Interview

変化を恐れない。山本由伸を超一流投手に化けさせたフォーム改造とトレーニング内容刷新【後編】

2022.03.25

 現在のNPBにおいて、球界屈指の投手として注目されるオリックス・山本 由伸投手(都城高出身)。昨年は26試合で、18勝5敗、防御率1.39、206奪三振と投手タイトルを総ナメ。沢村賞、パ・リーグMVPを受賞し、今や多くの投手が憧れる存在となっている。今回はそんな山本のフォーム作りにおいて考えていることや、フォーム作りで悩んでいるアマチュア投手たちへ有益なアドバイスを語ってもらった。後編ではプロ入り後の取り組みに迫っていく。

高校時代のフォームでは限界があった

変化を恐れない。山本由伸を超一流投手に化けさせたフォーム改造とトレーニング内容刷新【後編】 | 高校野球ドットコム
山本由伸

 プロ1年目を終えて、山本はプロスペクトとして注目されていた。2軍の成績は圧倒的だった。8試合を投げ、2勝0敗、33.2回、28奪三振、防御率0.27、四球はわずか2。そして1軍でも5試合登板を果たし、プロ初勝利を収めている。高校時代からパワーアップした常時150キロ台の直球で立ち向かっていく投球に、楽しみと感じたプロ野球関係者も多くいた。

 ただ山本は当時の投球フォームでは限界を感じていた。
「1試合投げる度に、肘の張りがあったので、これじゃダメだと思い直しました」

 高校時代からその予兆があり、直したい思いはありつつも、踏み込むことができなかったという。
「高校の時も大会の準決勝、決勝は連投になりますが、僕はいつも握力がなくなって、投げられなくなっていました。
いろいろな病院に行っても、いまいちよく分からないアドバイスばっかりで、なかなか改善できなかったんです。

 プロに入っても登板する試合は常に全力で投げるので、肘がすぐにパンパンになって、これじゃダメだと思いました。

 そして今、通っている先生のところに行ったら、すごく納得できるアドバイスをいただいたので、この人だなと思って、今でも教わっています」

 それがバックスイングが大きい現在の投球フォームにつながったのだ。見方によっては「ジャベリック投法」や「アーム投げ」といわれる投法も、先生からのアドバイスをもとに作り上げた。フォーム改善は体の機能的な部分を改善し、痛みをなくすためには、必要不可欠だった。

「動きのなかで起こる痛みを改善するにはこうしないといけないし、痛くなる原因を改善して、動作を改善しないといけないというアドバイスです。投げ方をどうしろという訳ではなく、体の基本的部分から改善しないといけないよという言葉を貰いました」

[page_break:最初は疑問に思ってもトレーニングはとことんやり抜くことが大事]

最初は疑問に思ってもトレーニングはとことんやり抜くことが大事

変化を恐れない。山本由伸を超一流投手に化けさせたフォーム改造とトレーニング内容刷新【後編】 | 高校野球ドットコム
オンライン取材に応じる山本由伸

 トレーニング内容の変化もあった。プロ1年目はウエイトトレーニングも行っていたが、そのオフから、ファンやプレイヤーから注目されているブリッジなどのトレーニングに励むことになる。はっきり言えば今までトレーニングしてきた内容とは真逆。当然、疑問点があった。

「最初は納得してトレーニングをしている訳ではなかったので、意味あるのかなと思っていましたが、メニューの目的を聞いた時に『それだ!』と思って、久々に納得できたので、すごく印象的でした」

 次第にフォーム改善とトレーニングの成果が現れるようになり、プロ2年目から現在に至るまで一流にふさわしい実績を残している。そして現在の山本の投球フォームは超一流投手の個性として認められるようになった。
 プロ野球ファンの中でも強烈に刻み込まれている昨年の日本シリーズ第6戦の熱投はこうしたトレーニングによる積み重ねが大きかった。

「まずこの投球フォームに変更したことで、球数をたくさん投げられるようになりました。例えば去年の日本シリーズも140球を投げても疲労感もそこまでなく、最後まで球威のある球を投げられていたので、すごく成長できたなと思います」

 山本の投球フォームを見ると、力感を感じない。いわゆる力任せではなく、合理的に体を使って投げているイメージだ。その点は山本も大切にしている。

「力ではなくて、体のつながりで全身を使って投げるというのをテーマに取り組んでいます」

山本は必要と思ったトレーニングをとことんやり抜いて良かったと思うからこそ、積み重ねの重要性を語る。

「良いトレーニングは現在たくさんありますし、ある程度有名になっているトレーニングは良いものが多いと思います。
このインタビューを見ている人の周りにも思い当たる選手もいると思いますが、どのトレーニングをするにしても、合うとか合わないとかばっかりを気にして、いろんなトレーニングをかじって、やり込めずにという人が僕が思う中でのダメな選手だと思います。どのトレーニングをするにしても、やり込むことが大事だと思います。

 合う合わないの前にそのトレーニングをできないと意味がないので、できたつもりで合う合わないと言ってる選手がたくさんいますが、まずはやり込むことが大事だと思います」

 山本も現在のトレーニングをスタートした時は、疑問点がありながらもひたすら取り組んだ。そして現在の境地に至ったからこそ説得力がある。近年、SNSでも映像発信が充実し、多くの専門家が発信をしている。山本は自身の高校時代より良くなったと語りながらも、注意点を語る。

「たまにインスタグラムとかでよく出てくる、トレーナーさんのような人がいますが『めっちゃ良い練習してるな』とか『この解説はすごい合っている』とかそういった人もいます。
 でも、僕のフォームを解説する人もよく見ますが、全く違うことを言っている人もいるので、そこの判断は必要だと思います。たくさんの人が出てきているからこそ、見極める力は大事です。良いことを言っている人もいますし、的外れなことを言っている人もいるので、そこは気をつけてほしいです」

[page_break:変化は進化。自分の芯を持ってフォーム改造に取り組もう]

変化は進化。自分の芯を持ってフォーム改造に取り組もう

変化を恐れない。山本由伸を超一流投手に化けさせたフォーム改造とトレーニング内容刷新【後編】 | 高校野球ドットコム
山本由伸

 情報が氾濫する現代の社会。山本は現在の成功についてはサポートしてくれる方々のおかげと語る。

「指導者の方やいいタイミングでいい先生に会ったりしているので、たまたま僕はそういう出会いに恵まれていると思います。それで、今いい結果が出ているのは、そういった方々のおかげです」

 昨年11月下旬まで日本シリーズを投げ、オフも慌ただしい中だった。それでも今シーズンも実戦に入り、圧巻の投球を見せるために、練習ができる日は1日中、野球のことに費やした。

「毎日、朝9時からトレーニング、治療もして午後から夕方まで技術練習をして。日が暮れるまで技術練習をしましたし、野球少年のような日々を過ごしていました。治療も毎日入れたり、トレーニングも時間をかけてやっているのに加えて、投球動作の技術的練習もしないといけないので、オフシーズンは1日かかりますね」

 メニューは小刻みだが、その内容は濃く、やはり一流になるには、あるゆる意味で野球漬けになるものだという。またオフシーズンのトレーニング計画は行きあたりばったりではなく、シーズン中からどうするのかを決めている。

「まずシーズン中から映像を見て、振り返ったりしていますし、そうしたものから、次のオフシーズンにどんな取り組みをするかをずっと考えています。こういう課題が出たから、このオフシーズンはこの練習をやろうと。もちろん僕を担当してくれている先生もシーズンの投球を見ながら、考えてくれているので、アドバイスを聞きながら、計画も立てています」

 改めて振り返ると山本の行動には 計画性と具体性がある。活躍して必然の取り組み方と考え方なのだ。そしてアマチュア投手が悩むであろうフォーム改造のきっかけや考え方についても説いてくれた。

「フォームを変えすぎるのも良くないですし、自分の軸を持つこと。とは言っても守りすぎても進化はしていかないと思っています。

 僕のすごく尊敬している先輩は『変化は進化』だと言っていたので、変化を恐れずに進化させていけばいいのかなと思います。軸を持った上で変化を恐れないというのは大事だと思います」

 山本も、現在の投球フォームについても少しずつ改善点を見つけながら改良をしているという。3月25日の開幕戦へ向けて、こう意気込みを語った。

「去年は開幕してから調子が安定していなかったので、今シーズンは一戦目からバチっといきたいです」

 今シーズンも「山本無双」のシーズンになるのか。今シーズンの投球が楽しみだ。

(取材:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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