Interview

梅野隆太郎以来の「打てる捕手」。福岡工大城東・誉田貴之は自己否定と戦い続けてドラフト候補に

2020.09.20

 東西で行われたプロ志望高校生合同練習会で、大きな注目を浴びた投手と言えば福岡大大濠の剛腕・山下舜平大投手の名前が挙がるが、そこでバッテリーを組んだ同じ福岡県出身の捕手も評価を上げた。

 福岡工大城東誉田貴之(ほんだ・たかゆき)選手だ。
 実戦では2安打を放って、捕手としても軽快なフットワークや強肩を披露。山下投手とバッテリーを組んだ際には、カーブを有効に使う配球で3つの三振を奪った。

 「打てる捕手」への期待が懸かる誉田選手。
 だがその成長の裏には、チームの柱としての苦心と努力があった。

成長を加速させた夏の増量計画

梅野隆太郎以来の「打てる捕手」。福岡工大城東・誉田貴之は自己否定と戦い続けてドラフト候補に | 高校野球ドットコム
福岡工大城東・誉田貴之選手

 バックネット裏の監督室から練習の様子を眺めていると、誉田選手の姿はすぐにわかった。
 一人だけ明らかに体が違う。

 178センチ・85キロの体は、大学野球のトップ選手と比較しても遜色はないだろう。

 チームの指揮を執る尾嶋恭暢監督は、誉田選手の最も印象的なエピソードに体格面の成長を挙げる。

 1年前の夏、誉田選手は2年生ながら4番・捕手としてチームを牽引する立場にあり、県大会5回戦まで進出した。
 だが大会を通して誉田選手は本来の力を発揮することなく、ベスト8を懸けた5回戦で小倉工に5対6でサヨナラ負け。

 自らの不甲斐なさだけが残り、自己否定の毎日だった。

 「夏の大会前にかなり消耗があったようで、6キロぐらい痩せたんですね。それで夏は力を出すことができていませんでした。
 そこで新チームがスタートした時に、体重を意識的に増やすよう言っていきました。

 本人もかなり意識したようで、夏と秋では体格が変わりましたね。打球の質が変わって、送球も安定してきました。秋の大会でも良いパフォーマンスができて、そこから自信がついていったのだと思います」

 このひと夏で増えた体重は何と10キロ。
 誉田選手自身も、この夏以降に自信がついてプロを意識するようになったと振り返る。

 「一日に何食も食べて、胃に常に食べ物があるような状態でした。
 体重も2年秋から一気に増えて、本格的にプロを目指したいなと思ったのもその頃からですね」

[page_break:心の成長で不動のものにした「4番・捕手」の座]

心の成長で不動のものにした「4番・捕手」の座

梅野隆太郎以来の「打てる捕手」。福岡工大城東・誉田貴之は自己否定と戦い続けてドラフト候補に | 高校野球ドットコム
福岡工大城東・誉田貴之選手

 小学校3年生から野球を始めた誉田選手は、中学時代は硬式野球チーム・筑紫エンデバーズの4番・捕手として活躍。

 進路選択の際には県外への進学も考えたが、「一緒に野球がしたい」という山本宗一前監督(現福岡工大監督)の熱意に心動かされ、福岡工大城東への進学を決めた。

 当時は部長であった尾嶋監督も、誉田選手の能力には大きな可能性を感じており、それは首脳陣の共通認識でもあった。
 細かい気配りや精神力が必要な「捕手」というポジションを任せるために、入学直後から誉田には人一倍厳しい指導を行われた。

 「入学時から、次の正捕手という思いがありました。
 プレーは問題なかったのですが、心の面や生活の面ではまだ中学生だったので、私も監督だった山本もそこはかなり厳しく指導しましたね」

 実際、首脳陣の厳しい指導は誉田選手の成長を大きく促した。
 当時のことを投げかけると、誉田選手は苦笑いを浮かべて思わず本音が出る。

 「その時は本当に野球辞めたいぐらいに思ってました。
 でもそれがなかったら今の自分はないと思ってるので。今となれば指導者の方々には本当に感謝していますね」

 1年秋から「4番・捕手」として試合に出場していた誉田選手は、出始めこそ上手くいかないことも多々あったが、徐々に変化が見え始める。
 2年生の春先には首脳陣の信頼も厚くなり、心身共に福岡工大城東の「4番・捕手」に相応しくなってきた。

 「変わらなくちゃいけないと思い、変わっていったのだと思います。
 将来、誉田が『4番・捕手』キャッチャーでやらないといけないと、山本(前監督)も常々言っていました。その期待に応えようと、本人も頑張ったのだと思います」

地元球団のあの強肩捕手はフットワークやキャッチングもすごい

 8月13日にプロ志望届を提出した誉田選手は、8月29日から甲子園球場で行われたプロ志望高校生合同練習会に参加した。
 本格的にプロを意識し始めたのは2年生の秋からであるが、夢としては幼いころから思い描いていた。

 プロ志望高校生合同練習会を終えて、誉田選手は改めてプロ入りへの思いが強くなったと話す。

 「全国の選手たちと甲子園でプレーしたことで、やっぱりすごく刺激になりました。
 不安ももちろんありますが、プロになるために1日1日を大切にしてやってきたつもりなので、楽しみでもありますね」

 現在は、上のレベルについていくため、さらなる守備力の向上を課題に練習に取り組んでおり、Youtubeでもプロ技術を参考にしている。

 特に地元球団の正捕手・甲斐拓也選手(福岡ソフトバンクホークス)のプレーは最高の教材となっており、守備における様々なプレーを学んでいるという。

 「肩の強さも凄いですが、甲斐選手はフットワークやキャッチングもすごいです。そういった所をよく見ていますね」

 上のステージでも、目指すのは打てる捕手だ。
 福岡工大城東からは、梅野隆太郎選手が阪神タイガースで活躍中で当然誉田選手にも期待が懸かる。

 果たして、偉大な先輩に続くことはできるか。10月26日が今から待ちきれない。

(取材=栗崎 祐太朗

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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