スーパー中学生と騒がれて約2年。伊藤樹(仙台育英)はいかにして復活したのか? vol.2
3年前、野球界に衝撃を与えた森木大智(高知)。軟式野球ながら150キロを計測し大きな話題となったが、その森木と熾烈な争いを演じた男を忘れてはならない。当時144キロを計測した伊藤樹だ。
現在は仙台育英のエースにまで成長し、最速147キロを計測するストレートに軸に多彩な変化球を駆使する世代屈指の好投手にまで成長した。ラストイヤーとなる2021年の高校野球界の中心となることは間違いない伊藤は、ここまで順風満帆のように見えるが、その道のりは決して簡単ではなかった。
vol.2では1年生秋から昨夏の甲子園交流時代までの復活。そして新チームでの取り組みについて迫っていきたい。
vol.1の記事はこちらから!
スーパー中学生から147キロ右腕となった伊藤樹(仙台育英)がぶつかった高校野球の壁 vol.1
求めたのは中学3年時のフォーム
伊藤樹
フォームを見失った伊藤。再び輝きを取り戻すべく、目指したのは中学3年生の夏だった。
「自分の中では3年生の夏の時のフォームが一番良かったので、まずはそこに戻すこと。それから硬式に対応したフォームにしようと思いました」
3年前に取材した当時のころのフォームを目指し、自身の課題をすべて書き出して優先度を決めた。そのうえで、1つ1つ向き合って解決するべくネットスローの数をこれまで以上に増やした。
「鏡を見ながらとにかくフォームを意識して投げたり、18.44メートルからは傾斜を使いながら軽く投げたり。あとは身体が流れやすいところがあったので、背中側に障害物を置いてネットスローをしました」
並行してフィジカルの強化も忘れなかった。特に大事にしたのは柔軟性を磨くことだ。伊藤自身で調べて練習に取り入れるなど、胸郭を中心に柔軟性を鍛え上げて、故障を減らしながらスムーズに投げられるようにしてきた。
こうして中学3年生の夏のフォームを維持したまま、出力を引き上げる。そのために、柔軟性を磨き、元々の出力を増やすためにトレーニングに打ち込む伊藤の冬が始まった。
しかし復活した姿を見せるべく迎えた2度目の春は、新型コロナウイルスにより続々都大会が中止。練習も自粛となり、全体練習が出来ない日々が続いた。この期間を伊藤はどのように過ごしたのだろうか。
「近くの公園や河川敷に先輩方と行って、とにかく遠投をしていました。自分は低く強いボールを投げようとすると体が開いてしまうので、遠投する時はリラックスした状態で、身体を捻って、真っすぐ綺麗に上に向かって投げるようにしました」
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キャッチボール中の伊藤樹
コントロールを磨くためにも目標として、100メートル離れた相手の胸元に山なりでも投げ込めるようにイメージをもって遠投に取り組んだ。すると、「球持ちがよくなりました」と変化を実感。さらに練習が再開し、マウンドで投げることに慣れ始めると、ボールの変化をより感じるようになる。
「ハマったときのボールの感覚は本当に良かったです。1年生の秋は力んで投げていたボールが、リラックスして柔軟性やフィジカルをしっかり使って上手くボールを投げ込めるようになりました」
すると夏の東北大会では決勝の聖光学院戦で登板し、3回投げて2奪三振1失点の内容を残すと、8月の甲子園交流試合にも2番手で登板。0.2回で2奪三振の結果を残し、復活を印象付ける投球結果を残した。
ただ伊藤の中では「勝てる投手になるのはスケールアップした現状で、丁寧に投げ込めるようにすることだと思います」と勝つ投手を目指し、再び練習の日々に戻った。
キャッチボールをするときには取り組み始めたドリルをこなし、ネットスローも行うなど、フォームの再現性を高め続けた。そして伊藤はエースナンバーを背負い、宮城県大会、そして東北大会へ臨む。
「自分が最高学年で勝たないといけない。背番号が違うだけですが、期待感や責任感がありました」
その重圧を背負いながらも東北大会では花巻東戦で好投を見せて選抜への出場権をたぐり寄せた。振り返っても「今までのベストに近かった」と納得の投球で決勝に導き、優勝に大きく貢献した。
いよいよ伊藤の高校野球もラストイヤーをなる。そこで1つ気になったのは森木大智の存在だ。
「向こうは先に150キロを出していますし、ネットで見ても良い投手だと感じています。いつか必ず甲子園で戦いたいと思う選手の1人ですし、中学時代は何度も話をして試合もやった仲でしたので、本当にいいライバルだと思います」
しかし森木を含め、ライバルたちを倒さなければ日本一はない。勝負の1年へ、伊藤の意気込みを聞かせてもらった。
「選抜に選ばれるならしっかりと準備して日本一をとりたいと思います。そして夏も優勝して春夏連覇できればと思っています」
かつてスーパー中学生と呼ばれた伊藤の集大成はどんな結果となるのか。伊藤樹の最後の1年間の活躍を楽しみにしたい。
今回はここまで。次回は伊藤投手のテクニカル面をご紹介していきたいと思います。
(記事=田中 裕毅)