夏初戦で11球団が集結。超高校級遊撃手・粟飯原龍之介(東京学館)の練習改革【前編】
高校生のプロ志望届けは、9月6日から解禁された。今年の高校生遊撃手でかなり評価が上がっているのが、東京学館・粟飯原 龍之介ではないだろうか。高校通算33本塁打の長打力、抜群の強肩、俊足を武器にする大型遊撃手だ。夏初戦では11球団のスカウトが集結した。今週にプロ志望届けを提出。現在もセ・パ両リーグの多数の球団から調査書が届いているようだ。
プロを明確にしてから練習内容も変わった
鋭いスイング 粟飯原 龍之介(東京学館)
昨秋の県大会に入るまで県内では一好選手という位置づけだった粟飯原がドラフト候補として認識されるようになったのは県大会の活躍ぶりだ。3本塁打をマークし、準優勝に貢献。関東大会に出場し、多くのスカウトから注目されるようになった。この時から粟飯原はプロを意識するようになった。
「プロ野球選手になりたい気持ちはずっとありましたが、中学や、高校入学した時を思い返すと、難しい目標だと思っていました。しかし県大会でホームランを3本打って注目していただいて、スカウトの方にも見に来てくれていただいた。憧れだったんですけど、プロは明確な目標に、きっちり決まりました。そこから、プロをすごく意識して練習していたんです」
昨年11月の取材に訪れた時も、まだ進路を明言していなかったが、この時からプロ志望を胸に秘めていた。
「あの時はプロを意識しながら、スカウトの皆様に良いプレーを見せられ、プロ野球選手になりたい気持ちでプレーしていました」
その言葉を聞くと、当時の練習姿勢からそのこだわりが見えた。捕球練習、ティー打撃と一つにしてもこだわりを持って取り組んでいたことを思い出す。粟飯原は1日1日の練習の質を大事にしていた。
「プロを明確に意識してからは、練習している時に、どうしたいいのかを考える習慣ができました。自分の悪いプレーを思い出しながら、うまくなるために、どうしたら練習したらいいのかを考えるようになりました」
冬場ではウエイトトレーニングで体を作り、さらにティーバッティングにもこだわるようになった。ティーバッティングは日によって取り組む種類は違うが、最大で7種類ある。坂本 勇人や鈴木 誠也のティー打撃の動画を見て研究を行うようになった。実際に取材日でも普通のティー打撃だけではなく、右手だけのティー、左手だけのティー、逆手(左打者の粟飯原は通常、左手を上にして握るが、この場合、右手を上にする)のティーを行った。それぞれの狙いについて粟飯原は次のように語る。
「まず左手だけのティーですが、自分は左手の押し込みが弱いので、押し込む力をつけるためにやっています。
続いて右手だけのティーですが、右脇が開かないように意識するためのティー打撃です。自分は右脇が開いてしまうと、うまくボールを見極められず、力が伝わらない打ち方になってしまうため、両腕が伸びた時に当たる形が自分にとって理想なので、その形をより作れるよう、このティーを行っています」
複数種類のティー打撃を取り組んだことで、逆方向への打球が伸びるようになった。
[page_break:守備、打撃もレベルアップし、プロ注目選手として夏へ]守備、打撃もレベルアップし、プロ注目選手として夏へ
粟飯原 龍之介(東京学館)
逆方向だけではなく、一冬を超えると、全体的に打球の飛距離がさらに伸びていた。
「強く振れるためトレーニングをした成果が出て、今まではフェンスを超えなかった当たりでもフェンスを超えるようになっていました」
課題の守備も磨き直した。野球解説者の井端 弘和氏の動画を見ながら、守備の基礎を学んできた。
「守備だと送球が苦手でしたので、送球の精度を高めることを課題に取り組んできました。昨秋と比べると自分の中では送球面が改善できる実感はありましたし、それでも、その精度は周りから見たら不安というのはありますが、一歩ずつレベルアップしているかなと思いました」
春の県大会初戦の東海大市原望洋戦では4打数1安打。そのうち1本は痛烈な二塁打だった。たった1本だが、周囲の評価は上がっていた。春の大会が終わり、スカウトはさらに熱心になっていた。
注目が集まったのは、6月19日の千葉学芸との練習試合。千葉学芸のスラッガー・有薗 直輝とのマッチアップということで、多数の球団スカウトが東金市の[stadium]千葉学芸グラウンド[/stadium]に訪れていた。粟飯原は千葉県屈指の技巧派・北田 悠斗から右翼線を破る痛烈な二塁打を放つ。あっという間にフェンスに到達し、粟飯原は自慢の俊足ですぐ二塁に到達した。練習試合後、話を伺った時、北田が打てたことに喜びを表していた。
「千葉を代表する投手から打てたことは本当に良かったですし、左投手から打てたことは自信となりました」
当時は千葉大会開幕2週間前ということで、粟飯原は有薗や、専大松戸の深沢 鳳介とともにプロ注目選手として取り上げられる存在となっていた。
「非常に光栄ですし、そういった選手たちと対戦できる可能性があることに燃えています」
静かに闘志を燃やしていた。
そして最後の夏を迎えたのだった。
(記事=河嶋 宗一)