ミスターコントロール・吉見一起が振り返る高校時代 コントロールよりもスピード優先だった
7月7日から人気アプリゲーム「八月のシンデレラナイン」原案の完全オリジナルドラマ「八月は夜のバッティングセンターで。」がテレビ東京ほかで絶賛放映中だ。このドラマでは1話ごとに、NPB、MLBで活躍したレジェンドが登場する。高校野球ドットコムでは、そんなレジェンドの生き様、野球観に、とことん迫った記事をお届けする。ぜひ読者の皆様にはレジェンドの考えを知っていただきたい。
今回紹介するのは、18日の第6話に登場した吉見 一起(金光大阪出身)氏だ 2005年から2020年まで中日の主力投手として活躍した吉見氏は、11年には18勝を挙げ、優勝に大きく貢献。5年連続二桁勝利、通算90勝を記録した。その吉見氏の最大の武器といえば、コントロール。通算四球率1.57と、抜群の制球力を誇る。そんな吉見氏がいかにその投手に成り立ったのかを振り返る。
吉見一起氏がゲスト出演している「八月は夜のバッティングセンターで。」第六回は、TVer、paraviなどで配信中。
「コントロールが大事」腑に落ちるようになったのはプロ入り時代
吉見 一起氏
今でこそ「ミスターコントロール」、「精密機械」というキャッチフレーズがつくほど、制球力を高く評価される吉見氏。ただ高校時代、いやプロの若手時代までコントロールはあまり意識していなかった。
「コントロールの重要性を気づいたのはプロ入りになってからなんです。優先順位は球速でした」
金光大阪時代は140キロ後半の速球を投げ込み、プロからも注目される投手となった。甲子園出場を狙う立場となっても、3年春に甲子園出場を果たすことになっても、その意識は変わらなかった。
「プロに行きたかったですし、球速は一番評価されやすい指標だと思っていましたし、チームメイトに『俺何キロ?』と聞いていました。速いボールを投げることしか頭になく、今振り返れば、かけ離れた優先順位でしたね」
トヨタ自動車に入社し、プロで活躍する投手から人づてにコントロールの大事さを聞かれた。それでも速い球を投げたい優先順位は高かった。
「そこまでコントロールに対して、あまりこだわりはなく、狙うところを投げる練習はしなかったですね。とはいえ、高校時代と比べればコントロールの大事さは感じていましたが、それでも優先順位は速いボールを投げたい気持ちは強かったですね」
吉見氏がなぜ速球に対してこだわりが強く、ハイレベルなトヨタ自動車でもその優先順位のままでいけたかといえば、試合を作れるだけのコントロールがあり、コントロールに苦労したことがなかったという。
2005年、ドラフト希望入団枠で中日に入団。即戦力として期待される中、吉見氏がコントロールの重要性を自分の中で腑に落ちるようになったのは、名捕手・谷繁元信氏の助言や自分以上の速球投手を次々と目にして、考えが変わるようになった。
「自分より速い投手はたくさんいましたし、『コントロールを大事にしていったほうがいい』といろいろアドバイスをいただくことが多くなったんです。最初は腑に落ちなかったんです。ただ、一軍では一流の打者を抑えることはできても、超一流の打者には僕のボールの速さではきついと思うようになったんですよね。当時、言われていたことを思い返して、スピードを落としながら切れのあるボールをコントロールよく投げる方が抑えられるのではと思ったんですよね。そこからシフトチェンジをして、コントロールを意識するようになりましたね」
打者との駆け引きも覚え超一流投手へ成長
吉見 一起氏
その中で日々の投球練習ではこう意識した。
「同じフォーム、リリースポイントの一定性を求めていました。後はシンプルに投げる。フォームでひねって投げたり、ブレが生じるので、シンプルに投げることを一番に考えました」
シンプルに投げる。だからこそキャッチボールの重要性を理解した。
「キャッチボールはとても大事で、相手の胸のどこに投げるかを考えることで、何十球、何百球と、反復練習を繰り返してフォームを作っていきました」
それに気づいたのは、2009年のシーズンだったという。このシーズンでは前年の10勝を上回る16勝を挙げた。この時から「速い球を投げるにはどうすればいいか」から「狙った所に投げるにはどうすればいいか」を試行錯誤するようになった。そうすると、調子が良い時は「100球投げれば、100球は狙い通りにいくイメージはもてるぐらいはありました。ただ、それで勝てるとは限らないのですが、コントロール重視の考えに変わってから狙い通りに投げられる確率はかなり上がりました」
2011年は18勝を挙げるが、この時は一軍登板6年目ということで打者との駆け引きを覚えたという。
「この時はコントロールもそうなのですが、打者との駆け引きも覚えるようになりました。プロの中では速いボールを投げられなかったことが幸いし、どうやったらトップレベルの強打者を抑えられるかを考えるようになりました。これは1回やれば覚えるものではなく、何度も対戦を重ねて、何度か投げることで、整理しながら、自分のものになっていきました。11年については調子が悪いシーズンではなかったのですけど、いろいろと考え方がマッチした。打者をうまく料理できたシーズンではありませんでした」
コントロールの重要性は、昔から語られてきたことだ。腑に落ちて、コントロールを磨くかどうかは選手次第。吉見氏の場合はプロに入って経験を重ねることに気づいた。そして自分の力量を客観視する力もあった。言われたからやるのではなく、自ら気づいて、生きる道を探るようになった現役時代の考え方は、指導する立場となっても生かしている。
[page_break:プロにいきたいならば、良い球をコントロール良く投げる確率を高めるしかない]プロにいきたいならば、良い球をコントロール良く投げる確率を高めるしかない
吉見氏は今年の2月から古巣のトヨタ自動車のアドバイザーに就任。プロに行きたい投手についてはこう話している。
「僕は聞かれない限り答えません。ただ、プロに行きたい投手に話をするのは、確率を上げましょう。10球投げて、5球良い球、5球良くない球がいくとします。
これではアマチュアレベルでは抑えられるけど、5球失投する投手はプロではきついと話していて、7球良い球でもギリギリかなと思っています。
狙ったところを投げる。常に100%を投げ続けるのは無理ですが、80%のボールを10球狙い通り投げられる。その確率を高めてほしいと。
僕が指導で心がけているのは、『何をしなさい』といわないことです。必ずヒントを与えるようにしています。答えを教えてしまうと、選手の成長が止まってしまうので。
ヒントを与えて、10人いたら、10人の考え方が違いますし、本人がどう捉えるのかが大事です。
トヨタ自動車では、12分間キャッチボールがありますが、意識の差はどうしてもあります。これは年単位でやると、効果は大きく変わるので、キャッチボールから1球1球を大事に、向上心、好奇心を持ってほしいと伝えています」
最後に高校球児へメッセージを送った。
「野球が好きであること。キャッチボールを大事にすることですね。また本を沢山読んでほしいです。何かを読んで情報を得ることは、大きくなった時に、必ず生きると思うので。向上心、好奇心を持ってやってほしいと思います」
投手にとって、コントロールも、スピードも評価される大事な指標だ。ただそれを両立して武器にするのはレベルが高い舞台ほど困難になる。一流投手になるのは、自分を客観視して何を武器にして見出していくか。そのためには好奇心、向上心を持ち続けることがスタートになるのだ。
(記事=河嶋 宗一)
吉見一起氏がゲスト出演している「八月は夜のバッティングセンターで。」第六回は、TVer、paraviなどで配信中。