泰然自若な158キロ右腕・石川柊太(都立総合工科出身)を支える超一流のメンタリティ【前編】
3月26日に開幕するプロ野球。4年連続の日本一の福岡ソフトバンクの開幕投手を任されたのは石川柊太だ。都立総合工科時代から好投手として名が知られた存在だったが、素質が開花したのは創価大から。140キロ後半の速球と切れ味鋭い変化球を武器にリーグ戦通算7勝を挙げ、大学選手権にも出場。福岡ソフトバンクに育成1位指名を受け、プロ野球選手の夢をかなえる。
プロ入り後、3年間は一軍登板なしに終わったが、プロ4年目の2017年から一軍で8勝を挙げ、2018年には13勝、2020年は11勝をあげ、最多勝・最多勝率の2タイトルを獲得した。
現在は最速158キロのストレートとパワーカーブと呼ばれる強烈な変化球を武器に三振を量産する石川だが、なぜ12球団でもトップクラスの戦力を誇る福岡ソフトバンクでエース格へ成長できたのか。今回は投手としてのレベルアップではなく、石川の超一流のメンタリティに迫っていきたい。
良いイメージトレーニングを常に行っていた
石川柊太(都立総合工科出身)
12球団でもトップクラスの巨大戦力を誇る福岡ソフトバンク。一軍出場するまで、激しい競争が行われている。石川はその環境でも気劣ることなく、ステップアップしていた。
「当時から二軍すら昇格するのも厳しいくらい競争が激しいチームした。それでも『自分は抑えているのに、なんであの人はあがっているんだ』という無駄な感情は一切捨てていて、応援してくれる方々のため活躍したいという気持ちは常に持っていました」
2014年からここまで6度も日本一に輝いている常勝軍団・福岡ソフトバンクのマインドは石川にも大きな影響を与えていた。
「僕が入団してから、強いホークスしか知らないんです。球団自体が常に勝つためにどうすればいいのかを本気で考えていて、王会長、孫オーナーは勝負に対してかなり厳しい方ですし、『143試合を全勝しよう。負けていい試合はないんだ』という考えが一軍だけではなく、二軍、三軍にも浸透していました。
勝つためにどうすればいいのか、そのための行動を一軍の選手たちは模範となっていましたし、そういった一軍の選手たちのマインドはひしひしと感じていました。僕ら三軍の選手たちも同じ気持ちでした」
石川は一軍で活躍するためにイメージトレーニングを常に行っていたという。
「これがすべてではないですが、二軍にいるときから、一軍の登板試合で登場曲に乗ってマウンドまで走っていって、投球練習を行う。そこまでの行程は妄想かもしれませんが、このイメージトレーニングは常に行っていましたね」
3年間の二軍暮らしを経て、2017年のキャンプではA組(一軍)キャンプでスタートが決まった。
「初めて一軍キャンプに入ることができてスイッチが入りました」
そしてこの1年は34試合に登板し、8勝を挙げ、1年通しての活躍を果たし、プロ野球選手として大きな一歩を踏み出すことができた。
一軍で投げられるようになったからこそマウンド、アイテムにもこだわりを
石川柊太(都立総合工科出身)
高校時代から投げることについてはずっとこだわりがあった。一軍の舞台を経験したからこそ気づいたことがある。それがマウンドでの適応だ。
「これは一軍のマウンドで投げることで気づいたことですが、球場ごとにマウンドの状態は全く違う。まず土台となる部分が大きく変わってしまいますので、試合前からのキャッチボールではそのマウンドに合わせたキャッチボールをしますね。特に一軍に挙がってからはそこは強く考えるようになりましたし、合わないと本当に苦しみますので、こだわって調整してきました」
こうしたマウンドとの適応に一緒に戦ってきたのがスパイクだ。
2017年からスパイクにベルトがついている「コウノエベルトスパイク」を使用している。
「プロ入り後もいろいろなメーカーさんのスパイクを使用してきましたが、2017年から現在のスパイクを使用しています。僕が一軍に出場してから使っているスパイクなので、もちろん愛着があります。僕が活躍することで、お世話になっているメーカーさんに恩返しができればと思っています」
また石川は年間2足使用し、P革が破れたタイミングで2足目を使用するようだが、「シーズン途中で、スパイクそのものを変えるのは使いづらいところがあります。多少破けても使用することはあります」と話す。
こうした会話から足元にもこだわりがあることがうかがえる。またグラブはデサントのグラブを使っているが、大きめのサイズから、やや小さめに改良した。また少し重めにしているのもポイントだ。
「グラブは軽すぎないようにしています。僕は投げるときにグラブを下に置いて投げるタイプなので、多少重さがあったほうが、遠心力をうまく使えるかなと思っています」
さらに、グラブと同じくアンダーウェアもデサントと契約している石川だが、アンダーウェアについては余裕を持たせた形にしている。石川が高校生の時期はピチピチのウェアが全盛で、高校時代から「ピチピチ」のシャツを着用していたという。しかし、感覚が合わないということで、大学生の時から余裕を持たせたウェアに変更し、現在に行きついている。
つまり、石川にとって用具を求めるポイントは、違和感なく動けるか、投げられるかなのである。
そんな石川は、野球以外では、ももいろクローバーZの大ファンを公言しているが、SNSを見ても誰からも好かれる気の良い好青年の印象を受ける。しかし野球、そしてピッチングになると、何事にも動じない強いメンタリティを持った一流のプロ野球選手の顔を覗かせてくれた。
後編ではそんな石川選手の高校時代の挫折と大学時代の学びに迫る。
(記事=河嶋 宗一)