トミージョン手術からの復帰を目指す前田健太 野球人生の分岐点に立ったメジャーリーガーが思うこと
日本人メジャーリーガー・前田健太投手(PL学園出身)。
広島時代には、沢村賞をはじめ、数多くのタイトルを獲得。侍ジャパンにも選出されるなど、名実ともに日本球界を代表する投手として活躍したのち、2016年より舞台をメジャーに移す。
メジャー初先発で、いきなりホームランを放つなど鮮烈なデビューを果たすと、年々結果を残し続け、2021年シーズンは開幕投手にも抜擢。野球ファンのみならず、チーム首脳陣からも大きな期待を寄せられてシーズンを迎えた。
しかし、前田にとって思いもよらない大きな出来事に襲われた。右肘靭帯に損傷が見つかり、回復させるためにトミージョン手術を敢行。全治1年から1年半と長期離脱を余儀なくされた。
復帰を通じて手術=ポジティブだと思われるように
前田健太投手(PL学園)
メジャー6年間で通算59勝を記録。日米通算156勝を達成したが、長い野球人生で1度もなかったという大ケガに見舞われ、現在はリハビリ真っ最中。最短2022年シーズン終盤での復帰を目指しているが、野球人生の岐路に立たされたのは間違いない。
それでも、前田は焦ることなくトレーニングを積み重ね、復帰の道のりを1歩ずつ確実に進んでいる。
多くの選手はケガに襲われれば、その事実にショックを受け、精神的に堪えることがほとんどだ。そして「1日でも早く復帰したい」と願い、毎日不安や焦りを抱え闘いながらリハビリ生活を過ごしているはずだ。
リハビリ生活を過ごす前田は、同じようにケガと向き合う球児のためにも、自身の復帰は大きな意味をもたらすと考えている。
「自分がパワーアップして戻ってくれば、同じようにケガをしている人へ希望を与えられると考えています。
そうすれば、手術=ネガティブではなく、ポジティブにとらえてもらえると思っています。そんな姿を自分は見せたいので、パワーアップして戻れるようにしたいと思います」
前田のように大きなケガに見舞われればチームの主力選手、中心選手であればあるほど、早期復帰をしたいと願う。そして体に鞭を打って、リハビリメニューをやろうとオーバーワークをしてしまう。
そうやって無理にペースを早め、ケガが悪化。思うように完治せず、夏の大会は大ケガの影響でベンチを外れ、スタンドで応援する。そんな球児の姿が取り上げられることも聞かれる。
長い目で見て、亀のような歩みで
笑顔でポーズ写真を撮る前田健太投手(PL学園出身)
復帰したいと強く願うばかりに生じる焦り。そんな思いを持つ球児に対して、前田が話すのは、長い目で見ることの大切さだった。
「トミージョン手術が復帰までに1年かかるといわれていますし、周りの方からも焦らないように注意されているのもありますが、高校野球がゴールではないと思っています。
野球人生は長いので、完治させて復帰すれば大学や社会人。うまくいけばプロ野球というのが、今のリハビリをしっかりやっていけば見えることなので、今は野球から離れたいと思っても、諦めないでほしいです」
リハビリしかできない今の時期だからこそ、心身のレベルアップにも取り組める。地道な作業の積み重ねではあるが、「リハビリをすることで不安を取り除けると思っています」とネガティブな要素を打ち消すためにも、真摯にリハビリ生活を送ることが必要だ。
ケガする前よりもパワーアップして復帰する。さらに成長した姿を明確にイメージしつつ、その姿を心の支えにして辛く厳しい生活に身を投じていく。そんな覚悟を支えるのが、もう1つ。自身がブランドアンバサダーを務めるミズノのグラブ職人に作ってもらった2022年シーズンに使用するグラブだ。
「今回のケガは他と違って回復が早まることはないとわかっていても、選手なので焦ってしまう瞬間が来るので、気持ちを落ち着ける意味でもグラブに亀の甲羅がデザインされたウェブを採用しました。
今年はリハビリからのスタートですので、焦らないように、グラブを見ながら気持ちを落ち着かせる。亀のようにじっくり進めるようにウェブでデザインしてもらいました」
前田の復帰が1日でも早く見られれば一番だが、我々も焦らず待たなければいけない。2006年春、PL学園時代に前田がエースとしてセンバツ4強まで導いた快投のように、メジャーのマウンドで完全復活の姿を見られる日を楽しみに待ちたい。
(記事:田中 裕毅)