Interview

父は元阪神。補欠も覚悟した履正社出身の大型捕手・関本勇輔【前編】

2021.09.06

 部員190人を抱えるマンモス大学として知られる日本大学。過去には全日本大学選手権で優勝2回、準優勝5回と輝かしい実績を持つ。さらに真中 満氏や村田 修一氏、現役には長野 久義京田 陽太など数多くのプロ野球選手を輩出している。

 今年は春季リーグ戦で2部優勝、入れ替え戦も勝利して秋より東都大学野球の1部リーグに復帰する。伝統校の復活の兆しを見せている最中だが、そこに一躍買っているのが、2021年より監督に就任した片岡 昭吾氏だ。

 2年後の2023年に迎える創部100年も見据えて、コーチ陣も一新するなど現状の打破に加え、新時代を築こうとしている。その新時代の中心となり得る未来の担い手が今年も日本大学の門を叩いてきた。

身体の成長に苦労した小・中学時代

父は元阪神。補欠も覚悟した履正社出身の大型捕手・関本勇輔【前編】 | 高校野球ドットコム
関本 勇輔(履正社出身)

  数多くの1年生がいるなかで、片岡監督が「ポテンシャルは新入生の中でも頭1つ抜けています」と注視している選手がいる。その選手こそ、履正社の元主将・関本 勇輔だ。

 関本と言えば、父は元阪神タイガースの関本 賢太郎氏。強豪・履正社では主将を任された。現役時代は強肩強打の選手として活躍したことで知られている。プロ野球選手の息子と言うことで、注目しがちだが、その裏側では数多くの壁にぶつかっていた。

 小学1年生から軟式野球をはじめた関本は、当初ピッチャーやショートを守り、肩の強さを活かしていたという。実際に6年生の時のスポーツテストで実施したソフトボール投げは68メートルで学年1位になるほどだった。

 ただ、小学校高学年からの成長期の影響で身体が大きくなり始めたころから、チームからキャッチャーを守ることを勧められる。「父にも相談しまして、年1回くらいですが始めました」とキャッチャー人生の第一歩を踏み出す。

 そして中学からは硬式野球・兵庫西宮ボーイズに進むと、キャッチャー1本に絞った。キャッチャーという他のポジションとは違う特殊なポジションを守るにあたり、「どれだけ指導者から指摘されて、それを理解するか。そして投手と野球の話をしたりしてコミュニケーションをとることを大事にしました」と当時の取り組みを振り返る。

 父・賢太郎さんにもキャッチャーについて相談をすることがあったそうだが、それよりも話を聞いたのは打撃の方だった。成長期に伴って身長が3年間で25センチも伸びた。背が伸びたことで、腕の長さなども変わってきた。これによって、バッティングの中で感覚の微妙な変化が生じることになった。これには関本も「(身体が大きくなったことは)バッティングでは困ったところでした」と少し苦笑いを見せながら話をする。

 その時に父へ、なぜ打てないのか。逆に好調ならばその理由は何なのか。映像を見ながら質問攻めをして根拠を解明したという。

 

「父からは『感覚だけに頼ってプレーすると、不調の時に原因がわからずに調子を取り戻せない。だから、しっかりと調子がいい理由を理解しなさない』と言われてて。だから両親にはわがままを言って、毎試合必ずビデオ撮影をしてもらっていましたね(笑)」

[page_break自分で考える履正社での苦楽の日々]

自分で考える履正社での苦楽の日々

父は元阪神。補欠も覚悟した履正社出身の大型捕手・関本勇輔【前編】 | 高校野球ドットコム
関本 勇輔(履正社出身)

 根拠を持つようにしてきた関本は、中学通算で20本超えのホームランを打つスラッガーに成長。スイングスピードも130キロ前半を計測していたそうで、高い能力をもって大阪の強豪・履正社の門を叩いた。

 「父からは、自分で考えて練習をすることの大切さを日ごろから言われていたところでした。その点でいえば、履正社は自主性を重んじながら上のレベルを目指す環境でした。そこに惹かれて入学を決めました」

 元プロ野球選手の息子ということもあり、期待は膨らんでしまうところだが、現実は違う。履正社のレベルの高さに驚き、「3年間、補欠もあり得るぞ」と危機感を感じた関本。父・賢太郎さんも覚悟していた予想を覆すために練習をするが、結果がついてこない。加えて練習も厳しく「ハードでしんどかった」と関本は感じながら、同時にもどかしさを抱えていた。

 「何をやっても結果が出ないので、『これをやっても無駄かもしれない』と思う時期もありました。同級生の小深田(大地)は試合に出ていて、池田も活躍していたので、『凄いな』と思いましたし、『自分はこれで良いのかな』と焦っているところもありました。精神的に追い詰められて1年間は地獄でした」

 関本は結果的に1年間ベンチ外で、公式戦の空気感を味わうことはできなかった。焦りと、もどかしさに葛藤していたが、「思い悩んでいることよりも、これまで両親にしてもらったことの方が大きい」と、両親への恩返しを心の支えにして、諦めることなく練習に食らいついていく。

 そして初めてのオフシーズン。関本は周りよりも遅かったというスイングスピードのアップをテーマに、ウエイトトレーニングを本格的に取り組むようになる。そのおかげで、身長は伸びなかったが、体重は一冬超えて4キロの増加に成功。プレー1つ1つに力強さが出てきた。また打撃フォームがハマりだしたことで、調子が上向きになってきた。

 「踏み出す左足が打つ瞬間に伸び切ってしまうことで、開きが早まってしまうのがバッティングの課題でした。だから着地した時に膝を曲げたままで打てるように練習をしたことで、開きが抑えられるようになったので、結果が出るようになってきました」

 関本は2年生の春に迎えた選抜で初めてベンチ入り。父・賢太郎さんが何度もプレーしていた聖地・甲子園に初めて足を踏み入れた。その時の景色に感動と驚きを感じながら「甲子園でプレーするためには、公式戦で勝ち続けないといけない」と勝利への執着心が芽生えた。

 チームは初戦・星稜の前に敗れたが、関本は選抜終了後もベンチ入りを続け、徐々に経験が積み重なっていく。そして夏の甲子園では、悲願の初優勝を経験することが出来た。「先輩方に連れていってもらったので、良い経験をさせてもらったと思っています」とあくまで先輩たちへの感謝の思いを述べた。

(記事=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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