林優樹(近江出身)を彷彿とさせた林平太郎(都立城東) 都内屈指の左腕が生まれた心と体を一致
秋季東京都大会は有観客で開催され、無事に大会が終わった。東海大菅生と日大三による決勝戦は東海大菅生の6年ぶり3度目の優勝で幕を下ろし、2020年の高校野球はすべて終了した。2021年こそ例年通り大会が開催されることを願いたいところだが、2021年に飛躍したい左腕が都立城東・林平太郎だ。
1年生秋に向かえた2019年の都大会ではチームのベスト4に貢献。エースとして活躍し、当時は林優樹(近江出身)を彷彿とさせる投球フォームが都内で話題となった。そして今夏の東東京大会では一回り大きくなった林は再びエースとしてベスト8進出に導いた。
チームのことで精いっぱいだった小中学時代
林 平太郎投手(都立城東)
そんな林の野球人生の始まりは小学3年生。梅田レッドホースの練習を見て、「野球をやりたい」と思い、野球の世界へ飛び込んだ。「昭和っぽい根性みたいなところがあって、練習はきつかったです」と苦笑いを浮かべながら振り返る。
当時から制球力を武器にピッチャーとして活躍。葛飾区の大会で決勝戦まで勝ち進んだ経験があるものの、都大会等での登板はなかった。
その後、林は葛飾区立大道中学へ進学。野球部に入り、軟式野球を継続する。中学野球に変わっても壁を感じることなくプレーできていた林。ただ大道中では、梅田レッドホース時代とは違った厳しさを感じていた。
「人数が少なかったです。同級生は6人いましたが、1学年上は1人。2学年上は5、6人でした。練習はしっかりやるんですが、人数が少なくて大会に出られないこともありました」
結果、林は大道中時代も目の前の試合に全力を注ぎ、自身のピッチングに対して細かく考える余裕はなかった。ただ、「自分だけの力で勝つことが出来ない。野手と力を合わせて抑えないといけないことは学びました」と意識に変化が生まれた。
真っすぐとカーブを軸に、コントロールを武器に頑張っていた林は、都立城東へ進学するが、その理由は学校が近いからだった。
「練習も見たことがありませんでした。特別な思いとかはなくて、願書を出してから野球部の強さを知って。実際に入部してからも人数の多さには驚きました」
またここから硬式野球に変わったが、林の中では戸惑いがあった。
「中学までに硬式をやっていたから上手いとは思っていなかったので、『全然勝負できる』と思っていたんですけど、思うようなピッチングはできていませんでした」
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内田 稔監督の指導を受ける林 平太郎
心と体が一致しない。林はこのギャップを埋めるために、同級生にピッチングフォームを見てもらい、指摘してもらうようにした。これで自身が思い描くフォームとの違いを明確にし、修正をかけていった。
そこで見えてきた原因が体の変化だった。
「体が大きくなっていたので、ピッチングの中にも余裕が生まれて、安定感が出てきていました。それでフォームを変えるのではなく、まずはストライクゾーンに投げられるように練習しました。ストライクが入らないことには試合を作れないので」
林はピッチング以上に、キャッチボールから1球1球構えたところに投げ込むように取り組んだ。それをとにかく継続してきたことで硬式球に慣れていき、自慢の制球力を発揮してきた。
そして新チームになると、林は体重移動を課題に掲げてフォーム固めに勤しんだ。
「新チームスタート時ごろに、体重移動をするときに平行移動が出来ていないことを、トレーナーの方に指摘してもらったんです。そこからはキャッチボールから、体重移動にも注意しながら練習してきました」
林は昨年の秋季大会、エースとして下級生ながら大活躍。チームのベスト4進出に貢献し、一役都内屈指のサウスポーまで成長。注目選手の仲間入りとなった林は、冬場に変化球の精度を課題として練習に取り組んできた。
すると、林の体格は一回り大きくなる。入学時は175センチ65キロほどだったが、180センチ81キロまで急成長。「8時間寝ていましたが、食事も変えていないですし、普通に過ごしていたら大きくなりました」とのこと。ただ、体の変化はフォームのマイナーチェンジをする必要性が生まれた。
「足の上げ方は変わりました。体力は温存させたかったこともありますが、そこで力を抜く代わりにリリースで力を入れられるようにしました」
フォームにも安定感が生まれるなど、手ごたえを感じてきていた林。しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響で練習自粛。林は土手で部員同士集まって練習をするなど、出来ることを重ねて夏への準備を続けた。
そして迎えた夏の東東京大会。都立城東は順調に勝ち上がってきたが、準々決勝で関東一の前に2対12で敗戦。5回コールドという悔しい結果に終わった。この結果は重圧を感じた中で残した内容だった。
「関東一までは勝たなければならない重圧はありました。関東一が大勝負だと思っていたのですが、あの時は持っているものを出すだけではなく、相手打者の特徴を見て投げないといけないことを知りました」
関東一の徹底された対策に捕まった林。その対策の裏をかくような投球、冷静な投球術の重要性を感じながら秋に向けて準備を進めた。
そして迎えた2度目の秋。「むちゃくちゃ調子が悪いです」と不調の中で都立日野戦に先発。エース・木下孔晴と投手戦を演じたが、0対1で敗戦。ブロック予選の初戦で姿を消すこととなった。
春は再びブロック予選から。間違いなく注目校として周りからマークされるはずだろう。他校からの包囲網を掻い潜る活躍を見せれば、林はさらにワンランク上の投手になるはず。一冬超えて、さらにたくましくなった林に会えることを楽しみにしたい。
(記事=田中 裕毅)