直球の回転数は2600回転。ロマン溢れる151キロ左腕・佐藤宏樹(慶応大)の復活はなるか
日本の大学野球部でトップレベルの投手力を誇るのが慶應大だろう。今年、プロ志望届を提出した投手の1人・佐藤 宏樹だ。
大館鳳鳴時代は2年秋に県大会ベスト4入りするなど県内で知られた存在だったが、全国では無名。その名が知られるようになったのは1年春にベンチ入りし、1年秋、最優秀防御率を獲得する速球派左腕へ成長。回転数2600を計測する高回転のストレートは空振りが奪え、最速151キロを計測。
まだリーグ戦登板はないが、ロマン溢れる左腕として、この男の復活を待ち望んでいる野球関係者、野球ファンは数多い。そんな佐藤の歩みを追っていきたい。
1日7、8時間の面接練習の末、慶應大に合格
佐藤宏樹(慶応大)
秋田県出身の佐藤の野球人生の始まりは小学校4年生からだ。それまでは水泳を行っていたが、佐藤は通っていた桂城小学校から近く、さらに家からは野球部がグラウンドで練習している姿も見えた。
「野球は身近でしたし、自分の友だちの殆どが野球部に入っていたので、僕もやりたいと思って、入部しました」
そして中学校に入学して野球部に入部したが、2年夏まではベンチ外でずっと球拾い。2年秋までは1回もベンチに入ったことが多く、新チームになっても控えで一塁手。
「僕の1学年下の投手で良い投手でずっと控えだったんですけど、2年冬に監督が変わって、エースナンバーを任されるようになって、3年生からはよく試合に出るようになったんですけど、試合に出なかった期間というのが多かったんです」
そんな佐藤が進学したのは地元の大館鳳鳴だった。
「2011年に大館鳳鳴が21世紀枠で甲子園に出場したのがきっかけでしたね。何より家から近かったことですね。小学校、中学校、高校ともに10分ぐらいでいける距離にあったんです。県内の中でも進学校ですし、野球も勉強も頑張れると思って、一般受験をして入学することができた」
高校に入学するまでは全国にどこにでもいる中学生投手だった。そんな佐藤も大館鳳鳴入学後、非凡な才能を表していく。進学校ゆえ、練習時間は16時半~19時で全体練習は終了。佐藤は1年生の時は走り込み、投げ込みを中心に行っていたが、2年生からはアジリティのトレーニング、インナーマッスルなどトレーニングの割合を増やしていった。
このときは「自分になりたい投手像など明確な目標というものがなくて、いろんな投手のマネをして自分に合う物を探して、そして体を大きくしていく。そんな3年間でした」
それでも佐藤の球速は伸びていき、最終的に142キロまで到達。2年秋には県大会ベスト4に入り、着実に成長を見せていた。県大会の実績なども評価され、夏前には大久保前監督がグラウンドに足を運び、実際に話を聞いて、慶応大に行きたい気持ちが強くなっていた。
夏の大会では初戦敗退に終わり、大会後は土日に秋田から東京まで通い、AO入試合格のため、7時間~8時間の面接練習を行った。その努力が実り、慶応大合格。希望していた野球部入部が決まった。
慶応大は野球人生の中で最も野球について考えた4年間
佐藤宏樹(慶応大)
佐藤は1年春からベンチ入り。5試合に登板し、防御率1.93と好成績を残したが、それでも、大学野球のレベルの高さを痛感していた。
「慶應大は僕なんかよりよい選手が多く集まります。また大学野球は思い切り投げるだけで打たれますし、高校の時はコントロールが悪くても思い切り投げていければ三振も奪えて、なんとか済んでいたんですけど、大学ではそうはいかなくて、投球面、投球フォーム、体作りなど、野球部に入ってからは野球人生で一番考えるようになりました」
投球フォームは二段モーションにならないよう気をつけて思い切り投げられない時期はあったが、脚を上げる時に手と足を同時に動かす意識で投げたらうまくはまった。1年秋、佐藤はかなり良い感覚でリリースができていた。
「感覚的な話なのですが、2度リリースしている感じです。そして打者の反応を見るとまっすぐとわかっていても真正面のファールだったり、空振りを奪えていたり、そして捕手のミットを突き刺さるように投げることができる。悪いときは垂れた感じになるのですが、1年秋はそういうストレートをずっと投げることができていました」
高確率で空振りが奪えるストレートの回転数は最高で2600回転を記録。「回転数を挙げたいと思って投げたわけではなく、良い感覚でリリースしたいと思ったら、この回転数になっていました」と語るように、佐藤のストレートは140キロ台でも異次元の伸びがあった。
このシーズンは3勝0敗、26.1回を投げて42奪三振、防御率1.03と抜群の安定感を発揮し、最優秀防御率を獲得した。しかしここから怪我の連続。3年春に10.2回を投げ、最速151キロを計測したものの、左肘の状態が思わしくないが続いた。
ただこの期間で学んだこともある。
「自分の限度を知ることができましたし、体について知ることができた」
そしてうまく投げられなかった分も4年春にぶつけようと、今年はじめのアメリカ遠征、オープン戦から精力的に投げたが、左肘を痛め、まだ春、秋でも登板はない。「怪我をしないこと。規定投球回に達したい」と語っていた佐藤にとっては悔しいシーズンになっている。
潜在能力の高さについて、かつてJR東日本で監督をしていた堀井監督は田嶋大樹(佐野日大ーJR東日本ーオリックス)を引き合いに出しながらこう評価する。
「タイプは違いますが、田嶋のような切れのあるストレートを投げるのとは対象的に佐藤は威力のあるストレートを投げる印象があります」と評価する左腕の登板はあるのか。
一度だけでもいい。大学ラストシーズンでロマン溢れる投球を見せてほしい。
取材=河嶋 宗一