Interview

最速153キロ右腕・伊藤優輔(都立小山台出身)が都立の星と呼ばれるようになるまで vol.1

2020.10.19

 近年では2年連続で夏の東東京大会で準優勝に輝いている都立小山台。2014年の選抜で都立高初の21世紀枠に選出されたことが記憶に新しい方も多いはずだ。

 その時、マウンドに立ち、強敵相手に堂々たる投球を見せていた伊藤優輔は社会人まで進み、野球を継続。ドラフト候補にまで成長し、2020年は遂にドラフト解禁。勝負の1年を迎えていた。

常勝軍団でプレーしながらも都立小山台を選択したわけ

最速153キロ右腕・伊藤優輔(都立小山台出身)が都立の星と呼ばれるようになるまで vol.1 | 高校野球ドットコム
伊藤優輔(都立小山台出身)

 伊藤投手に話を聞くべく、横浜市金沢区の三菱パワー野球部のグラウンドに行くと、伊藤の姿はそこにあった。取材当日はグラウンドで時折笑顔を見せながらも、ブルペンに入ると一転して真剣な眼差しで力強いボールを投げ込んでいた。その姿には迫力すら感じられた。

 幼いころから野球好きの父の影響で、東京ドームに足を運び、読売ジャイアンツの試合を生で見ることが多かった伊藤。小学3年生になると本格的に野球を始め、4年生からピッチャーとして投げるようになっていた。

 中学校へ進学すると、ピッチャーとしての実力を伸ばす。3年生の時点でストレートの最速は130キロ中盤を計測。さらにカーブやスライダー、そしてスプリットといった多彩な変化球も投げられる本格派投手にまで成長した。

 当時のことについて伊藤は、「とにかく速いボールを投げたい。自分が抑えて勝ちたい」という気持ちそのままに打者を封じ込めていき、中学の部活動と並行して所属していたクラブチーム・荒川ウェーブでは都大会優勝を経験。さらにKボールでは関東大会まで進むなど多くの経験を積んだ。

 「中学の時は楽しくやれていましたが、特に3年生の時はチームが強く、1年間で負けたのも2、3回程度。ですので、自信を持って野球をすることができていました」

 常勝軍団のエースとして活躍しただけあって、強豪私学への進学も考えられるところ。だが、選択したのは都立小山台だった。
 「当時候補になっていたのは都立城東でした。甲子園に出場した実績もありましたし、自宅からも近かったです。都立と言えば城東みたいなところもありましたが、塾か学校の先生に選択肢としてあげてもらったんです。それで城東と比べれば学力は上だったので、進学を決めました」

[page_break:毎日が試合だと思って集中したことが実を結んだ]

毎日が試合だと思って集中したことが実を結んだ

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伊藤優輔(都立小山台出身)

 こうして都立小山台の門をたたいた伊藤だが、練習環境に面を食らった。他の部活動とも共用でグラウンドを使って、練習は17時までの90分間。多くのメディアに取り上げて今では知っている人も多いだろうが、当時の伊藤はそれを知らずに入学していた。

 「知らなかったんでビックリです。中学は18時30分まで練習でしたので、知ったときはちょっと驚きでした」

 では90分の練習を有効に使うためにどんなことを大事にしていたのか。
 「まずは無駄な時間を減らすことです。あとは限られた時間の中でいかに質の高い、意味のある練習をするかです。練習メニューが決まっていたので、1つ1つの動作を丁寧にやったりしていました」

 高校野球であれば公式戦で1試合を戦うと、時間にしておおよそ2時間前後で終わる。都立小山台の練習時間もそれに近い時間しかできなかったことを利用して、90分の練習に集中力をすべて注ぎ込んで、密度を濃くした。

 ブルペンでの投げ込みを一例に挙げると、都立小山台では1つのマウンドを2人が交互に投げる形で使う。90分の決められた時間内でテンポよく投げなければならず、投げ込みの時間は短い。そこでどれだけ納得できるボールを投げられるか。そこに基準を置いて練習に打ち込むことで質を高めてきたという。

 その代わりに自宅ではしっかりと休息を取るといったメリハリを付けることで、限られた時間や場所であっても結果を残し続けることが出来た。

 また都立小山台を語るうえで外せないのは、福嶋監督自らが作成する分解写真による動作解析。伊藤はこの分解写真が修正点を見つけるのに大いに役に立ったと振り返る。
 「当時は体の開くタイミングや重心移動のタイミングをよくみていました。どうしても動画で一連の動きを見ていると、ワンポイントしか見ることが出来ません。しかし連続写真だとポイントをいくつも確認できるので、役に立ちました」

 Kボールを経験していた分、硬式球に対しての対応をスムーズにできた伊藤は、入学して僅か2週間で対外試合デビュー。「中学3年生の時の自信が活きたと思います」と怖いもの知らずに相手打者に投げ込んでいった。

 都立小山台は部員数が多く試合に出場する機会が限られてくる。伊藤は数少ないチャンスを大事に、「自分の投球をすることを意識しました」と自分らしくコントロールよりも力強いボールでアピールして1年生の夏からベンチ入りしてベスト8進出を経験。そして1年生の秋からはエースナンバーを背負う。

 秋、そして春は都大会まで勝ち上がったが、夏の東東京大会で初戦・日体荏原(現日体大荏原)に自分の押し出しが決勝点となり、先輩たちの夏を終わらせてしまうことに。伊藤にとっては忘れられない一戦となったと同時に「秋に悔しさをぶつけよう」と奮い立たせる試合となった。

 今回はここまで。次回は2年生の秋に見せた快進撃や選抜の舞台などについて迫っていきます。

取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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