進学志望から一転。明石商の名捕手・水上桂(東北楽天)の野球人生を変えた日本代表の経験【後編】
2019年、二季連続甲子園ベスト4入りの明石商。全国6勝を導いたのは、正捕手の水上桂だ。2番打者として長打と粘り打ちを兼備した嫌らしい打撃で存在感を示し、そして1.9秒台の正確なスローイング、相手打者の弱点を徹底的についたインサイドワークなど捕手としての力量は高く評価され、侍ジャパンU18代表にも選出され、ワールドカップでは本塁打も放ち、評価を大きく上げた。
後編では甲子園、国際大会の活躍を振り返っていただき、そして最後にプロ入りへの思い、目標を聞いた。
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明石商を二季連続甲子園ベスト4に導いた水上桂が名捕手になるまで
同級生投手の存在によりリード面でも成長
水上桂のマスク姿
そして迎えた3年春の選抜では国士舘、大分、智辯和歌山を破り、同校初のベスト4進出。エースの中森俊介の持ち味をしっかりと引き出す好リードが光った。
「まず2年生の夏で初戦で負けてしまったので、初戦に勝って校歌を歌いたかったので、その目標も達成できましたし、そして2016年のセンバツで吉高壮さん(日体大)がいた時のセンバツベスト8を超えようとチームのみんなで話していたので、それを乗り越えることができてうれしかったです」
また、センバツで収穫になったことと課題になったことも明確になった。
「捕手をしていると、試合になった喜びが人一倍です。自分が出した配球で抑えられると、喜びが大きくなるので、それが捕手をやっているうえで、一番の楽しみです。ただ準決勝で東邦に負けた試合を振り返ると、送球ミスで負けてしまったのは自分の反省点でした」
捕手としてのスキルを磨くためにプロ野球選手の動画を見ながらキャッチング、スローイングを磨く日々。また選抜以降、中森が不調の間、左サイドの杉戸理斗など多くの投手が成長。
特に急成長を見せた杉戸の存在は水上の捕手として能力を大きく伸ばす上で欠かせなかった。
「中森の場合、ストレートに力がある投手なので、力で押せばある程度抑えられるんですけど、杉戸の場合、ストレートだけで押してしまうと、打たれてしまうので、コーナーを突いたりしていろいろと考えながら抑えることができました。杉戸のおかげで勝てた試合は多くありました」
そういう中、甲子園に出場。そして甲子園初戦の花咲徳栄戦では甲子園初ホームランを放つ。「人生で一番の当たりでしたね」と笑顔で見せた水上。本塁打の要因について2番打者の立場だからこそ出たものだと語る。
「自分は来田(涼斗)の次を打つのですが、どうしてもみんな来田をマークするので、どうしてもマークが甘くなるので、そこを狙っています。あの本塁打の場面は来田が二塁打を打ったので、返したいと思っていたので、長打を狙っていた場面でした。ただあの本塁打は風も上手く乗ってくれたと思います」
その後、二季連続でベスト4まで勝ち上がったが、履正社に敗れ、準決勝敗退となった。
「あの試合は、中森がよく投げてくれたんですけど、僕たち3年生が守備で助けられなかったことに申し訳なく思います」と悔やんだ。
大きな刺激を受け、人生を変えたU-18代表選手の経験
U18に選出されたときの水上桂
その後、U-18代表入りが決定。水上にとっては驚きの選出だった。
「大会中に一次候補に選ばれていると聞いていたんですけど、ないと思っていたので驚きました。自分の実力で入れると思っていなかったので、選ばれたときはとてもうれしかったですけど、自分の実力は足りないと思っていました」
それでも水上は首脳陣の信頼をつかみ、正捕手として試合に出場した。
「永田監督に捕手としての姿勢と投手を引っ張る姿勢を評価してもらったので、そこをアピールできるようにしました。会話をほとんど交わしたことがない投手がほとんどでしたので、試合前は会話 会話とコミュニケーションをとることを意識していました」
そうした中で、一次ラウンドのパナマ戦で本塁打を放つ。この本塁打にベンチから祝福を受けた。この本塁打はアメリカ戦で味わった屈辱が生んだものだった。
「前の試合のアメリカ戦で、前の打者が敬遠されて自分が打てず、勝ったんですけど、とても悔しくて、泣いてしまったです。悔しい思いが強かったのでああいう形が出てほっとしましたし、うれしかったです。」
この世界大会は水上の野球人生を大きく変えるものとなる。もともと進学志望だったが、進路一転。プロ志望を決意する。
「もともと高卒プロは考えていなくて、大学に進学しようと思ったのですが、いろいろ代表選手の話を聞いて、また代表選手の多くがプロにいきたいと聞いて、自分と挑戦してみたいと思いました」
もちろん狭間監督は大反対だった。それでも水上はプロ入りへ向けてこう訴えた。
「大学にいったほうがいいといわれたのですが、プロ野球選手は小さい頃からの夢だったので、失敗しても後悔ないと思って伝えました。そういうことをずっといっていたら、狭間監督から『僕の人生なので、できるところまで挑戦しろ』といわれたです」
最後に笑顔でポーズを取る水上桂
プロ志望届けを提出した水上だったが、狭間監督と話し合って育成枠ではいかないと決めた。直前のプロ志望で誰しも不安があった。その中でも一番不安だったのは水上だったが、ドラフト当日は祈る思いで、テレビを見ていた。なかなか指名されず、早くも選択終了した球団が出てくると、「指名されないかも」ととても緊張したが、
東北楽天ゴールデンイーグルス 7位 水上桂 明石商 捕手
と表示されると、周りの3年生は歓喜して水上の指名を祝福した。その後、仮契約を結び、入団会見に臨んでから、だんだんプロ野球選手になった実感がわいてきた。
今度はプロの舞台。高校だけではなく、大学、社会人の精鋭がプロの世界に飛び込むことに危機感を抱きながらも、「凄い選手の集まりだと思っているので今では負けている同学年の捕手には負けたくないというのは思います」と対抗心を見せる。
プロ入りして自分の武器になるのは明石商の3年間で培った観察力、丈夫な肉体だった。
「体の力の強さには自信があるので、小さくて活躍できる選手を目指していきたいと思います。この3年間で観察力がだいぶ身につけたと思うので、次のステージでも生かしていきたいと思います」
1つずつ積み上げをしていきながら、高校生を代表する捕手へ成長した水上。明石商ほどデータ分析をするチームはなかなかない。そこで正捕手として多くの勝利を導いた経験は大きな強みとなるだろう。
「遠い話になるかもしれませんが、球界を代表する捕手になりたい」と意気込む水上。スーパーな能力がある捕手が必ずしも名捕手になるわけではない。首脳陣や投手陣の信頼を得られる能力と人間性、1年間通して出られる体力があって、その道は近づく。厳しい道をあえて飛び込んだ水上の選択が正解だったものとするためにも1年目から勝負だ。
(取材=河嶋 宗一)
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