Interview

高校通算47本塁打の渡邉翔大(昌平)は確かな打撃理論を持ったスラッガーだ

2020.08.21

 8月8日より各地区で開催した埼玉県の独自大会もいよいよ大詰めを迎えている。22日よりベスト4まで勝ち残ったチームによる準決勝がメットライフドームで繰り広げられる。そこには東部地区で優勝を果たした昌平もいるが、その中でも4番として一際輝き放つスラッガーが渡邉翔大だ。

 高校通算47本塁打をマークし、今大会でも2本のホームランを放っている。また5試合で打率.375、さらに7打点とOPSは1.382とチームトップの数字を残しており、4番に恥じない成績でチームを牽引している。準決勝以降も活躍が期待される渡邉は冬場、自粛期間をどのように過ごしてきたのか。

手ごたえをつかんだ秋。そして新たな挑戦となった春

高校通算47本塁打の渡邉翔大(昌平)は確かな打撃理論を持ったスラッガーだ | 高校野球ドットコム
渡邉翔大(昌平)

 昨秋は準々決勝・西武台に敗れた昌平。その秋を通じて「しっかり振れていてもタイミングが合わず、ボールが捉えられなかった」と改めて課題について語る渡邉。スイングに力強さが出てきたが、タイミングが合わないが故に、ジャストミートが出来ない。

 その結果、「ヒットは出ていましたが、もっと打てる打席があったと思います」と秋までの自身のバッティングを振り返った。この課題を克服するために、渡邉はすり足で「の」の字を描くような形でタイミングを測るようにフォームを変えた。

 このフォームで残された練習試合を戦い抜き、渡邉の中では「の」の字でタイミングを取ることは「良かったですね」と確かな手ごたえを感じていた。

 そしてオフシーズン。渡邉にとって最後の冬となるが、「前から来るボールを打てませんので、パワーアップとスイングスピードアップを考えていました」とひたすらバットを振り続けた。すると次第に逆方向への打球の飛距離が伸びてきたことを渡邉も実感していた。

 「あとは確率だけだと思いました」と渡邉。秋の大会終了後から試してきた「の」の字でのタイミングをいかに取れるか。春先の成長に期待をしたところに、練習自粛という厳しい現実がやってきた。

 ただ、渡邉は幸いにも自宅でティーバッティングが出来る環境が整っていた。
 「ボールを打っていれば感覚は鈍らないと思ったので、練習をしていました」

 渡邊の中では「ティーバッティングはフリーバッティングで感じたこと。思ったことや課題を修正する練習です」と考えていたが、感覚を忘れないために1日の本数はバラバラだが、多い時には500球打つようにしてきた。

 こうしてチームが6月に入って練習を再開し始めたことで、ようやく前から来るボールを打てるようになったが、渡邉の中で変化が生じていた。
 「前から来るボールの見え方や感覚が違ったんです」

 久々に見た前から来るボールの感覚が渡邉の中で変わっていた。元々、フォームが変わりやすい渡邊であったが、この感覚の変化によってこれまではまっていたと思われた「の」の字でタイミングを測ることをやめた。

[page_break:考え抜いた先に見つけたフルスイングを武器にメットライフにもアーチを描く!]

考え抜いた先に見つけたフルスイングを武器にメットライフにもアーチを描く!

高校通算47本塁打の渡邉翔大(昌平)は確かな打撃理論を持ったスラッガーだ | 高校野球ドットコム
渡邉翔大(昌平)

 その代わりに、「1本足で立っている時間を短くするようにしました」と相手投手の踏み出す足が着地するタイミングで、自分の右足を小さく上げるイメージでタイミングを取るようなフォームに変更した。

 これで少しずつタイミングがあって来ていたものの、もう1つ課題があった。それはバットの軌道だった。
 「1年生の夏の時にも意識をしていたことですが、捉えたと思った打球がファールになることが自粛明けの試合で続いていたんです。自分の中でも『何でだろう』と思っていたんですけど、そこで黒坂監督から指導を受けたんです」

 この改善のためにカギになったのは親指の向きだ。
 「左腕であればおへそのところに腕を持ってくるんですが、その時に親指を上に向けてあげるんです。右腕も同じく親指を上に向けるつもりで抜かないように使ってあげる。ボールにミートするまでの意識ですが、こうすることでヘッドが立って打球が後ろには飛ばなくなりました」

 「元々、考えるのが好きなんです」と自負する渡邊の考え方の引き出しの多さ。探求心には驚かされてばかりだが、これがマイナスに働くこともあったそうだ。
 「自分はどこが悪いのか考えるのは良いんですが、ポジティブに捉えることが出来ていなかったんです」

 しかし「考えることが悪くない。考えることは武器になる」と指導者からの助言をもらい、自分の長所を前向きに捉えながら練習により一層打ち込んでいった渡邊。だからこそ、打撃フォームの変更を余儀なくされた自粛期間は、「考える時間ができましたし、引き出しが増えました」とマイナスどころかプラスに捉えていた。

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渡邉翔大(昌平)

 1年生の春から試合に出場してきた渡邊にとって昌平での3年間は、「自分にハマるスイングを探し続けて、一番良いフォームとタイミングの取り方を探し続けてきたと思います」と振り返る。試行錯誤を重ね続けてきたが、渡邊が行きついたのがフルスイングをすることだった。

 「引き出しを増やすためにプロ選手のフォームなどを見ることもありますが、やはり自分のスイングを極めていると思うんです。だから真似をしても最終的には自分の感覚や形にしないといけないと気づいたんです。
 そこで自分は全力でスイングできるようにするにはどうすればいいのか。おへそに左腕を持ってくることなどは意識しながらですが、悩んでコロコロフォームを変えるよりも、気持ちよくフルスイングが出来るようにやった方が、ミート率も良いですし、気持ちも上がってくる。良いことばかりです」

 フォームをなかなか固めきれずに考え続けたからからこそ、渡邊が気づいた答えだ。そのフルスイングを持ち味に戦う独自大会も多くても2試合のみとなった。「優勝して楽しく、気持ちよく終わりたいです」と渡邉は最後にコメントを残した。

 また、高校通算50本塁打に乗せたいと語っていた渡邉。そんな渡邉を指導してきた黒坂監督は、「力があるだけに力んでしまうこともありました。ですが、チームの勝利のために何が必要なのか伝え続けてきて、ランナーを返すバッティングも出来るようになってきました」と3年間の成長を語る。

 準決勝の相手は強豪・浦和学院。3年間の集大成の成果を見せるにはこれ以上ない相手だ。渡邉の一打がチームの決勝進出、さらには優勝に導くことに繋がるのか。渡邉のフルスイングから目が離せない。

(取材=田中 裕毅)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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