名門シニアに現れた144キロ左腕・安福拓海。指導25年総監督も驚きの急成長の3年間
中学野球界の名門である神戸中央シニアに今年も注目の逸材がいる。それがエース左腕の安福 拓海投手(3年)だ。189センチ、90キロの恵まれた体格から、最速144キロの直球と、2種類のスライダー、カーブ、パームを器用に投げ込む。
チームを指導して25年になる山田高広総監督が、「肉体的なポテンシャルとしては今まで見た中でも一番だと思います」と認めるほどの素質の持ち主。投球練習も拝見させてもらったが、角度を生かした速球とキレのある変化球は、高校生レベルで見てもかなりのものだ。対戦した打者は打ち辛さだけでなく、恐怖心も覚えるのではないだろうか。
「打つのは好きです」と話す安福。打順は主に下位に座ることが多かったが、恵まれた体格を生かした打撃は目を見張るものがある。撮影用にと、行ってくれたティー打撃でも力強い打球を連発していた。
春からは近畿地区の強豪校に進み、甲子園出場とプロ入りを目指す。今回は神戸中央シニアでの3年間と高校での抱負について語ってもらった。
1日6食で球が速く重くなった
安福拓海(神戸中央シニア)
「楽しそうだったから」という理由で小学1年生の時に野球を始めた。小学生の頃から周囲より体は大きく、中学入学時で身長は169センチもあったという。
中学では、「みんな体が凄くて、このチームで全国優勝したいと思ったからです」と神戸中央シニアに入団。だが、当時の安福は54キロと身長の割に体重が軽く、今のような姿は想像できなかったと山田総監督は話す。
「野球に対する姿勢もちょっと独特というか、野球が上手になる考え方がなかったです。体も今でこそあんな体ですけど、入った時は本当にヒョロヒョロで、本当に一生懸命できない子だったので、将来はプロ野球選手になるだろうなという印象は全くなかったですね」
それでも、「素直な子」と山田総監督が称する安福は意識の高いチームメイトに感化されて、順調に成長を遂げていく。特に力を入れてきたのが食育だ。
神戸中央シニアでは通常の3食に加えて、午前10時、午後3時、午後6時に補食を摂るため、1日6食を食べることになっている。「最初はしんどかったんですけど、やっていくうちに慣れてきました。時間がかかっても良いから、とにかく量を食べました」と少しずつ食育に対応して、体を大きくしてきた。
自身の実力に手応えを感じるようになったのは、2年生の時。「バッティングだったら遠くに飛ぶようになったし、ピッチングでは球が重くなったり、速くなりました」と食育の効果を実感できるようになっていた。練習でもランニングや加圧トレーニングで下半身の強化に取り組み、得意とするストレートやスライダーの精度を高めてきた。
宮本との投げ合いに敗れた悔しさ胸に
宮本 恭佑(東練馬シニア)と安福 拓海 =春の全国大会準決勝より
最上級生となってからはエースとして活躍。その一方で、指導陣は安福を大事に扱い、酷使することなく、なるべく大事な試合でしか登板させなかったという。
そんな中で安福が印象に残っているのが、昨年8月に行われた日本選手権大会2回戦の東練馬シニア戦だ。3月の全国選抜大会準決勝では0対2と惜敗しており、チーム全体としてもリベンジに燃えていた。
この試合では宮本慎也さん(元ヤクルト)の息子である宮本 恭佑投手(3年)と壮絶な投げ合いを披露する。しかし、宮本に適時打を打たれるなど、好投は報われずに0対2で敗戦。「僕が打たれて悔しい思いをしたので、忘れられないです」と本人にとっては悔しい思い出となった。
「長いようで短い3年間で、しんどい練習とかもあったんですけど、全部自分のためになったと思います」と神戸中央シニアでの3年間を振り返る。神戸中央シニアは全国屈指の練習量を誇るチーム。その中で心身を鍛え上げ、周囲から注目を集める投手に成長を遂げた。
中学最後の大会を終えてからも高校の練習に合流するまでの間は、毎週のように神戸中央シニアの練習に参加。現在は肩回りの筋力強化を目指しているという。
目標のプロ入りへ高校球界に飛び込む
安福拓海(神戸中央シニア)
高校は近畿地区の強豪校に進むが、「1年生からレギュラーになれるように頑張りたいです」と気合十分。彼の素材なら早くから公式戦のマウンドに立つことができるのではないだろうか。
安福を3年間指導した山田総監督は、「自分で自分を成長させる力はまだありませんが、人間性を高校野球で学んでいけば、将来的にもプロ野球の世界でも十分に活躍できる選手になっていくのかなと思います」と彼の将来性に太鼓判を押す。
安福自身も「プロ野球選手になりたいです」と将来のプロ入りを意識しており、これからは更なる高みを目指して野球に取り組む。意識の高い選手たちと切磋琢磨すれば、中学時代以上のパフォーマンスを発揮してくれることだろう。
体格も投球も中学生離れした規格の持ち主である安福。彼がどんな3年間を送るのか今から楽しみで仕方がない。
(記事:馬場 遼)