Interview

【前編】歳内 宏明(香川オリーブガイナーズ~東京ヤクルトスワローズ)四国・香川で積んだ「自己探求と向上の日々」

2020.09.13

 2020年・四国アイランドリーグplusはあの藤川 球児(MLBテキサス・レンジャーズから高知ファイティングドッグスを経て阪神タイガース復帰)以来、5年ぶりに「NPB復帰へのハブ空港」役を務めた。

 では今年、四国に降り立った男とは……。藤川 球児からも薫陶を受けた歳内 宏明投手。聖光学院(福島)では絶対的エースとして2年連続夏の甲子園出場で通算3勝。侍ジャパンU‐18代表にも名を連ね、2011年ドラフト2位で入団した阪神タイガースでは中継ぎを中心に8年間で一軍57試合に登板も、2019年限りで虎を離れてからは台湾ウィンターリーグを経て四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズで再起を期してきた。

 そして今年、四国の地で先発の軸として9試合に登板し64回を投げ5勝0敗・74奪三振・防御率0.42と圧倒的な数字を残しNPB復帰を果たした歳内投手。9月2日・東京ヤクルトスワローズ入団が正式発表される直前に、話を聴いた。

 前編では香川オリーブガイナーズ入団の経緯と、先発転向によって加えたもの、戻ったもの、上がったものについて語ってもらった。

先発転向で手にした「スライダー」

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歳内 宏明(香川オリーブガイナーズ~東京ヤクルトスワローズ)

――今季、四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズに入団した歳内 宏明投手ですが、入団に際する流れはどのようなものだったのでしょうか?

歳内 台湾でのウィンターリーグは昨年11月から途中「12球団合同トライアウト」を挟んで参加。その間に香川オリーブガイナーズ(以下、香川)からオファーを頂きました。

 香川は松中 信彦さん(元福岡ソフトバンクホークス)がGM兼総監督として就任されたことは聞いていましたし、阪神タイガース(以下、阪神)時代に2軍のキャンプが高知でしたし、そこで四国アイランドリーグplus選抜とか高知ファイティングドッグスとオープン戦をしていたことで自分でも認識は持っていました。

 もちろん他の独立リーグチームとも対戦経験はありましたが「四国アイランドリーグplusはレベルが高い」というイメージがあった。NPBに戻ることを目標にする上では僕も高いレベルでやりたかったし、かつ地元の関西からも近かったので、オファー頂いたチームの中でそうした経緯で決めました。

――阪神には四国アイランドリーグplusを経験している福永(春吾・徳島インディゴソックスから2016年ドラフト6位)投手や藤川球児さんもいますが、四国アイランドリーグplusの状況は聞きましたか?

歳内 香川に決まった12月になってから、福永には連絡とりましたが、少し聞くくらいでした。グラウンドの感じや移動とか。「NPBではビジターの試合だと泊まりが多いですが、そういったことがないよ」とかいう話は聞きました、

――今年2月、実際にシーズンに入ったときの印象は?

歳内 一番最初に驚いたのは「キャンプが泊まりではない」。2月から始まっても、キャンプは自宅から通っていることに驚きました。あとは、どこに行こうとやることは同じですので。それくらいですかね。

――合同トレーニング期間から歳内投手は調整を任されていた部分が多かったですが、どういった点をポイントに調整を進めていきましたか?

歳内 当初は3月開幕予定でしたが、入団後に松中さんと話して「先発でいこう」ということで、開幕戦に投げる調整をお願いされていました。ただ、僕は阪神ではほぼ先発での調整がなかったですし、先発として投げる技術も当時はなかったので、自分の中では技術を磨く意味合いを強く持って調整していました。オープン戦期間中も色々試しながら進めていた感じです。

――その中で「スライダー」という選択肢が出たんですね?

歳内 中継ぎの時はストレートで押してカウントを稼いで、ストレートかフォーク(注:世間で言われる『スプリット』を歳内投手は『フォーク』と称しています)で決めるスタイルでした。当時はイニング数も1回なんで勢いで行けましたが、長いイニング投げる上では他の球種も投げないといけない。

 最初はカーブも投げましたが、やはりフォークと2種類では先発はきついと思っていた中「何がいいか」と考えました。フォークは落とす系なので、スライドするシュートかスライダー。

 実は阪神時代も練習とか試合でシュートやスライダーは何回か投げていたのですが、短いイニングで苦手な球種を投げるよりはと思っていたので、1年間で何回投げるかくらいだったんです。今年は打者の反応を見たり感覚もつか上で、オープン戦でスライダーをいろんな投げ方や握りを試して、開幕して少ししたらある程度固まってきました。今では試合で投げてもいいくらいレベルになりました。

――そう考えると、シーズン開幕が伸びたことでプラスの部分もあったのですか?

歳内 プラスもありましたし、マイナスもありました。ただ時間はみんな平等。マイナスになった選手も多いと思いますし、怪我をしていた選手はプラス。その期間をいかに過ごすかが差になると思います。

 僕について言えばトレーニングはある程度、その期間だから変えたことはないですが、新しい球種を覚えるのにコロナ期間に実戦はできましたが、明けてから開幕までの紅白戦で試せたので、当初の開幕よりは伸びたので。まだプロのレベルで良いスライダーかと言われたらまだですが、そこに至る「端っこ」はつかめたかなと思います。

[page_break:「戻った」球質「上がった」コントロール]

「戻った」球質「上がった」コントロール

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歳内 宏明(香川オリーブガイナーズ~東京ヤクルトスワローズ)

――シーズンが始まるとスライダーばかりでなく、全体の球質や速度が上がりました。

歳内 僕の感覚では「上がった」というよりも「戻った」感じです。そこもそうですが、一番はコントロールが良くなった。短いイニングを投げる時は意識的には細かなコントロールより「力でねじ伏せてやろう。ある程度ストライクゾーンで勝負して甘くてもファールにしよう」と考えましたが、先発だとそれでは厳しいので「力を抑えてもコントロールを大事にしてやっていかないといけない」と考えていました。

 

――その意識は聖光学院時代にもなかったものですか?

歳内 高校時代は今ほどコントロールを気にしたことなかったですし、ストレートとフォークだけでやっていて。今のようにここまで配球を考えることも、二種類だったので、カーブやスライダーやコース、高さ。フォークの使い方もストライクゾーンに投げたりとか考えてこなかった。初めてに近い感覚です。

 それがキャンプ、オープン戦で徐々に出来るようになって。リーグ戦も最初の3試合まではペース配分や力の抜き方も良くなくて、ストレートの球速も最初は142キロ・143キロでしたが、抜きながらコントロール意識しながらでも球速が戻ってきたので、開幕に比べると3~4キロ速くなって145キロを平均でも投げられるようになりました。
 ただプロの1軍のローテーション、エース格を見ると球速や変化球の精度も全然足りていないので、まだ成長できると思います。

――当然、制球の中でフォークをどこに落とすとかも考えたわけですね。

歳内 はい。一番意識したのはどこから落とすかです。高校の打者はスイングが遅いので、落差が大きければ空振りを取れたので落差を作ることを意識して投げていたんですが、プロだと大きく落ちるから見逃されるので、今はストレートに近いフォークを投げられるか意識して投げるようにしています。

――その積み重ねが、四国アイランドリーグplusでほとんど点を取られていない(64回で失点4・自責点3)につながっているんだと思いますが、実感はどうでしょうか?

歳内 自分の取り組んできたことができた時は空振りが取れます。ただ、それができない時はヒットにこそならないですが、空振りを狙ってセカンドゴロともありました。同じ球種で同じ球速帯で、大体同じところに投げても空振りをとれるのと当てられる差ができる。当然、打者の違いもありますが、そこの部分の課題を感じることができた。いい収穫になりました。

――すなわち相手打者を見て、リーグ戦の中でもNPBの舞台をイメージして投げていた。

歳内 マウンドで投げている時はそこまで意識はしていないですが、投げ終わってからはすぐに各球団で配信しているYoutubeとかを1試合通じて見返して「どんな気持ちで投げたのか」とか「あの時はどんなボールがいっていたか」を見直し思い出しながら「甘かったかな」とか「NPBクラスの中軸は見逃すな。打たれるな」と振り返っていました。

 今振り返ると、NPBの時は今ほど考える余裕がなかったと思いますね。

――0を並べていくうちに「歳内無双」という言葉も高校野球ドットコム編集部から出始めましたが……。本人はどう感じていたんですか?

歳内 自分の中では60イニング程度でシーズン半分の成績なので全然です。野手にも助けてもらいましたし、良い当たりが野手の正面をつくこともありました。誰しもできる可能性があったと思うので、正直やめてほしいなと(苦笑)

 前編はここまで。後編では四国アイランドリーグplusの印象と東京ヤクルトスワローズ入団への意気込みなどを語って頂きます。お楽しみに!

(取材=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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