モットーは「泥臭く」。ヤクルト4位・小森航大郎は熱く、天然なナイスガイ
10月11日に行われたプロ野球ドラフト会議で、実に11年ぶりに山口県内からの高卒プロ野球選手が誕生した。それが宇部工の小森 航大郎だ。
172センチ・83キロ、俊足強打の遊撃手としてチームでは1番打者を任され、高校通算26本塁打を記録。50メートル走6秒を切る俊足も大きな武器で、希少な「右打ちの内野手」として東京ヤクルトスワローズにドラフト4位指名を受けた。
だが、そんな小森の最大の魅力はプレー以外のところにある。
作業服が汚れている姿を見て格好いいなと
キャッチボールをする小森航大郎
「やっぱりプロ野球選手といえば、格好いいとかすごいといった言葉が一番にくると思いますが、僕はもっと泥臭く真剣に野球と向き合わないといけないと思っています。たまたま工事現場で、一番(一生懸命に)働かれてる方を見たのですが、作業服が汚れている姿を見て、本当に格好いいなと思って。自分だけが満足するのではなく、あの選手のようになりたいなと思われるプレーヤーになるために、泥臭くという言葉はずっと心の中に入れています」
自分の言葉で無邪気に語るその表情からは、野球愛がひしひしと伝わってくる。
モットーは「泥臭く」。
俊足強打が持ち味の小森だが、その一番の魅力は野球へのひたむきな姿勢と元気なキャラクターだ。ドラフト候補の中でも、体格は決して大きな方ではなかった。それでも東京ヤクルトから4位指名を受ける決め手となったのは、そのナイスガイな人間性に他ならない。
「自分は本当に下手くそで、守備でもエラーばかりして投手に迷惑ばかりかけました。でも、こだわったのはとにかく泥臭くやることです。投手もマウンドで全力で投げてくれています。どんな打球に対しても『捕れない』と決めつけるのではなく、最後まで全力で捕りにいくことを意識していました。
下手くそだからこそ、汚れることを嫌がらずに泥臭い姿をピッチャーに見せるんです。そうすれば気持ちがピッチャーにも伝わって、良い連鎖が生まれると思うんです」
熱い気持ちを持つ一方で、「天然」な一面も小森の大きな魅力だ。
高校通算26本塁打。実はこの数字は高校2年の秋からカウントを始めた。元々、本塁打へのこだわりがなかったこともあるが、メディアで紹介される通算本塁打数はすべて記者が数えていると思っており、チームメイトに指摘され慌ててカウントを開始した。
また同じタイミングで、2年生まで指導した藤島俊成監督(現下関工科部長)から、プロを目指す上で本塁打数の必要性を説かれたことが転機となり、練習試合でも使用していた木製バットを金属バットに持ち替える。
それまで「だいたい10本くらい」だった本塁打数も、一気に増加していった。
「みんな数えていると言われてびっくりしました。昌平の吉野(創士・楽天1位)の通算本塁打とかすごいなと思って見てましたが、1本目から全部メディアの方が数えていると思っていました」
[page_break:プレッシャーから拒食状態になった中学時代]プレッシャーから拒食状態になった中学時代
インタビューに答える小森航大郎(宇部工)
そんな小森にも、実は高校入学前に大きな試練があった。
中学時代は軟式野球チームの山口ミラクルクラブに所属したが、主将に就任後、プレッシャーから食べ物が喉を通らなくなり、拒食気味になってしまう。体重は40キロ台まで落ち込み、あわや入院というところまでいった。
やせ細った体でバットもろくに振れなかったと語り、チームは山口県大会準優勝の実績を残すも、「自分は何もやってないです」と思わず吐露する。
「診断を受けたわけではありませんが、拒食症のようになっていました。バットも振れない程で、高校に入学した時も42キロくらいだったと思います。そこからこんなんじゃプロにいけないと思って何とか克服しましたが、40キロを切ったら入院と言われていたので、正直危なかったです」
ギリギリの状態で、何とか持ちこたえた小森。宇部工に入学後、少しずつ体重を取り戻していき、5月には練習試合の遠征に帯同する。1番・遊撃で出場機会を掴むと、その後レギュラーに定着。以降は、1番・遊撃手が常に指定席となった。
最後の夏は3回戦で宇部鴻城に5対9で敗れ、甲子園出場はならなかったが、引退後も地道に練習に励んでいる。
「色んな不安がありますが、一番はヤクルトの寮に幽霊が出るという話を聞いたことです。自分この世で一番怖いものは幽霊なのですが、担当スカウトの方がおどかしてくるんですよ」
無邪気に語る小森だが、野球の話になるとすぐに謙虚な顔つきに切り替える。
プロの世界でも、モットーの泥臭いプレーを心掛けるつもりだ。
「自分は多分一番下手くそなプレーヤーだと思うので、その気持ちを忘れず、だからこそしなければならないことも多くあると思うので、ひたむきに誰よりも練習して、良いプレーをしている姿を小さい子にたくさん見てもらいたいです。そこでプロ野球選手になりたいと思われるように、全力でプレーしていこうと思います」
熱く、天然なナイスガイが、神宮の舞台で光輝く日を楽しみに待ちたい。
(記事:栗崎 祐太朗)