193センチの大型右腕・シャピロマシュー 一郎(国学院栃木)は佐々木郎希型フォームで急成長
今年の高校野球は、春先からの長期間の活動休止の影響から、夏に彗星のごとく頭角を現す選手が非常に多く見受けられた。プロ志望高校生合同練習会でも世が知らぬ逸材が多く登場し、最後まで新たな発見の多いドラフト戦線になったのではないだろうか。
そして、この夏に一気にブレイクした選手の一人が、国学院栃木のシャピロマシュー一郎投手ではないだろうか。
193センチ・94キロの体格から最速147キロの直球を投げ込み、夏の栃木県独自大会で2試合に登板して、3イニングを2安打1失点7奪三振と好投。
プロ志望高校生合同練習会でも、シート打撃で打者6人を相手に無安打4奪三振と結果を残しアピールにも成功し、一躍ドラフト候補として名乗りを上げた。
度重なる成長痛で、ここまで満足に野球が出来なかったシャピロマシュー・一郎投手だが、ドラフト候補と称されるまでには、一体どんな成長があったのだろうか。
体作りに専念できた野球ができない期間
シャピロマシュー・一郎(国学院栃木)
シャピロマシュー投手の魅力を語る上で欠かせないのが、193センチの長身だ。
中学校に上がる頃から周囲よりも明らかに大きくなり始めたと言い、高校入学時には身長は184センチにまで達する。高校入学後も止まることを知らず、最終的には身長は194センチにまで伸びた。
だが身長が伸び続けると同時に、成長痛に悩まされることとなる。主に腰の痛み、ひどい時には膝にも痛みが走り、歩くのもままならない時期もあったという。
「1年夏から2年夏までの1年間、まったく投げることが出来ずに、2年の秋から冬にかけてもまた成長痛が再発しました。
練習ができない間に一番練習してきたのは体幹トレーニングです。今まで体幹は強いと思っていたのですが意外と弱くて、鍛えていたら変わるかもしれないと思って取り組みました」
実は入学時、184センチの身長があったシャピロマシュー投手だが、体重は90キロと今とほとんど変わらない重さだった。当時を「ぽっちゃり体型だった」と笑って話し、体重をできる限り維持することを心掛けてトレーニングに取り組んだと振り返る。
「高校生はみんな体を大きくしようとトレーニングを行いますが、僕の場合は最初から大きかったので自分に合った体を探していました。体を絞ったり、時には少し大きくしたり、でもあまりやりすぎると怪我をするので、時期なども考えながらやっていました。今はだいたい92~93キロの間がベストだと思っています」
1年夏に135キロを記録して以降は、まともに投球をすることが出来なかったため、自分の現在地も何もわからない状態であった。だが、ようやく思い切りボールが投げれるようになった春先、シャピロマシュー投手はキャッチボールで手応えを感じる。
ボールの強さ、キレ、ノビ、すべてにおいてこれまでに無い感覚があったのだ。
「これいけるぞって確信できる感覚がありました。キャッチボールをしただけでも、明らかに今までと違う感覚だなと思い、いざ実践で投げると初めて140キロを記録しました。そこから温かくなるにつれて、どんどん球速も上がってきた感じです」
ドラフトを控え、足が震えることも
シャピロマシュー・一郎(国学院栃木)
プレーできない期間の地道なトレーニングにより、球速を上げていったシャピロマシュー投手だが、投球フォームにも一つ大きなこだわりがある。千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手を彷彿とさせる、左足を大きく上げる動きだ。
ドラフト候補として騒がれ始めた時には、「佐々木朗希みたい」、「佐々木朗希を意識してる」などと声が上がったが、シャピロマシュー投手はフォームを意識していることを認め、その狙いを解説した。
「佐々木郎希投手に似てると言われますが、本当に参考にしています。1年生の冬に生で見る機会があったのですが、あの足の上げ方がとても印象的で。もしかしたら自分に合ってるかもしれないと思って試してみたら、意外とフィットしたんです。
元々そこまで高く足は上げていませんでしたが、少しふらつきがあって自分の中で違うなと思っていました。自分は手足が長いので、大きく使って投げたことが良かったのかなと思っています」
怪我で野球ができない期間が長かったシャピロマシュー投手だが、その言葉からは自身の体と真摯に向き合ってきたことがわかる。落ち着いた振る舞いからも大物感を感じさせるが、その素顔は非常に繊細だ。
ドラフトを直前に控えた現在は、ふと不安になることもあると思わず口にする。
「あまり意識はしてないようにしてましたが、最近はドラフトの話になるとそわそわしてきたり、足震えたり考えすぎてしまうこともあります。
今は待つことしかできないですが、どの道でも野球は続けるので指名を願いながら練習をしています」
掲げる目標は、「誰も見たことのないピッチャー」だ。
腕や体の使い方など、今までにない独自の武器を作り出し、日本を代表する投手に、そしていずれは世界を代表する投手になりたいと意気込みを語る。
「中京大中京の高橋君(宏斗)がすごいなと思ったのは、彼がプロ志望届を出したことで(球団のドラフト戦略の)すべてが変わるんだなということです。自分もそれぐらいの選手になりたいなと思ったので、高校では到底及ばない選手でしたが、プロに入ったら選手として追い越して日本を代表する投手になりたいです」
入学時の自身を、一言で言うと「天狗」。だが野球ができない期間は、心と体の成長を大きく促した。ポテンシャルはまだまだ計り知れないだけに、今後の成長にも注目だ。
取材=栗崎 祐太朗