「プロになりたくて智辯学園を選んだ」 2021年世代屈指のスラッガー・前川右京(智辯学園)が行った高校2年間の意識改革
2021年世代を代表するスラッガーとして注目を浴びるのが前川右京(智辯学園)だ。秋季県大会まで高校通算24本塁打を放ち、この秋からさらに量産が期待される。今年以上の活躍を見せるために前川はどんな活躍を見せていきたいと考えているのか。
高校時代で気づかされた下半身の重要性
前川右京(智辯学園)
まず前川は小学校1年生冬にソフトボールから始まる。小学校に所属していたソフトボールのコーチが前川の兄・夏輝さん(津田学園-JR西日本社員)の勧誘のために自宅に訪れ、そこで自分もやりたいと訴え、入団が決まる。そして津ボーイズでは3番ピッチャーとして活躍し、まだスラッガーではなく、中距離打者だった。
3年春にボーイズの全国大会を経験し、中日本選抜、三重県選抜に選出されるなど三重県内では有名なスラッガーとして活躍した。そんな前川に数多くの強豪校からの誘いが舞い込む。兄がいる津田学園にするか、県外の学校にするか。前川は自分に甘えをなくすために津田学園の選択肢はなくした。
「兄がいる学校に進んでしまうと、兄に甘えてしまうじゃないかと思って。だから県外で厳しいところに進もうと思いました」
そして智辯学園に選んだ理由としては高卒プロに行ける確率が高いチームだと感じていたからだ。
「智辯学園さんが一番プロに行きやすくて環境も整っていると聞いたので、入学させていただきました。実際に入学してみて、環境だけではなく、指導者の方々も素晴らしい人たちで、改めて智辯学園に来てよかったと実感しています」
入学後、兄の言葉を胸に刻んだ。
「これまではずっと聞き流していたことがあったんですけど、高校に入学したあと、改めて兄が自分に教えていたことは正しかったんだなと実感しました。その中でも一番印象に残っているはチームのために打つこと。自分が打てなくてもチームが勝ったら、それでいい。
チームのためにやれば自然と結果が出てくるから、チームのために何かしようと思ってプレーをしたら結果が出るようになりました。だから兄のことはとても尊敬しています」
また長打力アップのために智辯学園の指導者から下半身の重要性を指摘された。
「体全体の使い方が中学校から全然できていなくて、そのまま入学してきたので、下半身が大事という考え方が強くなってきました」
1年春からレギュラーとして試合に出場した前川だったが、最初はなかなか実践できなかった。1年夏から甲子園出場し、甲子園でも安打を放つなど活躍を見せたが、前川自身、「打撃フォームとしては完成度が低かったです」と振り返る。
そして指導者から常に指摘されてきた下半身主導の打撃フォームを習得できたのは1年秋だった。特に近畿大会の神戸国際大附戦では二打席連続本塁打を放つなど、成長した姿を見せる。
「ずっと教わってきた下半身で打つことは改めて大事だなと思いました。打球の勢いも変わってきましたし、それが近畿大会の本塁打につながったと思います」
ドラ1候補・高橋宏斗の対決で見えた自分の課題
前川右京(智辯学園)
1年秋は県大会・近畿大会を通じて6本塁打を放ち、大きく自信をつけた前川。さらなる活躍を誓った2020年だったが、コロナにより春季大会が中止。夏の独自大会は3年生だけで臨むことになり、前川にとって今年初の公式戦が甲子園交流試合。いきなりドラフト1位が確実視されている今年の高校生ナンバーワン右腕・高橋宏斗(中京大中京)との対決になったのだ。
「世代ナンバーワン投手といわれている投手から甲子園という一番良い球場で、試合をさせていたただき、実際に今まで見たことがない投手でしたが、やはり打ってこそ4番打者だと思います」
第3打席まで無安打だったが、第4打席に中前安打を放ち、4打数1安打となった。前川は改めて課題が見えた試合となったと振り返る。
「変化球を拾って打てたのは良かったのはよかったと思います。ただ150キロというスピードボールにスイング負けをしていました。スイングの速さを出すために、体の切れや体の回転を使ってスイングすることが大事だと実感しました」
現在の前川の状態について小坂監督は「ボールは遠くへ飛ばそうという意識が強すぎて、スイング軌道が乱れている」と指摘する。それについて前川も自覚しており、打撃練習でも意識高く取り組んでいる。
「捉える確率を高めるためにボールを引き付けた状態で、軽く振る。ひきつけて打つようにして、ケースを設定して外野フライ、ヒットを打たないといけないときはヒットを打つことを心掛けてやっています」
練習中では打撃練習の間には素振りして自分のフォームを確認したり、小坂監督からも指導される様子も見える。
前川は同世代の選手についてもライバル視しており、通算本塁打もしっかりとチェックしている。その中で一番のライバルとして上げたのは高校通算36本塁打の吉野創士(昌平)だ。
「1年生の時からホームランの数(21)が一緒ですが、現在は数で負けているので、そこでホームランの数でも負けたくないです」
取材に訪れたのは9月上旬。前川は調子が上がらないと苦しんでいたが、それでも懸命に調整を続け、決勝戦では天理の達から本塁打を放ち、高校通算本塁打は28本となった。最後にこういき込んだ。
「近畿大会でも先を見ずに全力で倒して春の選抜を決めないといけないので、残された日数ですけど、自分たちの力を発揮できるように準備していきたいです」
つわもの揃いの近畿大会を勝ち抜き、2年続けて選抜出場に近づく豪打を打てるか注目をしていきたい。
(取材=河嶋 宗一)
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