新庄ビッグボスの母校にいた、もう一人のスーパー1年生・江口翔人。名将を驚かせた類い稀な野球センスと強心臓ぶり
今年の高校野球はゴールデンルーキーの台頭が顕著だった。
すでに通算50本塁打の佐々木麟太郎(花巻東)に、大阪桐蔭の神宮大会優勝に貢献した左腕・前田悠伍。その他にも広陵のボンズこと真鍋慧や、甲子園で鮮烈なサヨナラ本塁打を放った緒方漣(横浜)など、1年生の躍動がとにかく目立つシーズンだったが、新庄剛志ビッグボスの母校・西日本短大附にも注目の1年生がいることをご存じだろうか。
名前は江口翔人(えぐち・しょうと)。
中学硬式チーム・筑後サザンホークス時代から俊足と好守で名を鳴らした江口は、西日本短大附に進学後もすぐにレギュラーに定着。夏には「1番・二塁」として全試合に出場し、チームの11年ぶりの甲子園出場に大きく貢献した。
聖地でプロ入り左腕から1安打
江口翔人(西日本短大附)
「前チームは守備にも攻撃にも不安がありましたが、江口が1番打者に入ったことで得点力が一気に上がりました。ヒットも打つし、四球でも出塁する、塁に出たら盗塁もできるし、1番打者の仕事を完璧にこなすんです。それに練習も真面目にやるし、謙虚で前向き。こいつ何者だ、と思いましたよ」
そう語るのは新庄剛志ビッグボスの高校時代の同期であり、西日本短大附を率いる西村慎太郎監督だ。チームはこの夏、11年ぶり6度目の夏の甲子園出場を決めたが、江口は1年生にしてチームに欠かせないピースとなっていた。
169センチ・60キロと体はまだまだ細身だが、軽い身のこなしに広い守備範囲、また打者としても状況に応じた打撃と俊足が光り、常に攻撃の起点となった。
初の聖地でも臆することなく堂々とプレーし、千葉ロッテマリーンズに4位指名を受けた左腕・秋山正雲から1安打。チームは初戦の二松学舎大附戦で0対2と惜敗したが、爪痕はしっかりと残した。
「球の伸びだったり、コースの突き方だったりレベルが全く違ったので、秋山投手から1本打てたことは自信になりました。また元々左投手が苦手だったのですが、秋山投手を打つための練習も多く行ったのでプラスになったと思います」西村監督にとって、江口のすごさを語る上で欠かすことのできないシーンがある。
[page_break:絶体絶命の場面で見せたノーサインでの盗塁]絶体絶命の場面で見せたノーサインでの盗塁
江口翔人(西日本短大附)
第103回選手権福岡大会準決勝の飯塚戦、西日本短大附は3点を追う8回に3番・林直樹が同点3ランを放ち9回のサヨナラ勝ちに繋げたが、その攻撃の起点となったのは江口だった。
「8回の先頭バッターだった江口は、四球で出塁するとノーサインで盗塁したんです。相手投手はペースを乱され2番打者にも四球、そして3番・林の本塁打に繋がりました。あの場面で投手の心理を読み取り、完璧に盗んで、しかもノーサインで盗塁するなんてなかなか出来ることじゃありません。あの試合は本当に江口に救われました」
絶体絶命の場面で名将を驚かせた、類い稀な野球センスと強心臓ぶり。
今後の起用法については、「3番を打っても面白い」と中軸を打たせる構想も明かすが、他の打者とのバランスを見て現状では1番が既定路線となる。
江口自身は来春に向けて、土台となる体作りを最優先に取り組むことを誓う。
「秋に初めて本塁打も出て、打撃でも少しずつ長打がでるようになってきましたが、1年生の中でも体つきではみんなに負けています。まずは体を大きくして、走攻守すべてでレベルアップし、また甲子園で戦えるようにやっていきたいです」
ちなみに西日本短大附からプロ入りした選手は8名。
西村監督は、9人目のプロ野球選手として江口に期待を寄せる。
「新庄、まだ監督してたら2年後に江口を獲ってくれねえかな」
冗談ぽく語る中にも、期待の大きさはひしひしと伝わってくる。まずは来春、どこまで成長した姿を見せるのかとても楽しみだ。
(記事=栗崎祐太朗)