるまでをグラブ担当者が明かす | 高校野球ドットコム
「號」の刻印がされたキャッチャーミットを持つ茂木結矢さん

 スポーツメーカー・ミズノ株式会社より新発売となった號(さけび)シリーズ。シリーズコンセプトに「投手からの信頼」というフレーズを打ち出してスタートした。このコンセプトは、「担当者総出でキャッチャーを中心に現場の意見を聞き、キャッチャーとは何なのかを知ったからこそ、決まりました」と企画担当者である茂木結矢さんは話す。

 ミズノでは今までグラブとセットでミットを制作してきたが、今回の號シリーズは完全にグラブと切り離し、ミットだけで製作をして「ミット市場でNo.1を目指す」ということを宣言してスタートした。

 その第1歩として、グラブとは形も用途も異なるキャッチャーミットを改めて知るために、自社のブランドアンバサダーを中心に選手へのヒアリングを重ね、コンセプトに「投手からの信頼」が打ち立てられた。

 このコンセプトについて、茂木さんは「少し新鮮な気はしました」と当時を思い出すとともに、コンセプトの実現化に至る苦労を口にした。
 「市場調査を通じて、球速をはじめ野球そのもののスピードが速くなったので、そこへ対応するために、自在に操作できるような軽量感あるミットが必要だろうということになりました。
 ただ軽量感は人によって感覚が異なりますし、軽くするために皮革や芯材を薄くすると耐久性が落ちることにもなるので、いかにバランスを取るかがポイントでした」

 今回の製作にあたって、プロ選手のグラブ、ミットにも携わる自社の職人とともに、完成までに試行錯誤を繰り返した。茂木さんは市場調査を通じて集めた声をミットに落とし込む。職人はプロ選手の用具に携わって培ったノウハウを落とし込もうと議論を重ねた。決して一筋縄ではいかなかった新たなミットの実現化だが、「完成した時のことを常にイメージして進めていきましたので、調査で集まった意見は生きましたし、支えになりました」と茂木さんは改めてユーザーの声がポイントだったと主張する。

 そのなかでも心に残っている答えがある。
 「ミズノはミットも良いと思います。ただ、なぜか他社のミットを使われている人が多いですよね」

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新ミットに搭載された新機能

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號シリーズ

 率直にもらったユーザーからの声。もちろん、担当者として茂木さんのなかでも燃えるものがあったが、同時に目指すべき方向が見えてきたという。
 「ある程度使って頂いていることはヒアリングやデータでも分かっていましたが、こうした声を聞いてミズノの長い歴史で培った土台は変える必要はないと確信しました。その土台の上に選手に寄り添った機能を加えれば、チャンスがあると思いましたね」

 こうして、信頼される捕手のために必要だと思われる機能を、いくつもあった中から厳選して5つに絞り、號シリーズに搭載した。

・親指、小指の芯材を薄くする
⇒軽量感を出すために、これまでに比べて芯材を薄くした。これによってミットそのもののサイズがコンパクトとなるだけではなく、軽量になるため操作性向上にもつなげた。

・皮革の一新
⇒芯材を薄くしたことで落ちてしまった耐久性をカバーするために、これまでよりも耐久性に長けたハリ感のある皮革を採用。さらにミットの受球面の裏側に入れる帆布と呼ばれる素材の耐久性も高めた。同時にハリ感が生まれたことで、音が出やすいミットにも仕上がった。

・ウェブ先の強化
⇒これまでは皮革1枚だけだった指先に当て革で厚みと重量をプラス。耐久性の向上はもちろんだが、「クロスプレーの時に、ウェブ先で球が引っかかってこぼれにくいかは大事だ」というプロ選手の意見もあり、変更した。

・ミット内部、中指と薬指の指先部分にエンボス加工
⇒凹凸ができることで指先にミットが食い込みやすくなる。捕球時は薬指を起点とすることが多いため、エンボス加工で一体感が生まれたことで、操作性を向上させる。

・手首付近のヘリ革を加工
⇒汗の影響で固くなりやすいうえに、圧力が掛かりやすい箇所のため、最も破けやすい部分になっている。そこで、直接ミット本体と縫い付けずに、1度内側に逃がしてから縫い付けることで、破けにくくしている。

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インタビューを受ける茂木結矢さん

 以上5点が、今回の號シリーズに標準搭載された新機能で、それらが組み込まれたミット型は3パターンに絞られた。
・B-D型(BIG – DEEP型)
⇒サイズが大きく、ポケットが深いので、がっちりと球をつかむ選手向け。巨人・大城卓三捕手(東海大相模出身)、中日・木下拓哉捕手(高知高出身)が使用するミットに近い。

・M-R型(MIDDLE – REGULAR型)
⇒サイズ、ポケットともに中間なので扱いやすく、安心感がある。どんなプレーも安定させたい。捕手としてまだどんなプレーに重きをおきたいか決まっていない選手向け。広島・會澤翼捕手(水戸短大付出身)、ヤクルト・嶋基宏捕手(中京大中京出身)が使用するミットに近い。

・S-S型(SMALL – SHALLOW 型)
⇒サイズが小さく、ポケットが浅いので、素早い握り替えから送球する選手向け。楽天・炭谷銀仁朗捕手(平安出身)、ロッテ・田村龍弘捕手(光星学院出身)が使用するミットに近い。

 ブランドアンバサダーの意見を聞き、数多く展開していた基本型を集約した結果3つとなったが、「お客様にもわかりやすく明記できればと思っています」と、ユーザーや、選手目線になって、伝わるようにアピールした結果だという。

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信頼される捕手を目指すなら

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號シリーズ

 なお、ミズノのなかでミズノプロとグローバルエリートシリーズの2つが展開中だが、「ミズノプロに関しては、一定の軽量感と操作性を高めているものの、耐久性もしっかりした素材を使っています。対してグローバルエリートは、軽量感や操作性をより高めるような素材を使うようにしました」と素材の違いで、シリーズによる特徴を作りだしたという。

 耐久性やしっかりした感覚を求めるならばミズノプロ、軽量感や操作性をより求めるならばグローバルエリートを購入するのが、良さそうだ。

 これまでにもいくつかグラブの企画担当を経験してきた茂木さんだが、「これまでに比べると時間と労力、多くの方々のお力添えをいただきました。そうしたことを踏まえると、手ごたえはあります」と振り返りながらも、No.1の称号を手にすることが最終ゴールだ。だからこそ「これで満足はしていません」と話し、眼差しは既に次を見据えていた。

 これからも號シリーズとして、新たな商品を展開予定で、今後もミズノのキャッチャーミットから目が離せそうにない。茂木さんがどんな商品を企画していくのか気になるところだが、最後に球児たちに向けてのメッセージをもらった。

 「ピッチャーをはじめ、チームから信頼されるキャッチャーになりたいと思っている球児には、是非手に取ってほしいと思います」

 現場、そして職人の声を丁寧に集めて形となった號シリーズ。「投手から信頼される」という明確なメッセージ性を持った新ミットが、業界にどんな反響を及ぼすのか。ミズノの挑戦はまだまだ続く。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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