Interview

古豪復活を誓う磐城に現れたクレバー型エース・沖政宗を変えた関西遠征【前編】

2020.06.26

 8月に開催される交流試合。中京大中京大阪桐蔭といった私学の強豪校に注目が集まるが、21世紀枠の戦いぶりも見逃せない。43年ぶりの甲子園出場を決めていた磐城沖政宗にも注目だ。滑らかな投球フォームから繰り出す最速141キロのストレート、6種類の変化球を操り、昨秋は9試合を投げて、防御率0.90と抜群の好成績を残した。

 全国的に見ても好投手に入るだろう。研究心豊かな右腕の軌跡に迫る。

故障続きだった小、中学校の経験を乗り越えて大エースの土台を築いた体作り

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沖政宗(磐城)

 小学校3年生(いわき市立平第三小)から野球を始め、そのまま地元の小名浜少年野球教室に入団する。このチームには後に山梨学院の正遊撃手で活躍する小吹 悠人がいた。小吹は小学校6年になると、全国レベルのエースへ成長。沖は小吹とバッテリーを組み、正捕手となり、キャプテンに就任した。そして同時期に東北楽天ジュニアのセレクションに合格し、2014年のジュニアトーナメントに出場。そこでプレーできたことは大きな経験だった。

 「まず小吹はストレートはとんでもなく速く、なかなか当たらない投手でしたし、他でも各地域の代表選手ともいっていい選手が参加していたので、そういう選手たちとプレーできたことは良い刺激となりました」

 いわき市立第三中学校では、中学の野球部に所属せず、いわきシニアに所属する。そこでは捕手ではなく、主に遊撃手としてプレー。進学先は私学も考えたが、ふとしたきっかけで地元の磐城高校のプレーに目を奪われる。
 「実は磐城高校の選手や県立校の選手についてはあまり知らなったんです。どうしても知るのは強豪校の選手たちでした。それでも公立校の方々が有名校のチームに死にものぐるいでぶつかっている姿に感動を受けたんです」

 磐城の戦いぶりに感銘を受けた沖は、野球だけではなく、勉強も両立したい考えがあり、まさにドンピシャの条件に当てはまった磐城高校を受験し、合格。入学が決まった。

 2年秋からエースとして活躍した沖だが、それまで怪我との戦いだった。小中学校で肘の剥離骨折を繰り返し、高校でもアピールしたいがためにがむしゃらに投げて、故障をしていた。

 故障に強い投手にしようとサポートしてくれたのが木村保前監督をはじめとしたスタッフ陣だった。食事のバランスに気を遣い、色々なメニューを食べることを工夫した。その結果、ただ身体が多くなったことだけではなく、重大な故障を負うこともなくなった。

 また、木村前監督からも状態を配慮してもらいながら、登板を重ねた。
 「怪我を考慮しながら使っていただき、保先生にはとても感謝しています」と段階的な調整によって、投手としての素質を伸ばすことができた。

 体作りにもトレーニングにも力を入れ、「1年生の冬は誰よりも走った記憶があります」と中学時代よりも充実してトレーニングを積むことができた。

[page_break:智辯学園戦の経験が投球スタイルを変えた]

智辯学園戦の経験が投球スタイルを変えた

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沖政宗(磐城)

 2年秋には公式戦9試合登板し、5完投。計画的な体作りが実り、名門校のエースとして立派に成長していた。

 公式戦で活躍できたのは、もう1つの理由がある。肉体的な強化だけではなく、投球の意識改革もあった。きっかけとなったのは2年春の関西遠征のことである。磐城高校は甲子園見学も兼ねて関西の強豪校と練習試合を行っていた。

 昨夏の甲子園出場を果たした智辯学園と対戦。この試合に登板した沖は、自慢の速球と横のスライダーを自信を持って投げ込んだが、滅多打ちにあった。「自分の投球スタイルを改めて見直さないといけない」と感じるぐらいショックを受けた。だが、今後、自分が生きるべき投球スタイルも見えた試合だった。
 「めった打ちの後、球速を落として低めを徹底的に投げたんです。そうしたら打ち取ることができるようになって、改めて自分はコントロール重視ではないと高いレベルで勝負できないんだなと痛感しました」

 投手にとってコントロールが重要なのは誰も理解しているが、きっかけがなければ、それに向けて動き出すことができない。沖の場合、智辯学園戦でめった打ちされた経験がコントロールの重要性を学び直すことができた。

 そのために投球の引き出しを増やすべく、変化球の球種を増やした。

 現在は縦横のスライダー、カーブ、チェンジアップ、スプリット、シュートと6球種の変化球を投げる。
 「自分は色々試すのが好きなので、その中で良いと思ったものを取り入れて取捨選択をして、変化球を磨いてきました」と語るが、これほどの球種を操って、投球を構成できる器用さが沖の強みだといえるだろう。

 センバツに導くほどの快投を魅せた2年秋の大会に入るまで沖は悔しい経験や、怪我を乗り越えていた。

 では秋季大会でどんな胸中で戦っていたのか。その投球に対する考えを聞くと、意識の高さが伝わってきた。それについて後編のインタビューで紹介をしていきたい。

(記事=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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