Interview

高校野球界から中学アカデミーへ転身を遂げた知将・島田 達二氏(元高知高監督)が提示する育成案

2020.05.23

 野球を超え、スポーツの価値を高める旅へ 東京ヴェルディ・バンバータアカデミー統括ヘッドコーチ 島田 達二氏(元高知高監督・侍ジャパンU-18代表コーチ)独占インタビュー

 2020年5月22日(金)、驚愕のプレスリリースが「読売クラブ」からの流れをくむサッカー界の超名門・東京ヴェルディからなされた。リリース名は「ベースボールチームアカデミー統括ヘッドコーチに島田達二氏就任のお知らせ」である。

 その内容は2018年よりビーチサッカー・バレーボール・フットサル・トライアスロンなど様々なスポーツクラブを運営する一般社団法人・東京ヴェルディクラブの一員として2018年に業務提携を結んだ軟式野球チーム「東京ヴェルディ・バンバータ」が運営する学童軟式野球チーム「東京ヴェルディ・バンバータJr」に加え、軟式・硬式の2チームを今年から開設するアカデミーカテゴリーを島田氏が統括するというものだ。

 では、過去に高知(高知)部長、高知中監督を歴任し、2004年12月から2018年7月までは高知(高知)監督として和田 恋(東北楽天ゴールデンイーグルス)、公文 克彦(北海道日本ハムファイターズ)、木下 拓哉(中日ドラゴンズ)らのプロ野球選手を輩出。さらに2006年・明治神宮大会優勝。2013年センバツベスト4。

 2013・2015・2019年と侍ジャパンU-18代表コーチも務めた知将は、新たな道で何を探ろうとしているのか?高知時代から氏を長らく取材する寺下 友徳が、正式契約のため南国高知を後にする直前の島田氏から独占電話インタビューで聴いた。

「スポーツをする意味や価値」を見出すために

高校野球界から中学アカデミーへ転身を遂げた知将・島田 達二氏(元高知高監督)が提示する育成案 | 高校野球ドットコム
東京ヴェルディ・バンバータアカデミー統括ヘッドコーチに就任した島田達二氏

――実は今年3月末で高知を退職されていた島田コーチ。高校野球・四国野球界にとって衝撃の東京ヴェルディ・バンバータ入りになりますが、その経緯についてまず教えてください。

島田 達二 東京ヴェルディ・バンバータアカデミー統括ヘッドコーチ(以下:島田コーチ  まずは野球界だけでなく、スポーツをする子どもたちの人口が減少していく中で、トップアスリートを目指すだけでなく、野球だけでないスポーツをすることの意味や価値を見出してあげること。そうすればスポーツをする子どもたちも増えていくし、スポーツ人口も増えていく。2018年の夏に高知高校の監督を退き、高知県で子どもたちと関わる活動もしていくうちに、僕の中でそういった方向性が見えてきたんです。監督を退いたことによってこれまでの自分の視野の狭さにも気付きました。

 そういった意味で東京ヴェルディさんは野球やサッカーなどで子どもたちを取り合うのではなく「どんなスポーツをやってもいい」という考え方。その中でうまい子は上を目指すし、それ以外でも様々な選択肢をもってやろうとしている部分に魅力を感じました。
 そんなこともあって、最初は僕の方からクラブに逆オファーをかけました。

――今年からU-15年代で軟式・硬式の2チームをスタートさせた東京ヴェルディ・バンバータさんの取り組みは私も興味深く拝見していましたが、それはますます衝撃の出来事ですね。正直、東京ヴェルディ・バンバータ側の反応はどうでしたか?

島田コーチ 最初、向こうはこう思っていたと思います。「監督辞めてここに逆オファーしてきたということは、なんか(不祥事を)起こしたんちゃうんか?」って(笑)。普通はそうなりますよね。いきなりメールして、その内容が「元:侍ジャパンU-18代表コーチ」ですから。実際は不祥事も何もないんですけど(笑)

――そうですね(笑)。そのような経緯を経て東京ヴェルディとお話をされた際の率直な感想は?

島田コーチ 東京ヴェルディさんの環境は自分が当初想像していたよりはるかに上でした。高校野球の指導者として勝利を目指すと同時に取り組んできた育成の部分、人間形成についても、ヴェルディさんはうまくなくてもスポーツの価値を伝えていました。1つ例をあげれば「もし野球がダメでもサッカーをしていこう」というような、いろんな可能性の中で子どもたちのことを教えていけそうな状況がある。そこがおもしろいと感じました。

――その意味では軟式・硬式の両方でU-15チームを有している東京ヴェルディ・バンバータは、高知中で軟式・高知高で硬式を指導された島田コーチが引き出しを発揮できる環境だと思います。

島田コーチ そうですね。硬式と軟式を両方指導した経験がある指導者はそんなに多くはないので、がんばりたいですね。

[page_break:「社会に対応し活躍できる」人物を柔軟性を持って育てたい]

「社会に対応し活躍できる」人物を柔軟性を持って育てたい

高校野球界から中学アカデミーへ転身を遂げた知将・島田 達二氏(元高知高監督)が提示する育成案 | 高校野球ドットコム
2013年には高知高校の監督として和田恋(巨人)を輩出した

――実際に選手たちと顔を合わせてみないと、という部分もあるでしょうが東京ヴェルディ・バンバータでこういう育成をしたいという想いはありますか?

島田コーチ 漠然とした言い方になりますが「社会に通用する人間」を育てたいです。これからの世の中はこれまでとは大きく変わってくる。特に現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、今まで以上に人と人との付き合い方などが難しくなってくる。以前以上に自主性や指示を待つのではなく、自分から動けるようにならないと。社会が変わってくれば、求められるものも変わってくるわけですから。

 その一方で「人間性がちゃんとする」などの根っこの部分は変えたくない。社会に出て活躍できる、1人の人間として働ける人物を育てる。その先に人がいる以上AIやコンピューターでは出せない人間力を育てていく……、もっと言えば選手たちと一緒になって探っていきたいです。

 だって、自分だってはっきり言えば迷ってますから。今までは野球界を中心にして生きてきたわけですが、監督を長く続けていると、侍ジャパンU-18代表コーチなどを通じて様々な方と交流させて頂いても、知らず知らずのうちにインプット量が少なくなってしまっていたんです。野球界から離れた生活をしているうちに自分自身の勉強不足・力不足を痛切に感じたので、自分自身も成長したい想いは強く感じています。

――高知高校監督時代の島田コーチは固定概念にこだわらず、可能性を広げていく選手育成も特長でした。たとえば木下 拓哉(中日ドラゴンズ)は高校で投手から捕手に転向。和田 恋(東北楽天ゴールデンイーグルス)も高校で様々なポジションを経験させていましたよね?

島田コーチ 育成を行う上で「自分の感覚」は大事にしています。考え方に柔軟性を持っていないとダメだと思っているので。そういった育成をしていくことで選手自身が変わっていくこともあると思います。

 ただ、そういった柔軟性のある指導を自信をもってやっていくためには、常に勉強していないといけない。木下や和田の事で言えば、彼らの練習を日々見ていく中で思いつきでなく「こうした方がいいんじゃないか?」という考えを持ってアドバイスしてきた面があるんです。

 とはいえ、プロ野球(NPB)に行く選手は木下にしても和田にしても公文(克彦・北海道日本ハムファイターズ)にしても二神 (一人・現:阪神タイガース広報)にしても「僕が教えた選手」ではなく「勝手に行った選手」と僕は思っています。言ってしまえばプロ野球選手になったのは1学年30名として13年で390人の選手と接した中での1%くらい。あとの99%は異なる道。社会人になるために必要な面を育てないといけないと思っていました。

 ですから、その柱は東京ヴェルディ・バンバータのアカデミーでも変わらない。プロ野球選手になる選手は最終的にはプロ野球選手になりますから、むしろそうならない子どもたちをいかに鍛えていけるかが大事だと思っています。

――それでは最後に今回はじめて「プロコーチ」として契約する島田コーチから、改めて中学球児、高校球児、そして旅立つ四国に対してのメッセージをお願いします。

島田コーチ 僕は今回、東京ヴェルディ・バンバータさんで勝負をさせて頂きますが、アプローチが違うだけで野球界・スポーツ界の人材を育成し広げていきたいことや、スポーツをすることの意味や価値を求めていくことは皆さんと同じ想い。大きく世の中が変わろうとしている中、これからは自分自身が四国でお世話になったことをベースにジャンプアップいきたいです。

 そして中学球児、高校球児も、野球がなかなかできない今だからこそ「スポーツをする意味・価値」をもう一度考えてほしいし、その素晴らしさを伝えてほしいです。自分もその部分をもっと追究していきたい。自分自身も楽しみにしています。

島田コーチ、ありがとうございました。

(記事=寺下友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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